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【短編】
とんだ騒動 (1)
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「というわけで、俺、ジェラルドと一緒に家を買って暮らすことになったんだ!!」
その日、首輪の魔力の補給のために近衛騎士団の建物近くに現れたバート少年。
会った早々、仔犬のディーターにバート少年は飛び掛かられ、王宮の茂みの中で押し倒される。そして首輪を外したかと思うと、いつものように仔犬→成獣→裸の男の順で変身したディーターは、押し倒したバートの上になって、そう報告した。
バートはディーターの顔を見上げ、それから一糸まとわぬ姿で堂々といるディーターの姿を上から下まで眺める。
真顔で彼は言う。
「………早くその粗末なモノをしまえ」
「おい、バート、お前いつもヒドイな!!」
状況の説明が終わると同時の、バートの一言がそれであった。
「それにお前、重いぞ。ちゃんと運動しているのか」
「いつもジェラルドの周りを走り回っているさ、運動はちゃんとしている」
それは運動と言えるのだろうか。
確かに、常にジェラルドの周りをぐるぐると走り回ったり、跳ね回ったりしている仔犬のディーターである。相応に運動はしているのだろう。
ともあれ、ディーターが人の姿になってジェラルドと共に暮らすと決めたことは、二人にとって大きな進展だった。
「まぁ、良かったな。それで住む家の方は決まりそうなのか」
「ジェラルドが今度の休日に、一緒に見に行こうと言ったんだ。王宮にほど近い家を購入しようという話になっていて」
借りるではなく、買うというところが、さすが侯爵家子息のジェラルドである。そうできる財力があるのだろう。
「家を買ったら、バート、お前達を招待するよ。是非遊びに来てくれよな」
そう言って無邪気に笑うディーターである。嬉しそうに緑色の瞳を煌めかせている。
尻尾が後ろで勢いよくブンブンと振っている幻覚まで見える気もする。
なんとなく、彼が仔犬の姿の感覚のままバートはディーターの頭に手をやり、乱暴に撫でた。
その時、茂みが大きく揺れた。
エドワード王太子殿下の命令により、侍従から侍従の見習いにその地位を落とされ、バート少年の側付き兼仔犬のディーターの世話係を命ぜられたリュイとラーナ。
二人は、バート少年が王宮へやって来ているという話を他の女官や侍従達から聞くと(いつもいつの間にか王宮にバート少年は姿を現していた。事前に連絡をして欲しいとリュイとラーナから頼まれていたが、一切、バートは彼らの言葉を無視していた)、慌ててその現れた場所に駆けつけるが、多くの場合彼がすでに立ち去った後である。
だが、どうも近衛騎士団の建物近くで、黒い仔犬のディーターと会っているとの話を聞く。
ちょうどその仔犬の世話係を頼まれているリュイとラーナは、その都度、仔犬が喜びそうな餌を手に近衛騎士団の建物近くまでやって来るが、時すでにバート少年が立ち去った後であったりする。
バート少年付であるのに、毎度毎度、彼の姿を見失ってしまう侍従見習いのリュイとラーナであった。
そこで今回は、バート少年が現れたと聞くや、最初から近衛騎士団の建物近くまで全力で走り、そして付近で彼の姿を探し回っている時、茂みから聞こえる声に気が付いたのだ。
果たして、彼はそこにいるのかと茂みを分け入ったところで。
リュイとラーナは凍りついた。
そこにいたのは、浅黒い肌の大柄な男に押し倒されているバートの姿であったからだ。
それも男の方は素っ裸である。
バートの茶色の瞳と、リュイとラーナの瞳が交差する。
次いでリュイとラーナの、絹を引き裂くような悲鳴が響き渡った。
「バート様!!!!」
「この狼藉者!!!!」
すぐさま近寄ろうとする二人を前に、バートは小声で「しまった」と呟き、ディーターの手に素早く首輪を握らせた。
「森へ逃げろ」
それも小声で伝える。
ディーターは頷いて、首輪を手に走り出す。
悲鳴が聞こえたために、近くの近衛騎士の建物から騎士達が走り出てくる。
彼らに捕まるのはマズイと、ディーターは茂み伝えに森の中へ入るとすぐさま狼の姿になった。
そして猛スピードで森の奥へ奥へと走っていく。
「怪しい者が出ただと!!」
「どこにいる、探せ!!」
わらわらと近衛騎士達が建物から出て、リュイとラーナは騎士達に、見た男の人相を話している。
それと同時に、バートは非常に彼らから気遣われていた。
どうも彼らの目には、怪しい(変態の)裸の男に、襲われた被害者のように見えていたらしい。
実際、十五、六の少年の姿の彼を、大柄の裸の男が押し倒している様子はそうとしか見えなかった。
「大丈夫ですか、バート様」
リュイとラーナが心配そうな様子で、バートに声をかける。
