騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十三章 砕け散る魔剣

第十六話 送り込まれた刺客達(上)

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 アルセウス王国の国境沿いの村が、大型魔獣に襲われたという報告が王都へ届けられ、すぐさま国王の命令で王立騎士団のバーナード騎士団長以下の騎士達が現地へ向かう。
 ここ最近の隣国への魔獣の出没の報告を受けて、国内での大きな被害を懸念した陛下はバーナード騎士団長に竜剣ヴァンドライデンを持たせた。
 国宝であるその剣は、斬れぬものはないと謳われる魔剣である。
 有難くその剣を押し戴いて、バーナードは出発した。

 共に派遣される大隊長のフレデリックは、バーナードに言った。

「団長のあの、白い珠の魔剣は使われないのですね」

 大隊長フレデリックは、レブラン教授がバーナード騎士団長の魔剣を買い取りたいと言い出した場に居合わせていた。
 竜剣ヴァンドライデンは素晴らしい剣であったが、レブラン教授があれほど欲しがった白い宝珠の魔剣を手にして戦う騎士団長の姿を再び見て見たかったのだ。
 バーナードは、ヴァンドライデンを腰に佩きながら答えた。

「ああ、陛下がヴァンドライデンを貸して下さったのだ。今回はヴァンドライデンを使わせて頂く。それにあの剣は壊れた」

 あの剣は壊れた。
 あの剣は壊れた。
 壊れた……?

 その言葉に、フレデリックの目が見開かれる。

「こ……壊れたですって!!」

「そうだ。砕け散ってしまってもう手元にはない。粉々だ」

 そう言って、バーナードはため息をつく。
 思い出すと、心の中が悲しみに満ちてくる。
 そして次いで、刺客を送ってきたレブランへの怒りもこみあげてくる。

「……団長、あの魔剣はレブラン教授が二十億でも言い値で買い取ると言っていたではありませんか!!」

 よほど、あの札束で叩くように言った教授の言葉が忘れられないのだろう。フレデリックはどこか必死に言っていた。

「壊れたんだから仕方あるまい。もうないんだ。くそ、フレデリック大隊長、今後、あの剣のことを言うな」

 ギロリと不機嫌そうに茶色の瞳で睨まれ、フレデリックは顔を引きつらせて頷いた。

「はい、申し訳ありません」

「分かればいい」

 しかし、フレデリックの頭の中では(二十億とか言われていたあの魔剣が壊れた? 粉々? どうやったら魔剣を壊せるんだ)とぐるぐると疑問の言葉が巡っていた。
 不機嫌になった騎士団長に再度質問をする勇気はなく、フレデリックは黙り込んでいた。



 
 転移魔法陣で国境沿いの村に送り込まれた王立騎士団の騎士達は、早速魔獣の討伐を始める。
 大型魔獣だけでなく、通常の魔獣の出没数も相当なものがあった。
 だが、魔獣討伐に慣れた騎士団の騎士達である。手際よく魔獣達を屠っていく。
 そして大型魔獣は、巨大な熊の魔獣であった。
 巨体を揺らしながら現れた、その熊の大型魔獣をバーナード騎士団長はヴァンドライデンを手に両断する。
 あまりにもあっさりと騎士団長の手で魔獣が倒されたことに、遠くの場所からその様子を眺めていたネリアは呆れていた。
 
(児戯に等しい様子ですね)

 手にしているのは、主レブランの求める白い宝珠の埋まった魔剣ではない。青く輝く刀身のあの剣は、別の魔剣だった。
 高名な、アルセウス王家に伝わる竜剣ヴァンドライデンであろう。
 斬れぬものはないという剣だからこそ、大型魔獣も一刀両断することが出来るのだ。

 迸る血潮の中、その長身の男は剣についた血を払い、鞘にそれをしまった。

(なるほど、これはイザックを倒したとしても不思議はない)

 人間離れした強さを持つ男だった。
 せっかく、“黒の司祭”に命じて呼び出させた大型魔獣も、苦労の甲斐もなく瞬殺されてしまう。
 アルセウス王国の王立騎士団の騎士達は手練れと聞いていたが、その通りの様子で、騎士団長の周りの騎士達も魔獣を粛々と討伐し続けていた。

 そして累々と魔獣の屍が地面に倒れ伏している。仕方がないのですぐさま次の手を下すことにした。
 主も言っていたではないか。

 徹底的に、あの男を攻め立てろ
 死んでくれれば重畳だ
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