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第十七章 金色の仔犬と最愛の番
第十九話 彼も好きなようだ
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「元気そうだな、ディーター」
今は少年バートの姿をとるバーナード騎士団長は、走り寄ってきた黒い仔犬ディーターを抱き上げた。
ディーターはバートを見ても、尻尾を振っている。
それが可愛くて、犬好きのバートも目を和ませていた。
黒々とした毛並みの艶もよく、目も光に満ちている。
先刻まで、楽しそうに走り回っている様子を見ても、心配はいらないだろうと思った。
ディーターの首にはめられている首輪の黒い石に、“若返りの魔道具”の魔石に魔力を込めながら、バートは言った。
「まだ、近衛騎士団にいるつもりか?」
その問いかけに、ディーターはコクコクと頷いている。
彼は仔犬のような身なりをしていながらも、人語を解するのだ。
ディーターが仔犬の姿のまま、近衛騎士団の中に入り込み、生活するようになって一か月超が過ぎようとしていた。
仔犬を撫で回しながら、バートは視線を前にやる。
訓練を続ける近衛騎士団員達は、自分の方を気になるようにチラチラと眺め、そのうちの一人の柔らかそうな金髪の綺麗な顔立ちの若者は、敵意すら見せて自分を見つめている。
「おい……お前の番だという奴は、どうしてあんなに俺のことを睨むんだ」
バートが仔犬に尋ねると、仔犬は首を傾げ、クゥンと鳴いていた。
役に立たない仔犬だった。
「お前、ずっとあいつと一緒にいるんだろう。理由くらい知っているだろう」
ますます首を傾げている仔犬。そのままだと首がもげるのではないかと思う程、傾げている。そんな仔犬を見てバートはため息をついた。
「まぁ……いいか。嫌になったら近衛騎士団を出てくるんだぞ」
仔犬はワンと吠えた。
いや、ワンと吠えるのもおかしいだろう。本当は狼なのに……。
すっかり軟弱な仔犬になってしまったなと、どこか憐れむような視線でバートは仔犬を眺めていた。
牙を無くした狼になってまでも、番のそばにいたいというのか。
その一途さが、報われると良いのだが。
そんなことをつらつらと思いながら、バートが仔犬を撫でていると、あのディーターの番だという若者、近衛騎士ジェラルドが近づいて来た。
どこか遠目から、警戒するように眺めるしかなかった近衛騎士達の中で、初めて反応しようとする彼のことを、バートは静かに見つめた。
「その子はうちの騎士団のものなんだけど、そろそろ返してもらえるかな」
近衛騎士ジェラルドは、そう言った。
近衛騎士団の所有物になっているのかと、腕の中の仔犬を見つめて、思い出した。
「……王家のメダルを付けているから、近衛のものじゃない」
そう、王太子エドワードが、ディーターの首輪に勝手に王家の紋章の刻まれた金色のメダルを付けさせたのだ。
今もそれがディーターの胸元で燦然と輝いている。
その言葉に、ジェラルドは整った眉をしかめている。
「王家の方々のものではありますが、わたくしども近衛騎士団が面倒を見ているのです。さぁ、早く渡して下さい」
バートは少しばかり不機嫌な顔をしているジェラルドをじっと見つめた。
(この番だという奴は、仔犬の状態でありながらもこのディーターのことを相当好きなのだな。それで、俺がこいつを抱いていることに不機嫌になっている)
そして、自分の腕の中でジタバタともがいて、ジェラルドの方へ行こうとしている仔犬を見つめた。
(良かったな、ディーター。少しはお前の想いも報われているようだ)
地面に下ろすと、ディーターである仔犬はすぐさまジェラルドの足元に近寄って、身をすり寄せる。
その仔犬の体をジェラルドは抱き上げて、ぎゅっと抱きしめていた。
そしてまたバートを睨むように見てから、近衛の建物に戻っていく。
(あいつ、ちょっと仔犬のディーターのこと好きすぎるんじゃないか?)
