騎士団長が大変です

曙なつき

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第十六章 二人の姫君と黒の指輪

第二話 余計な王妃の助言

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 “日々にちにちアルセウス新聞”の美男子ランキングで、王立騎士団副騎士団長フィリップが、二位にという高い順位についたことに、王立騎士団の騎士達はどこか誇らしげだった。
 ウチの副騎士団長は、強い上に、素晴らしい美男子なのだ。もちろん、騎士団長も十七位ではあった。騎士団長もなかなかの美男子であることも忘れてはいない。
 なお、綺麗どころが揃っている近衛騎士団の騎士も、美男子ランキングには結構な人数が入っており、三位、七位、十一位……というように複数人のランキング入りを果たしていた。
 しかし、王立騎士団の騎士達は「二位はうちの副騎士団長だ!!」と鼻高々であった。
 この件に関しては、バーナード騎士団長もとやかく言わずにいた。むしろまだ内心(俺のフィリップ副騎士団長が二位とはおかしい)と思っている様子があるくらいだった。

 王立騎士団と近衛騎士団は、何かと競い合うことが多い。
 剣の実力に関しては、日夜、王都の森にいる魔獣と戦っている王立騎士団の方が上である。しかし、式典などでその美々しい騎士姿を披露することが多い近衛騎士団は、貴族の子弟が多く所属しており、見目も大層麗しい。白と金を基調にした軍装で、近衛騎士達が列を為す姿には、王都の娘達に「ほうっ」と感嘆のため息を漏らさせるほどであった。
 王立騎士団の騎士達は内心(実力ではウチの方が上だ)と思い、近衛騎士団は(王立は粗野な男ばかりだ)と思っていた。いがみ合うまではいかぬが、競い合う感情が騎士達の中にある。それは二つの騎士団が創立された当初からの関係である。
 
 そして今回、王立騎士団の騎士達は(ウチの副騎士団長は、近衛のどんな騎士よりも美しい)という新たな誉れ事が出来てしまったのである。内心近衛騎士達は(何故、フィリップ副騎士団長殿は王立騎士団に所属しているんだ)(あいつは近衛騎士団にいるべき男だろう)と、嫉妬と羨望の思いに駆られていた。いっそのこと、王立騎士団から近衛騎士団にスカウトしてしまいたかったが(実際、過去そうしたことがある。それも一度ではなく、複数回あった)、副騎士団長フィリップは決して首肯することはなかった。彼は王立騎士団に入団した当初から、騎士団長を敬愛していたからだ。(副騎士団長が近衛なんかに行くはずがない)(王立騎士団には国の誇る、武勇でなる騎士団長がいるんだからな)と、ますます王立騎士団の騎士達の鼻は高く伸びている。それに内心、不満で歯噛みする近衛騎士団の騎士達であった。


 そんな中、東方の大国イルメキアの二人の王女が、親善に半島の国々を周遊に来ることになった。
 上の王女は十七歳、下の王女は十五歳という若さである。上の王女は、ゆくゆくは女王として即位する。
 イルメキアは絹の生産や金属細工で有名であり、大陸においても交通の要所にある国で貿易も盛んである。この王国も、イルメキアとは長年友好関係を保っている。
 そして次期女王となる王女が親善旅行で来るならば、彼女らに対して最上級のもてなしをしなければならない。
 王や高官たちがそう考えるのも当然だった。

 そしてそんな王に、王妃が言ったのだ。

「ならば、我が国の誇る見目の麗しい男達も揃えて、歓迎させてはいかがでしょう。綺麗な男は、女からして見ていても楽しいものです。未婚の彼女らが、気に入ってくれて夫の一人として迎えてくれたなら、ますます我が国との友好関係が深まることでしょう」

 王妃はミーハーであった。そして、侍女から差し入れられた“日々アルセウス新聞”の特集ランキング記事も当然、目を通していたのだ。
 そして王妃自身も、ランキングに入った見目麗しい男達を一堂に会して見てみたい気持ちがあった。
 王と高官達は顔を見合わせた。
 とりあえず、王妃の助言も聞き入れてみることにしたのだった。



 御前会議で、その王妃の助言が紹介された時、近衛騎士団の騎士団長は前向きにそれを捉えていたが、王立騎士団のバーナード騎士団長は、小さくため息をついていた。

「綺麗どころとして、我が騎士団の騎士を姫君達のお側に侍らせる気はありません」

 とキッパリと言う。
 周囲の大臣や近衛騎士団長が「そんな堅苦しく考えずに」と言うのだが、バーナード騎士団長は首を縦に振ることはなかった。

「歓迎の宴で、劇団の男優や、近衛騎士達が姫君を歓待することは宜しいかと思います。ですが、王立騎士団は外して頂きたい」

 そう言って、どこか冷ややかな態度であった。
 同席していた王立騎士団副騎士団長のフィリップは、相変わらずの涼しい顔で黙っている。
 騎士団長と副騎士団長が婚姻関係にあり、騎士団長の言葉に、副騎士団長が否と言えるはずもない。そこで副騎士団長に話を向けると、案の定、彼は「団長の意見に同意します」とだけ短く答えた。



 そして、その日、フィリップの屋敷に帰宅したバーナードは、苛立たし気に脱いだマントをソファーに放り投げた。

「まったく、何を考えている。顔だけの男達を、姫君のそばに侍らせるというのか。あわよくば夫にしようというのもなんだ」

「…………団長は嫌なのですね」

「当たり前だ。王立騎士団の騎士としての仕事ではない。近衛がやればいい」

「歓迎の宴には、団長も、私も出席するように言われていますが」

「…………」

 本来なら、騎士団長という身分にあるものとして、外国の要人とは積極的に交流の機会を持つべきである。それをバーナードも理解していた。

「別に歓迎の宴の時でなくともよい。送別の宴の時に、ご挨拶しよう」

「歓迎の宴に、ご出席されない気ですか?」

 まさかそこまで団長が不愉快な気持ちになっているとは思っていなかったフィリップは驚いていた。しかし、バーナードはニヤリと笑った。また何か企んでいる顔である。

「中庭の警備を、王立で引き受けてやろう。近衛は建物内部をしっかり見てくれればいい。王立は建物の外だ。お前と俺も、アリ一匹通さないように、城の中庭で警備するぞ!!」

「………………」

 呆れて、フィリップはため息をついた。

「別に、私は姫君達のお側に侍るのは構わないと思っておりますよ」

「俺が気に食わないんだ」

「…………」

 フィリップは、微笑んで、バーナードの唇に口づけた。

「意外と貴方は独占欲が強いんですね」

「当たり前だろう」

 そしてバーナードは、フィリップの頭の後ろに手をやり、深い口づけを求めたのだった。

「お前の夫だからな」

 現実では妻の立ち位置であったが、それは言わぬ二人であった。
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