騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
364 / 568
【短編】

とんだ騒動 (1)

しおりを挟む
「というわけで、俺、ジェラルドと一緒に家を買って暮らすことになったんだ!!」

 その日、首輪の魔力の補給のために近衛騎士団の建物近くに現れたバート少年。
 会った早々、仔犬のディーターにバート少年は飛び掛かられ、王宮の茂みの中で押し倒される。そして首輪を外したかと思うと、いつものように仔犬→成獣→裸の男の順で変身したディーターは、押し倒したバートの上になって、そう報告した。
 バートはディーターの顔を見上げ、それから一糸まとわぬ姿で堂々といるディーターの姿を上から下まで眺める。
 真顔で彼は言う。

「………早くその粗末なモノをしまえ」

「おい、バート、お前いつもヒドイな!!」

 状況の説明が終わると同時の、バートの一言がそれであった。

「それにお前、重いぞ。ちゃんと運動しているのか」

「いつもジェラルドの周りを走り回っているさ、運動はちゃんとしている」

 それは運動と言えるのだろうか。
 確かに、常にジェラルドの周りをぐるぐると走り回ったり、跳ね回ったりしている仔犬のディーターである。相応に運動はしているのだろう。

 ともあれ、ディーターが人の姿になってジェラルドと共に暮らすと決めたことは、二人にとって大きな進展だった。

「まぁ、良かったな。それで住む家の方は決まりそうなのか」

「ジェラルドが今度の休日に、一緒に見に行こうと言ったんだ。王宮にほど近い家を購入しようという話になっていて」

 借りるではなく、買うというところが、さすが侯爵家子息のジェラルドである。そうできる財力があるのだろう。

「家を買ったら、バート、お前達を招待するよ。是非遊びに来てくれよな」

 そう言って無邪気に笑うディーターである。嬉しそうに緑色の瞳を煌めかせている。
 尻尾が後ろで勢いよくブンブンと振っている幻覚まで見える気もする。
 なんとなく、彼が仔犬の姿の感覚のままバートはディーターの頭に手をやり、乱暴に撫でた。

 その時、茂みが大きく揺れた。




 エドワード王太子殿下の命令により、侍従から侍従の見習いにその地位を落とされ、バート少年の側付き兼仔犬のディーターの世話係を命ぜられたリュイとラーナ。
 二人は、バート少年が王宮へやって来ているという話を他の女官や侍従達から聞くと(いつもいつの間にか王宮にバート少年は姿を現していた。事前に連絡をして欲しいとリュイとラーナから頼まれていたが、一切、バートは彼らの言葉を無視していた)、慌ててその現れた場所に駆けつけるが、多くの場合彼がすでに立ち去った後である。
 だが、どうも近衛騎士団の建物近くで、黒い仔犬のディーターと会っているとの話を聞く。
 ちょうどその仔犬の世話係を頼まれているリュイとラーナは、その都度、仔犬が喜びそうな餌を手に近衛騎士団の建物近くまでやって来るが、時すでにバート少年が立ち去った後であったりする。

 バート少年付であるのに、毎度毎度、彼の姿を見失ってしまう侍従見習いのリュイとラーナであった。
 そこで今回は、バート少年が現れたと聞くや、最初から近衛騎士団の建物近くまで全力で走り、そして付近で彼の姿を探し回っている時、茂みから聞こえる声に気が付いたのだ。
 果たして、彼はそこにいるのかと茂みを分け入ったところで。

 リュイとラーナは凍りついた。


 そこにいたのは、浅黒い肌の大柄な男に押し倒されているバートの姿であったからだ。
 それも男の方は素っ裸である。

 バートの茶色の瞳と、リュイとラーナの瞳が交差する。
 次いでリュイとラーナの、絹を引き裂くような悲鳴が響き渡った。

「バート様!!!!」
「この狼藉者!!!!」

 すぐさま近寄ろうとする二人を前に、バートは小声で「しまった」と呟き、ディーターの手に素早く首輪を握らせた。

「森へ逃げろ」

 それも小声で伝える。
 ディーターは頷いて、首輪を手に走り出す。

 悲鳴が聞こえたために、近くの近衛騎士の建物から騎士達が走り出てくる。
 彼らに捕まるのはマズイと、ディーターは茂み伝えに森の中へ入るとすぐさま狼の姿になった。
 そして猛スピードで森の奥へ奥へと走っていく。
 
「怪しい者が出ただと!!」
「どこにいる、探せ!!」

 わらわらと近衛騎士達が建物から出て、リュイとラーナは騎士達に、見た男の人相を話している。
 それと同時に、バートは非常に彼らから気遣われていた。
 どうも彼らの目には、怪しい(変態の)裸の男に、襲われた被害者のように見えていたらしい。
 実際、十五、六の少年の姿の彼を、大柄の裸の男が押し倒している様子はそうとしか見えなかった。
 
「大丈夫ですか、バート様」

 リュイとラーナが心配そうな様子で、バートに声をかける。

「大丈夫だ」

 内心、参ったと思いながらも、ディーターが逃げていった森の方へと視線をやったのであった。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...