騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十二章 愛を確かめる

第二話 冬の休暇申請

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 近衛騎士のジェラルドは、先ほど見た光景に自分でも頬が熱くなり、興奮していることが分かっていた。
 
(彼は、あの人だ)

 そう、大雨の時、川の濁流の中から救ってくれた人。異国めいた浅黒い肌に緑の瞳の大柄な若者だった。

(僕を助けてくれた)

 叩きつけるような雨の中、自分を抱き上げながら、彼は言った。

『必ず俺が助けてやるから』

 そう言ったあの人は、あれ以来、姿を見ることはなかった。
 洞窟でもそばにいたのは、王立騎士団のバーナード騎士団長とフィリップ副騎士団長の二人で、彼の姿はなかった。
 そのことに、ジェラルドは内心気落ちしていた。

 御礼の一言も伝えることができなかった。
 今度会ったら、必ず御礼を言おうと思っていたのに。

(なのに……)

 再会した彼は、あのバート少年と二人で茂みの中にいた。少年の手を握って、裸で……。
 そう、何故か裸だった。
 
 ジェラルドは近衛騎士団の建物に戻ると、ガンと拳で壁を叩いていた。
 その無表情で叩く様子に、近くにいた近衛騎士達がビクリと身を震わせる。
 ジェラルドの周囲にはどこかピリピリとした空気が漂っていた。

(あの人は裸だった)
 
 茂みにしゃがみこんで、二人で会っているなんて、やはりあれは、逢引きだったのだろうか。
 そして茂みの中で何をしていたんだろうか。

 ジェラルドとて子供ではない。若い男二人が茂みの中で、片方は裸だとすると、やはり想像するのは逢引きの上での性交しか考えられなかった。
 あの茂みの中で、事に及ぼうとしていたのだろうか。

 ジェラルドの拳がまた、ガンと壁を叩いていた。

 いつの間にやら、建物の中に戻って来ていた仔犬のディーターは、ジェラルドが拳で壁を叩いている様子を見て、これまたビクリと身を震わせている。
 どうしたのだろうと、ディーターは窺うようにジェラルドを見上げると、ジェラルドは取ってつけたような笑顔で、仔犬を見つめて抱き上げた。

「ああ、戻って来たんだね、ディーター。寒いんだから、あまり外をふらふらしない方がいいよ」

 仔犬は理解したように頷くが、少しばかり怯えたようにジェラルドの様子を眺めていた。



   *



「というわけで、今度の休暇に北方地方へ行こうと思う」

 バーナード騎士団長が、王立騎士団の拠点に戻ると、彼はデスクの椅子にどっかりと座ってそう言った。
 仔犬の姿をとっているディーターが、魔力が切れて人間の姿に戻ってしまうことを避けるために、旅行先の北方地方にもバーナードに来て欲しいというのだ。

「夏の旅行も北方地方でしたが、冬もそうなのですね」

「そうなるな」

 副騎士団長のフィリップは、「まぁ、冬の北方地方もいいものかも知れませんね」と言った。
 その言葉に、バーナードは「そうなのか」と尋ねてきた。

 フィリップは団長のスケジュールの書かれた紙をめくりあげながら、答えていた。

「北方地方は、冬になれば豪雪ですが、最近ではこの豪雪を活かした観光にも力を入れているといいます。雪まつりというのでしょうか。雪による見事な像を作り上げたり、明りを灯した雪で作った家などもあって、なかなか楽しめるといいますよ」

「ふむ」

 バーナードは顎に手を当て、それから思い出したように言った。

「そうだ、あと、アイスフィッシングもできるはずだな!!」

「………………」

 湖の氷に穴を開けて、釣り糸を垂らして気長に氷上でワカサギなどが釣れるのを待つのだ。
 バーナード騎士団長の目が、少年のようにキラキラと輝いているのを見て、内心フィリップはため息をついていた。
 極寒の北方地方で、それも氷上での釣りなど絶対にフィリップ副騎士団長はやりたくなかった。
 フィリップ副騎士団長の無言の様子を見て、バーナードは言った。

「俺一人で釣りはするから、お前はお前で好きに行動すればいい」

「…………折角の旅行なのに、つれないですね」

「なら、お前も釣りをするか? お前の分の釣り竿も用意するぞ」

「………………遠慮させて頂きます」

 その後、フィリップ副騎士団長は、近衛騎士団の知り合いからうまいことジェラルドの休暇予定を聞き出し、そしてその日程に合わせてバーナード騎士団長との休暇を申請した。
 相変わらず、王立騎士団のトップ二人の不在は、四日以上は許されないというので、四日間の休暇申請を届け出たのであった。
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