騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
285 / 560
第十七章 金色の仔犬と最愛の番

第十二話 作戦(中)

しおりを挟む
 バーナード騎士団長は、当然のようにマグル王宮副魔術師長にも声をかけた。
 バーナードの考案する作戦に、彼の協力が必須だったからだ。
 呼び出したマグルは、ディーターとゼイハという人狼族に会うことが出来て、非常に感激していた。

「うわ、人狼族なんてすげぇ。希少種だというのに、ここに三人も揃っているのがすごいな」

 そしてマグルはバーナードの求めるまま、あの“若返りの魔道具”の首輪を用意したのだ。
 今回は二つの首輪を用意している。

「ディーター、そしてゼイハ、狼に姿を変えられるか」

 バーナードがそう尋ねると、二人は勿論と答えた。
 そして一瞬で二人は真っ黒い大きな狼にその姿を変えたのだ。足元にまとっていた服がバサバサと落ちていく。目の前にいるのは、黒くフサフサとした毛並みを持つ立派な成獣の狼であった。
 それに、フィリップは息を飲んだ。

 こんなにもたやすく、意志の力だけで変身できるのか。
 自分も早く、このように自由に変身できるようになりたかった。

「作戦を話そう。お前達は今からこの魔法の首輪をつけて、小型化してもらう」

「「!!」」

「フィリップの時もそうだが、小型化した人狼は随分と可愛くなるようだ。それで、その可愛い小型化した人狼を、近衛騎士団に送り込む。小型化した人狼は可愛すぎて、仔犬にしか見えないぞ」

 バーナード騎士団長は、可愛いを三度もその台詞の中で言っていた。余程、その可愛さに感銘を受けていたことが伺い知れる。

「…………」

 フィリップは額に手を当て、バーナードに何か言いたげな様子であったが、マグル王宮副魔術師長はその作戦を絶賛していた。

「さすがバーナード。あんな可愛いミニ狼になれば、近衛といえど、メロメロになる。王立騎士団の騎士達がそうだったからな!!」

「ああ、そうだろう」

「……団長、そんな……メロメロになるとかはないと思いますよ」

「いや、大丈夫だ。任せろ!!」

 やたらと自信に満ち溢れているバーナード騎士団長。早速二人の人狼の首に、茶色の首輪をはめ、黒い魔石にたっぷりと魔力を込めていった。
 しばらくして、目の前にいたのは真っ黒い小型の狼であった。黒い毛がふさふさとして、ぬいぐるみのような愛らしさである。
 バーナードもマグルも目を輝かせ、一頭ずつ抱き上げては頬ずりをしていた。

「やはり可愛いじゃないか」

「すげぇーかわいい。黒いのもいいな!!」

 あれだけ金色の仔犬になっていた時は、自分のことを絶賛していたのにと、少し面白くないフィリップだった。不機嫌な口調で尋ねる。

「それで、この後はどうするんですか」

「近衛騎士団の拠点にこいつらを迷いこませる。そこで愛想を振りまいてしばらく“飼って”もらえばいい。そしてしばらく近衛騎士団の中にいろ。そうしてジェラルド騎士の情報を得ればいいだろう」

「すげぇ、バーナード。お前の計画は完璧すぎる」

 黒い仔犬のようになったディーターとゼイハも賛同するように吠えていた。
 皆の絶賛に、バーナードは機嫌がよくなっているが、フィリップは不安だった。

「そんなにうまく行きますか。もし、近衛騎士の中に犬嫌いの人間がいたら」

「大丈夫だ。可愛いが最後には絶対に勝つからな!!」

 よく分からない論理を展開するバーナード騎士団長。
 一抹の不安をフィリップ副騎士団長が胸に抱えながら、近衛騎士団の中へ“黒い仔犬を送り込む”作戦はスタートしようとしていた。



 そして翌日、バーナード騎士団長は、二頭の黒い仔犬を王宮へ連れていき、そしてこそっと近衛騎士団の建物前に置いていった。
 既にディーターとゼイハの二人には近衛騎士団の入口の扉の場所は教えていたから、仔犬達はそこからスタスタと入って行く。
 しばらくして建物の中から「かわいい」「うわっ」と喜ぶ近衛騎士達の声が聞こえ、バーナード騎士団長はニヤリと笑って、その場を後にしたのだった。