と少しばかり、そんなジェラルドのことを呆れて眺めていた。
今は少年バートの姿をとるバーナード騎士団長は、走り寄ってきた黒い仔犬ディーターを抱き上げた。
ディーターはバートを見ても、尻尾を振っている。
それが可愛くて、犬好きのバートも目を和ませていた。
黒々とした毛並みの艶もよく、目も光に満ちている。
先刻まで、楽しそうに走り回っている様子を見ても、心配はいらないだろうと思った。
ディーターの首にはめられている首輪の黒い石に、“若返りの魔道具”の魔石に魔力を込めながら、バートは言った。
「まだ、近衛騎士団にいるつもりか?」
その問いかけに、ディーターはコクコクと頷いている。
彼は仔犬のような身なりをしていながらも、人語を解するのだ。
ディーターが仔犬の姿のまま、近衛騎士団の中に入り込み、生活するようになって一か月超が過ぎようとしていた。
仔犬を撫で回しながら、バートは視線を前にやる。
訓練を続ける近衛騎士団員達は、自分の方を気になるようにチラチラと眺め、そのうちの一人の柔らかそうな金髪の綺麗な顔立ちの若者は、敵意すら見せて自分を見つめている。
「おい……お前の番だという奴は、どうしてあんなに俺のことを睨むんだ」
バートが仔犬に尋ねると、仔犬は首を傾げ、クゥンと鳴いていた。
役に立たない仔犬だった。
「お前、ずっとあいつと一緒にいるんだろう。理由くらい知っているだろう」
ますます首を傾げている仔犬。そのままだと首がもげるのではないかと思う程、傾げている。そんな仔犬を見てバートはため息をついた。
「まぁ……いいか。嫌になったら近衛騎士団を出てくるんだぞ」
仔犬はワンと吠えた。
いや、ワンと吠えるのもおかしいだろう。本当は狼なのに……。
すっかり軟弱な仔犬になってしまったなと、どこか憐れむような視線でバートは仔犬を眺めていた。
牙を無くした狼になってまでも、番のそばにいたいというのか。
その一途さが、報われると良いのだが。
そんなことをつらつらと思いながら、バートが仔犬を撫でていると、あのディーターの番だという若者、近衛騎士ジェラルドが近づいて来た。
どこか遠目から、警戒するように眺めるしかなかった近衛騎士達の中で、初めて反応しようとする彼のことを、バートは静かに見つめた。
「その子はうちの騎士団のものなんだけど、そろそろ返してもらえるかな」
近衛騎士ジェラルドは、そう言った。
近衛騎士団の所有物になっているのかと、腕の中の仔犬を見つめて、思い出した。
「……王家のメダルを付けているから、近衛のものじゃない」
そう、王太子エドワードが、ディーターの首輪に勝手に王家の紋章の刻まれた金色のメダルを付けさせたのだ。
今もそれがディーターの胸元で燦然と輝いている。
その言葉に、ジェラルドは整った眉をしかめている。
「王家の方々のものではありますが、わたくしども近衛騎士団が面倒を見ているのです。さぁ、早く渡して下さい」
バートは少しばかり不機嫌な顔をしているジェラルドをじっと見つめた。
(この番だという奴は、仔犬の状態でありながらもこのディーターのことを相当好きなのだな。それで、俺がこいつを抱いていることに不機嫌になっている)
そして、自分の腕の中でジタバタともがいて、ジェラルドの方へ行こうとしている仔犬を見つめた。
(良かったな、ディーター。少しはお前の想いも報われているようだ)
地面に下ろすと、ディーターである仔犬はすぐさまジェラルドの足元に近寄って、身をすり寄せる。
その仔犬の体をジェラルドは抱き上げて、ぎゅっと抱きしめていた。
そしてまたバートを睨むように見てから、近衛の建物に戻っていく。
(あいつ、ちょっと仔犬のディーターのこと好きすぎるんじゃないか?)
と少しばかり、そんなジェラルドのことを呆れて眺めていた。
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