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第十六章 二人の姫君と黒の指輪
第十四話 夢を渡る(下)
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マグルに、夜になったらフィリップの夢の中へ渡るように言われたバーナードである。
もとからそのつもりであったが、夢を渡れる時間はせいぜい二時間くらいであろうと考えていた。
それはやはり“黒の指輪”の警備が気になるためだ。バーナード騎士団長の宿泊する部屋は、警備を考え、王宮の中でも“黒の指輪”が置かれている部屋にほど近い場所に用意してもらっていた。
本当なら、“黒の指輪”も自分の眠る部屋に置きたいところであったが、ハデス騎士団長が警備のための部屋を用意し、そこに交代で騎士達を詰めさせると言われていた。
それでも、二時間でもフィリップに会えると良いと考えた。
マグルは今、バーナードが本来宿泊する部屋とは別に、“黒の指輪”から離れ、魔道具が作動する部屋を明日の朝まで借りる約束を取り付けてくれた。
その部屋で、バーナードは寝椅子にゴロリと横になった。
そしていつも“夢を渡る”時のように、フィリップのことを考えながら目を閉じ、眠りに落ちる。
きっと夢の中、フィリップは待っているだろうと信じて。
「団長!!!!」
フィリップの夢の中に入った途端、やはり彼は待ち構えていたように飛びついてきた。
熱烈に歓迎してくれる。
抱きついてきて、バーナードのその顔に口づけが無数に落とされる。チュッチュッとずっと音をさせて口づけてくる。
「おい、フィリップ」
やや煩わしいと思う程、熱烈に口づけてくるのだ。彼が両手で押さえ込むようにして口づけてくる体を、手で押した。
「どうして“夢を渡って”くれなかったんですか。毎日毎晩お待ちしていたのに!!!!」
そう彼は詰ってくる。
「“黒の指輪”が、“夢を渡る”力にも制約を課したんだ。渡れなくなっていた」
「…………そうなんですか。でも、ご無事でいらして良かったです。騎士団からの定時の報告は受けておりましたが、貴方にお会いできないともう、私は寂しくて」
フィリップは少しやつれたような有様だった。彼の青い目からポロリと涙が零れ落ちる。
その姿を見て、バーナードは焦った。
「おい、フィリップ、泣くな。たかだか五日会えなかっただけだろう」
「だって、一度も“夢を渡って”きてくれなかったじゃないですか。いったい何かあったのだろうかと心配します」
零れ落ちた涙をバーナードは指で拭った。
「悪かったな。怪我も病気もせずに、元気だとも。指輪の修理もうまくいっている。だから、予定通りあと五日で帰国する。その前に」
バーナードはフィリップの顎を持ち上げて口づけた。フィリップもまたバーナードの体を強く抱きしめつつ、彼の唇を貪っていく。
唇をようやく離した後、バーナード騎士団長は色気もへったくれもないような口調で荒々しくこう言ったのだ。
「さあ、時間がない。さっさとヤルぞ」
実際、フィリップの夢の中には二時間しかいられないのだ。バーナードはフィリップの服の前ボタンを手早く外していく。それにはフィリップは眉を寄せて言った。
「…………もうちょっと情緒というものがありませんか。お前に会えなくて寂しくてたまらなかったとか」
その言葉にバーナードは鸚鵡返しにこう言った。
「お前に会えなくて寂しくてたまらなかった」
「………………」
フィリップはため息をつくと、もう一度噛みつくようにバーナードに口づけた。
「私は貴方に会えなくて、死にほど寂しかったです。愛しています、バーナード」
そう言って、フィリップはバーナードを組み伏せ、彼を愛し始めたのだった。
そして手早く体を重ね合わせ、二時間が経った時、バーナードはまたしても情緒なく「時間だ」と起き上がる。乱れた黒髪を押さえながら立ち上がろうとするその腰にしがみついてくるフィリップに言った。
「警備が気になるから、戻る」
「…………本当に貴方は情緒もないですね。こういう時は“お前と別れるのは胸が張り裂けるほど寂しいが、仕事だから仕方がない。愛している”くらい言ってください」
「お前と別れるのは胸が張り裂けるほど寂しいが、仕事だから仕方がない。愛している」
そのままバーナードは台詞を真顔で言って、フィリップの唇に口づける。
そしてフィリップの髪を、頬を撫で、その美しい若者の顔を目に焼き付けるように見つめていた。
「帰国するまでに、やつれた顔を治しておけ。いいな」
「…………はい。そんなにやつれていますか?」
「ああ。せっかくの美男子が台無しだ。王都一の美貌だというのに」
「貴方がいないと寂しいんです」
その繰り返される言葉に、バーナードは目を細めて、最後にフィリップの瞼に口づけを落とした。
「……俺も寂しい。お前に早く会いたい」
そう彼は耳元で囁くように言って、彼の姿は夢の中から消えたのだった。
最後の言葉は、バーナード騎士団長の口から自然に零れた言葉のようだった。
彼のいなくなった夢の中で、フィリップは「早く、帰国して下さい」と呟くのだ。
バーナード騎士団長の不在は、ひどくフィリップを寂しがらせていた一方、東方の国の姫君や王国の侍女達の積極的なお茶会の求めに、心が折れそうだった。
