359 / 560
第二十三章 砕け散る魔剣
第十九話 大妖精の仲裁(下)
しおりを挟む
妖精族の大妖精、ご隠居様と呼ばれる妖精が、直々に人間界へ渡ってきて、レブランの住む屋敷を訪ねてきた。
そのことに吸血鬼達は驚いていた。
彼の目的を聞いて、更に驚いた。
彼は、バーナード騎士団長とレブランの仲裁に入りたいと告げたのだ。
屋敷の応接室に、その大妖精たる老人を迎える。
好々爺たるその顔立ちを見ながら、レブランは思い出した。
この大妖精には、会った覚えがあった。
そして大妖精もまた、レブランを見てすぐに思い出していた。
「レブラン殿にお会いするのも久しぶりのことじゃのう」
「……はい」
「あの時とは、名前も違うから、分からなかった」
もう遥か昔のことだった。
記憶の底をさらうことで、ようやく出てきた記憶だった。
大妖精と呼ばれるだけあって、老人もまた恐ろしいほど長い歳月を生き続けている。
「さて、古馴染みのよしみで、わしの仲裁を受け入れて欲しい。アルセウス王国のバーナード騎士団長という男には、手出しはしないで欲しい」
「なぜ、貴方がそれを求めるのですか」
「彼は、わしの孫の妻の妹の夫の親友じゃ。理由としてはちゃんとある」
その言葉に、部屋にいた吸血鬼達は内心、他人ではないかとツッコミを入れていた。
孫の妻の妹の夫の親友?
どんな関係だ。
「それだけではない。彼らは我々、妖精族の恩人でもある。我々は彼を助ける義務がある」
“黄金のリンゴ”が鳥の魔獣に襲われた時、バーナード騎士団長らが妖精達を助けてくれた。
そして、妖精族は彼らに加護と称号を授けていた。
彼らに“妖精の恩人”“妖精の守護者”という称号を授けたことは、今となって思えば幸いなことだった。
この称号で、彼らが妖精達とは浅からぬ関係にあることが示されるだろう。
レブランは苛立たし気な様子を見せた。
彼がそんな様子を見せることは極めて珍しい。
だが、バーナード騎士団長に関することは、レブランを苛立たせることが多い。
彼については何一つとしてコトが上手く運ぶことがなかったからだ。
率直に、レブランは彼を襲った目的を告げた。
「私は、彼の持つ魔剣が欲しいのです。彼がそれを譲ってくだされば、彼に手だしは致しません」
「白い宝珠が埋まっている魔剣じゃな」
レブランが求めているのは、魔剣ではない。
魔剣に埋まっているその宝珠が目的なのだ。
大妖精たる老人は察していた。
そして、微笑みながらこう言った。
「その魔剣は、我々妖精からの贈り物ゆえに、騎士団長も手放せないのじゃ。ですので、これで」
老人はそっと、懐から大きな白い宝珠を取り出し、テーブルの上に置いた。
それはあの魔剣に埋まっていた宝珠とほぼ同一の大きさの宝珠であった。
レブランは息を呑む。
「これで、満足していただきたいのう。もし受け取って頂けるのならば、今後一切、バーナード騎士団長には手出しはしないと約束して頂きたいのじゃが」
レブランは宝珠を食い入るように見つめた後、絞り出すような声で言った。
「…………分かりました。お約束しましょう。今後、バーナード騎士団長には手出しは致しません」
大妖精たる老人は満足そうに頷いた。
「ではこれで、約束は相成ったということで」
そして早々に、大妖精はその場から立ち去って行った。
二人は旧交を温めることも無かった。
レブランは、大妖精が残していった大きな白い宝珠を手に取る。
バーナード騎士団長の持つ魔剣からの宝珠は手に入れられなかったが、この宝珠が手に入ったことは喜ばしい。
それに、バーナード騎士団長の魔剣も、見張り続ければいいことだった。
彼の死後ならば、妖精達との約束を違えることもないだろう。
それまで、長い時を生きる吸血鬼たる自分なら、待つことができる。
今までだって十分待ったのだ。
これからだって待てるだろう。
不愉快であったが、そう納得させるしかなかった。
その一方で、疑問を抱いた。
レブランが今、手にしている白い宝珠は間違いなく、“神の欠片”である。
多くの魔術師達が、まさしく錬金の材料として求める宝のようなその力の源を、大妖精はやすやすと手放していた。
バーナード騎士団長を助けるために。
その理由を彼は幾つか挙げていたが、いずれもこの白い宝珠を手放すという代償を払ってまで、騎士団長を救う理由にはなっていなかった。
だからこそ、今もまだ、何故そこまでして大妖精があの騎士団長の男を助けようとするのか、レブランには分からず、それもまた不快であった。
だが、約束は守らなければならない。
レブランは下僕たる吸血鬼達に、今後、バーナード騎士団長を襲うことはないように命じたのであった。
そのことに吸血鬼達は驚いていた。
彼の目的を聞いて、更に驚いた。
彼は、バーナード騎士団長とレブランの仲裁に入りたいと告げたのだ。
屋敷の応接室に、その大妖精たる老人を迎える。
好々爺たるその顔立ちを見ながら、レブランは思い出した。
この大妖精には、会った覚えがあった。
そして大妖精もまた、レブランを見てすぐに思い出していた。
「レブラン殿にお会いするのも久しぶりのことじゃのう」
「……はい」
「あの時とは、名前も違うから、分からなかった」
もう遥か昔のことだった。
記憶の底をさらうことで、ようやく出てきた記憶だった。
大妖精と呼ばれるだけあって、老人もまた恐ろしいほど長い歳月を生き続けている。
「さて、古馴染みのよしみで、わしの仲裁を受け入れて欲しい。アルセウス王国のバーナード騎士団長という男には、手出しはしないで欲しい」
「なぜ、貴方がそれを求めるのですか」
「彼は、わしの孫の妻の妹の夫の親友じゃ。理由としてはちゃんとある」
その言葉に、部屋にいた吸血鬼達は内心、他人ではないかとツッコミを入れていた。
孫の妻の妹の夫の親友?