 王宮のマグル副魔術師の部屋に行くと、満足そうな顔でバーナード騎士団長は「成功した」と言った。
 あんな穴だらけで、ただ「可愛い」だけを押し付ける作戦で成功するのだろうかとフィリップ副騎士団長は心配していたが、なんとかなるのが不思議だった。


 ただ気になったのが。

「あの二人をどうやって回収するんですか?」

 その問いかけに、バーナード騎士団長は「…………そうだな。俺がバートに姿を変えて、様子を見にいってみるかな」とあまり深く考えていない様子だった。
 果たして大丈夫なのだろうかと、作戦の進行に、いささか不安になるフィリップ副騎士団長だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)
BL
【男子校には「姫」がいる……。らしい。】 高校生活最後の年明け、サークはクラスの「姫」に選ばれる事になった。可愛くも美人でもない平凡な自分が何で「姫」?!と思ったが、これはクラスに目ぼしい姫タイプがいなかったC組の、バレンタインに各クラスの「姫」に貢がれた物の数を競う「バレンタイン合戦」の為の秘策だった……。サークの各レジェンド級ヒロイン系を抑えられる可能性…。それが「平凡激烈愛され系」だった……。聞いた事もないその系統だと判断されたサークは、押し切られる形で数カ月だけ「姫」をやる事になったのだが……。それが本人無自覚の熾烈な争いになっていくとは、その時、クラスメイトも本人も思いもしなかったのだ……。 ※この話は「欠片の軌跡」の「if」となります。ですが本編とは全然違う話になっていますので、本編を読んでいなくてもお楽しみ頂けます。 (同じ名前の人が出てくるだけで違う世界の話となりますので、人間関係などもこちらはこちら、本編は本編で異なっています。) ※本編がBL/R-18作品(特殊嗜好作品)となりますので無関係の不特定多数の方の目にとまる様な外部へのリンク付け等お止め下さい。ご配慮頂けますと幸いです。(LGBTQとBL/R-18作品を好む好まないは異なる事項となりますのでご理解頂けますと幸いです。) 【転載禁止】【無許可ダウンロード禁止】

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

おっさん家政夫は自警団独身寮で溺愛される

月歌(ツキウタ)
BL
妻に浮気された上、離婚宣告されたおっさんの話。ショックか何かで、異世界に転移してた。異世界の自警団で、家政夫を始めたおっさんが、色々溺愛される話。 ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

自分のことを疎んでいる年下の婚約者にやっとの思いで別れを告げたが、なんだか様子がおかしい。

槿 資紀
BL
年下×年上 横書きでのご鑑賞をおすすめします。 イニテウム王国ルーベルンゲン辺境伯、ユリウスは、幼馴染で5歳年下の婚約者である、イニテウム王国の王位継承権第一位のテオドール王子に長年想いを寄せていたが、テオドールからは冷遇されていた。 自身の故郷の危機に立ち向かうため、やむを得ず2年の別離を経たのち、すっかりテオドールとの未来を諦めるに至ったユリウスは、遂に自身の想いを断ち切り、最愛の婚約者に別れを告げる。 しかし、待っていたのは、全く想像だにしない展開で――――――。 展開に無理やり要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。 内容のうち8割はやや過激なR-18の話です。

僕が再婚するまでの話

ゆい
BL
旦那様が僕を選んだ理由は、僕が彼の方の血縁であり、多少顔が似ているから。 それだけで選ばれたらしい。 彼の方とは旦那様の想い人。 今は隣国に嫁がれている。 婚姻したのは、僕が18歳、旦那様が29歳の時だった。 世界観は、【夜空と暁と】【陸離たる新緑のなかで】です。 アルサスとシオンが出てきます。 本編の内容は暗めです。 表紙画像のバラがフェネルのように凛として観えたので、載せます。     2024.10.20

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

処理中です...