バーナード騎士団長が帰国して、あの姫君や侍女達の手から早く自分を救い出して欲しかった。もはやそれだけが希望のように思うフィリップであった。
もとからそのつもりであったが、夢を渡れる時間はせいぜい二時間くらいであろうと考えていた。
それはやはり“黒の指輪”の警備が気になるためだ。バーナード騎士団長の宿泊する部屋は、警備を考え、王宮の中でも“黒の指輪”が置かれている部屋にほど近い場所に用意してもらっていた。
本当なら、“黒の指輪”も自分の眠る部屋に置きたいところであったが、ハデス騎士団長が警備のための部屋を用意し、そこに交代で騎士達を詰めさせると言われていた。
それでも、二時間でもフィリップに会えると良いと考えた。
マグルは今、バーナードが本来宿泊する部屋とは別に、“黒の指輪”から離れ、魔道具が作動する部屋を明日の朝まで借りる約束を取り付けてくれた。
その部屋で、バーナードは寝椅子にゴロリと横になった。
そしていつも“夢を渡る”時のように、フィリップのことを考えながら目を閉じ、眠りに落ちる。
きっと夢の中、フィリップは待っているだろうと信じて。
「団長!!!!」
フィリップの夢の中に入った途端、やはり彼は待ち構えていたように飛びついてきた。
熱烈に歓迎してくれる。
抱きついてきて、バーナードのその顔に口づけが無数に落とされる。チュッチュッとずっと音をさせて口づけてくる。
「おい、フィリップ」
やや煩わしいと思う程、熱烈に口づけてくるのだ。彼が両手で押さえ込むようにして口づけてくる体を、手で押した。
「どうして“夢を渡って”くれなかったんですか。毎日毎晩お待ちしていたのに!!!!」
そう彼は詰ってくる。
「“黒の指輪”が、“夢を渡る”力にも制約を課したんだ。渡れなくなっていた」
「…………そうなんですか。でも、ご無事でいらして良かったです。騎士団からの定時の報告は受けておりましたが、貴方にお会いできないともう、私は寂しくて」
フィリップは少しやつれたような有様だった。彼の青い目からポロリと涙が零れ落ちる。
その姿を見て、バーナードは焦った。
「おい、フィリップ、泣くな。たかだか五日会えなかっただけだろう」
「だって、一度も“夢を渡って”きてくれなかったじゃないですか。いったい何かあったのだろうかと心配します」
零れ落ちた涙をバーナードは指で拭った。
「悪かったな。怪我も病気もせずに、元気だとも。指輪の修理もうまくいっている。だから、予定通りあと五日で帰国する。その前に」
バーナードはフィリップの顎を持ち上げて口づけた。フィリップもまたバーナードの体を強く抱きしめつつ、彼の唇を貪っていく。
唇をようやく離した後、バーナード騎士団長は色気もへったくれもないような口調で荒々しくこう言ったのだ。
「さあ、時間がない。さっさとヤルぞ」
実際、フィリップの夢の中には二時間しかいられないのだ。バーナードはフィリップの服の前ボタンを手早く外していく。それにはフィリップは眉を寄せて言った。
「…………もうちょっと情緒というものがありませんか。お前に会えなくて寂しくてたまらなかったとか」
その言葉にバーナードは鸚鵡返しにこう言った。
「お前に会えなくて寂しくてたまらなかった」
「………………」
フィリップはため息をつくと、もう一度噛みつくようにバーナードに口づけた。
「私は貴方に会えなくて、死にほど寂しかったです。愛しています、バーナード」
そう言って、フィリップはバーナードを組み伏せ、彼を愛し始めたのだった。
そして手早く体を重ね合わせ、二時間が経った時、バーナードはまたしても情緒なく「時間だ」と起き上がる。乱れた黒髪を押さえながら立ち上がろうとするその腰にしがみついてくるフィリップに言った。
「警備が気になるから、戻る」
「…………本当に貴方は情緒もないですね。こういう時は“お前と別れるのは胸が張り裂けるほど寂しいが、仕事だから仕方がない。愛している”くらい言ってください」
「お前と別れるのは胸が張り裂けるほど寂しいが、仕事だから仕方がない。愛している」
そのままバーナードは台詞を真顔で言って、フィリップの唇に口づける。
そしてフィリップの髪を、頬を撫で、その美しい若者の顔を目に焼き付けるように見つめていた。
「帰国するまでに、やつれた顔を治しておけ。いいな」
「…………はい。そんなにやつれていますか?」
「ああ。せっかくの美男子が台無しだ。王都一の美貌だというのに」
「貴方がいないと寂しいんです」
その繰り返される言葉に、バーナードは目を細めて、最後にフィリップの瞼に口づけを落とした。
「……俺も寂しい。お前に早く会いたい」
そう彼は耳元で囁くように言って、彼の姿は夢の中から消えたのだった。
最後の言葉は、バーナード騎士団長の口から自然に零れた言葉のようだった。
彼のいなくなった夢の中で、フィリップは「早く、帰国して下さい」と呟くのだ。
バーナード騎士団長の不在は、ひどくフィリップを寂しがらせていた一方、東方の国の姫君や王国の侍女達の積極的なお茶会の求めに、心が折れそうだった。
バーナード騎士団長が帰国して、あの姫君や侍女達の手から早く自分を救い出して欲しかった。もはやそれだけが希望のように思うフィリップであった。
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