騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十三章 砕け散る魔剣

第十四話 剣の本質

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 レブランは、ネリアが地下水路にいた悪魔を信奉する人間達を掌握したという報告を聞いた。
 
「ご苦労だった」

 そう言って、腹心の女を労う。
 だが、そのレブランの表情は今一つ優れなかった。

「どうかなさったのですか」

 ネリアが尋ねると、レブランは深くため息をついて、眉の間を揉むように手をやった。

「どうも、イザックは失敗したらしい。連絡が途切れた上、繋がっている感覚も無くなった」

 その言葉に、ネリアはどこか呆然と立ち尽くした。
 イザックは非常に剣の腕に優れた男であった。更には吸血鬼の能力で底上げされている彼は、今まで一度も負けたことはない。勝負事を好み、優れた騎士や剣士を見つけるとすぐに勝負を挑むところが珠にキズであったが。
 剣に優れたイザックをレブランは護衛として側に置いていたくらいだった。
 イザックは、隣国であるアルセウス王国のバーナード騎士団長の許へ旅立ち、彼を倒してでも彼の持つ魔剣を奪うように命ぜられていた。
 そのイザックからの連絡が途切れたというのだ。
 ならば、あのバーナード騎士団長によって倒されたということなのか。

「彼は……バーナード騎士団長とは何者なのですか」

 イザックほど強い男を倒したのである。普通の人間ではない。
 レブランも言っていたではないか。彼は高位の魔族だろうと。
 だが、これほど強い魔族であるとは思わなかった。
 
「それが分からないから困っている。彼は、“欠片”の入った剣を持っていた。だから何としてもそれは手に入れなければならなかった」

「…………」

「話した様子では、あの珠が“欠片”の入ったものだとは気が付いていないようだった」

「その価値も分からず、剣を持っているというわけですね」

「そうだ。気付かれずに手に入れられると良いと思っていたが。よもや、イザックの方が倒されるとは思いもしていなかったな」

 レブランは乾いた笑い声を上げる。
 ひとしきり笑った後、またため息をついた。
  
「“黒の司祭”は魔獣を呼び出せるほどの知能はまだ残っているか?」

「はい」

 さすが司祭位についていた男である。吸血鬼になった後もまだ知性は残っていた。

「“黒の司祭”を、他の吸血鬼ともどもアルセウスとの国境沿いに送れ。そしてあの国に魔獣を送り込め。使わない吸血鬼は全部、バーナード騎士団長の元へ送り込め」

「はい」

「徹底的に、あの男を攻め立てろ。死んでくれれば重畳だ」

「分かりました」

「そして剣を回収しろ。あの剣は絶対に手に入れなければならない」

 剣に埋められていた白い珠は、大きな“欠片”だった。
 過去、名の知れた魔術師が造り上げた魔剣だったのだろう。名工がその刃を鍛え上げ、切れ味の優れた剣とした。だが、あまりにもあの珠の力が強すぎた。当然だ。あれは“欠片”が入っていたのだから。

 大神の持つ剣でその魂を砕かれた神の“欠片”
 この地上に散らばり落ちて、人の子の魂の中に紛れ込むこともあれば、“錬金術”の材料となることもあったそれ。
 時にそれが、魔剣の材料に使われることを、レブランは知っていた。
 だから、それを回収するためにレブランは長い間、魔剣を探し続けていたのだ。
 レブランが、その“欠片”を人の世界で拾い集めていることを、ネリアは知っていた。
 だから、バーナード騎士団長がその大きな破片を持つというのならば、是非にでもそれは手に入れなければならない。
 それが主の第一の望みであるからだ。
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