「大丈夫だ」
内心、参ったと思いながらも、ディーターが逃げていった森の方へと視線をやったのであった。
その日、首輪の魔力の補給のために近衛騎士団の建物近くに現れたバート少年。
会った早々、仔犬のディーターにバート少年は飛び掛かられ、王宮の茂みの中で押し倒される。そして首輪を外したかと思うと、いつものように仔犬→成獣→裸の男の順で変身したディーターは、押し倒したバートの上になって、そう報告した。
バートはディーターの顔を見上げ、それから一糸まとわぬ姿で堂々といるディーターの姿を上から下まで眺める。
真顔で彼は言う。
「………早くその粗末なモノをしまえ」
「おい、バート、お前いつもヒドイな!!」
状況の説明が終わると同時の、バートの一言がそれであった。
「それにお前、重いぞ。ちゃんと運動しているのか」
「いつもジェラルドの周りを走り回っているさ、運動はちゃんとしている」
それは運動と言えるのだろうか。
確かに、常にジェラルドの周りをぐるぐると走り回ったり、跳ね回ったりしている仔犬のディーターである。相応に運動はしているのだろう。
ともあれ、ディーターが人の姿になってジェラルドと共に暮らすと決めたことは、二人にとって大きな進展だった。
「まぁ、良かったな。それで住む家の方は決まりそうなのか」
「ジェラルドが今度の休日に、一緒に見に行こうと言ったんだ。王宮にほど近い家を購入しようという話になっていて」
借りるではなく、買うというところが、さすが侯爵家子息のジェラルドである。そうできる財力があるのだろう。
「家を買ったら、バート、お前達を招待するよ。是非遊びに来てくれよな」
そう言って無邪気に笑うディーターである。嬉しそうに緑色の瞳を煌めかせている。
尻尾が後ろで勢いよくブンブンと振っている幻覚まで見える気もする。
なんとなく、彼が仔犬の姿の感覚のままバートはディーターの頭に手をやり、乱暴に撫でた。
その時、茂みが大きく揺れた。
エドワード王太子殿下の命令により、侍従から侍従の見習いにその地位を落とされ、バート少年の側付き兼仔犬のディーターの世話係を命ぜられたリュイとラーナ。
二人は、バート少年が王宮へやって来ているという話を他の女官や侍従達から聞くと(いつもいつの間にか王宮にバート少年は姿を現していた。事前に連絡をして欲しいとリュイとラーナから頼まれていたが、一切、バートは彼らの言葉を無視していた)、慌ててその現れた場所に駆けつけるが、多くの場合彼がすでに立ち去った後である。
だが、どうも近衛騎士団の建物近くで、黒い仔犬のディーターと会っているとの話を聞く。
ちょうどその仔犬の世話係を頼まれているリュイとラーナは、その都度、仔犬が喜びそうな餌を手に近衛騎士団の建物近くまでやって来るが、時すでにバート少年が立ち去った後であったりする。
バート少年付であるのに、毎度毎度、彼の姿を見失ってしまう侍従見習いのリュイとラーナであった。
そこで今回は、バート少年が現れたと聞くや、最初から近衛騎士団の建物近くまで全力で走り、そして付近で彼の姿を探し回っている時、茂みから聞こえる声に気が付いたのだ。
果たして、彼はそこにいるのかと茂みを分け入ったところで。
リュイとラーナは凍りついた。
そこにいたのは、浅黒い肌の大柄な男に押し倒されているバートの姿であったからだ。
それも男の方は素っ裸である。
バートの茶色の瞳と、リュイとラーナの瞳が交差する。
次いでリュイとラーナの、絹を引き裂くような悲鳴が響き渡った。
「バート様!!!!」
「この狼藉者!!!!」
すぐさま近寄ろうとする二人を前に、バートは小声で「しまった」と呟き、ディーターの手に素早く首輪を握らせた。
「森へ逃げろ」
それも小声で伝える。
ディーターは頷いて、首輪を手に走り出す。
悲鳴が聞こえたために、近くの近衛騎士の建物から騎士達が走り出てくる。
彼らに捕まるのはマズイと、ディーターは茂み伝えに森の中へ入るとすぐさま狼の姿になった。
そして猛スピードで森の奥へ奥へと走っていく。
「怪しい者が出ただと!!」
「どこにいる、探せ!!」
わらわらと近衛騎士達が建物から出て、リュイとラーナは騎士達に、見た男の人相を話している。
それと同時に、バートは非常に彼らから気遣われていた。
どうも彼らの目には、怪しい(変態の)裸の男に、襲われた被害者のように見えていたらしい。
実際、十五、六の少年の姿の彼を、大柄の裸の男が押し倒している様子はそうとしか見えなかった。
「大丈夫ですか、バート様」
リュイとラーナが心配そうな様子で、バートに声をかける。
「大丈夫だ」
内心、参ったと思いながらも、ディーターが逃げていった森の方へと視線をやったのであった。
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