どんな関係だ。
「それだけではない。彼らは我々、妖精族の恩人でもある。我々は彼を助ける義務がある」
“黄金のリンゴ”が鳥の魔獣に襲われた時、バーナード騎士団長らが妖精達を助けてくれた。
そして、妖精族は彼らに加護と称号を授けていた。
彼らに“妖精の恩人”“妖精の守護者”という称号を授けたことは、今となって思えば幸いなことだった。
この称号で、彼らが妖精達とは浅からぬ関係にあることが示されるだろう。
レブランは苛立たし気な様子を見せた。
彼がそんな様子を見せることは極めて珍しい。
だが、バーナード騎士団長に関することは、レブランを苛立たせることが多い。
彼については何一つとしてコトが上手く運ぶことがなかったからだ。
率直に、レブランは彼を襲った目的を告げた。
「私は、彼の持つ魔剣が欲しいのです。彼がそれを譲ってくだされば、彼に手だしは致しません」
「白い宝珠が埋まっている魔剣じゃな」
レブランが求めているのは、魔剣ではない。
魔剣に埋まっているその宝珠が目的なのだ。
大妖精たる老人は察していた。
そして、微笑みながらこう言った。
「その魔剣は、我々妖精からの贈り物ゆえに、騎士団長も手放せないのじゃ。ですので、これで」
老人はそっと、懐から大きな白い宝珠を取り出し、テーブルの上に置いた。
それはあの魔剣に埋まっていた宝珠とほぼ同一の大きさの宝珠であった。
レブランは息を呑む。
「これで、満足していただきたいのう。もし受け取って頂けるのならば、今後一切、バーナード騎士団長には手出しはしないと約束して頂きたいのじゃが」
レブランは宝珠を食い入るように見つめた後、絞り出すような声で言った。
「…………分かりました。お約束しましょう。今後、バーナード騎士団長には手出しは致しません」
大妖精たる老人は満足そうに頷いた。
「ではこれで、約束は相成ったということで」
そして早々に、大妖精はその場から立ち去って行った。
二人は旧交を温めることも無かった。
レブランは、大妖精が残していった大きな白い宝珠を手に取る。
バーナード騎士団長の持つ魔剣からの宝珠は手に入れられなかったが、この宝珠が手に入ったことは喜ばしい。
それに、バーナード騎士団長の魔剣も、見張り続ければいいことだった。
彼の死後ならば、妖精達との約束を違えることもないだろう。
それまで、長い時を生きる吸血鬼たる自分なら、待つことができる。
今までだって十分待ったのだ。
これからだって待てるだろう。
不愉快であったが、そう納得させるしかなかった。
その一方で、疑問を抱いた。
レブランが今、手にしている白い宝珠は間違いなく、“神の欠片”である。
多くの魔術師達が、まさしく錬金の材料として求める宝のようなその力の源を、大妖精はやすやすと手放していた。
バーナード騎士団長を助けるために。
その理由を彼は幾つか挙げていたが、いずれもこの白い宝珠を手放すという代償を払ってまで、騎士団長を救う理由にはなっていなかった。
だからこそ、今もまだ、何故そこまでして大妖精があの騎士団長の男を助けようとするのか、レブランには分からず、それもまた不快であった。
だが、約束は守らなければならない。
レブランは下僕たる吸血鬼達に、今後、バーナード騎士団長を襲うことはないように命じたのであった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
1,105
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる