騎士団長が大変です

曙なつき

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第十五章 王立魔術学園の特別講師

第十七話 後始末(下)

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 それからフィリップは「すみません」と謝りながらもバートを気絶させ、その体を抱き上げるとすぐさま自身の屋敷に連れ帰った。
 屋敷の寝室に連れ込むと、意識を取り戻した彼と、寝台の上で激しく求めあうことになる。
 散々その身に媚薬を注ぎ込まれたバートは、途中から理性を失い、それこそ獣のように男を求め続けていた。
 “精力が溢れる身”になっていたフィリップだからこそ、バートの際限のない要求に付き合うことができた。
 もしこれが、自分が“人狼”の呪いを受けていなければ、いかなることになっただろうと、ゾッとする思いもある。…………絶対に途中で精力を奪い尽くされて干からびて死んでいただろう。
 それだけ、バートにその身を求められ、貪られたのだった。

 バートがようやく、理性を取り戻したのは二日後だった。
 その茶色の目にいつもの輝きが浮かんでいるのを見て、フィリップは心から安堵した。

「大丈夫ですか」

「…………ああ」

 身を起こすと、ずるりと体の中からフィリップの怒張が抜け、思わずバートは声を上げる。
 太腿を白濁が滴り落ち、寝台の上も乱れ切ったひどい有様だった。
 そんな中でバートの頬に手をやり、フィリップは尋ねた。

「記憶はありますか?」

「……お前の屋敷に来てからは記憶がない。飛んでいるな」

 あの媚薬の効果は凄まじかった。体が熱くなり、疼きが耐えられなくなり男が欲しくて仕方なかった。
 耐えに耐えていた時に、ようやくフィリップの姿を認めたあの安堵の思いはたまらなかった。そして途端に、理性も決壊した。

 バートはフィリップの唇に自身の唇を重ねて、呟くように言う。

「やっぱり、お前が一番いい」

 その言葉にフィリップは微笑んだ。

「貴方にそう言って頂けるのは、光栄です」

 フィリップもまた、そっとバートの唇に自分の唇を重ねたのだった。



 “若返りの魔道具”のビアスを外し、大人の姿に戻ったバーナードは、フィリップを伴ってマグルの住む屋敷に足を運んだ。
 マグルから、屋敷に来てくれと言われていたからだ。
 普通に戻るのに二日かかった。

 部屋に迎えたマグルはそのことに笑っていた。

「二日間、ヤリまくっていたんだろうな」

「…………」

 バーナードは頬を赤く染めて無言だった。実際、その間、時間の感覚を失い、ただ相手を獣のように求めるだけだった。

「バーナード、分かっているとは思うが、お前は媚薬には極端に弱い。“封印の指輪”をしていたからまだ助かったということを理解しておけ。もし指輪をしていなければ、たぶんもっとひどいことになっていた」

 そのマグルの言葉に、バーナードはため息交じりで頷いた。

「ああ」

 “剣豪”と称され、誰よりも強いとされる騎士団長が、媚薬を口に入れられただけであの体たらくである。

「まぁ、普通の人間でも強力な媚薬を盛られたらたまらないけどね……。とにかく、お前は用心した方がいい」

「わかった」

 今回の件でそのことを心底、理解したバーナードであった。そして彼は尋ねた。

「あの男らはどうした? 妙な力を使っていたぞ。何者なんだ」

 マグルは説明し始めた。

「彼ら四人は淫魔だ。それも、あの黒子の男は“淫魔の王”の称号を持つ高位魔族だった」

 フィリップの動きが止まり、彼の目が見開かれていた。

「……“淫魔の王”?」

 その時、フィリップの脳裏には大妖精のご隠居様からかつて聞いた話が蘇った。
 淫魔族は、“淫魔の王女”を探しているという話が。
 だから、その“淫魔の王”は、“淫魔の王女”位を持つバーナードを狙ってきたのではないかと思ったのだ。
 そして、バーナードは“淫魔の王”の称号を持つ淫魔の登場に驚いていた。

「そんな御大層な魔族が、どうして俺なんかに目をつけたんだ」

「……バーナード、お前は王立魔術学園の特別講義の時に、目を付けられたんだよ。信じられない話だが、淫魔達の話だと、特別講義をした講師のレブラン=リヒテンシュタインは、吸血鬼だという。そのレブランに話を聞いて、バートの正体を暴いてやろうと彼らはこの学園にやって来たらしい」

「…………あの教授が?」

 あれほど生徒達に絶大な人気を誇り、貴族ら有力者達の覚えも良い教授が吸血鬼などとは信じられなかった。しかし、ハイスペックすぎるその能力と美貌は吸血鬼族のものだと言われれば、さもありなんという気もしてくる。世に知られている吸血鬼達は、素晴らしい美貌の持ち主ばかりだった。

「ああ。だが幸いなことにバーナード、お前が淫魔で“淫魔の王女”位を持つことはバレていない。ただ、強い力を持つ魔族がいるとだけ認識されている。それがわからないから、彼らは強く好奇心を抱いたんだ」

「……………アーゼン達はあの後、どうなったんだ」

 クラスメイトの安否を心配するバーナードの問いかけに、マグルは安心させるように微笑みながら言った。

「今はまだ療養中だ。記憶も淫魔達に支配されている間のことは欠落しているようで、それは幸いだった。彼らはほとんど覚えていないよ。後遺症もないだろう」

「よかった」

 バーナードは明らかに安堵していた。自分が彼らを巻き込んだようなものなのだ。
 年若い少年達である。彼らに後遺症もないということは本当に良かった。
 しかし、返す返すも憎いのはあの淫魔達だった。

「あの男淫魔は、俺が殺したい」

 キッパリと言うバーナードにマグルは首を振った。
 抱かれそうになった時も、バーナードはあの男を殺すと強く願ったのだ。捕えたのなら、自分のこの手で直接、始末したかった。
 しかし、マグルはそれを止めた。

「だめだ、バーナード」

「なぜだ!! あいつはこともあろうに、魅了を使ってこの俺を」

 この俺を辱めようとしたんだぞと言いかけるバーナードの傍らで、フィリップもまた頷いていた。

「“淫魔の王”だというあの男は、私も斬り殺したいです」

 物騒なことを言う副騎士団長、そして憎しみに目を光らせる騎士団長を見て、マグルはまたため息をついた。

「ああいう魔族の位を持つ者は、代がわりをするんだ。殺したら、その位が次の者に移動する。だから、殺さずに手許に置いて管理する方がいいんだ。魔王位も、魔王が倒されると次代の魔王にふさわしい魔族に位が移動する。それと同じようなシステムだろう」

「…………」

 フィリップとバーナードもそのマグルの説明に無言になる。
 マグルは言葉には出さないが、彼の言葉の奥にある意味を感じ取った。
 もし殺してしまえば、次に引き継いだ“淫魔の王”の位を持つ淫魔が、再びバーナードの前に姿を現す可能性があるというのだ。

「だから、殺さずに僕が管理する。いいかい、バーナード、フィリップ。今回の淫魔族は取り逃がしたということで上には報告してある。そうしなければ、何故、淫魔族がこの学園にやって来たのかその理由を上に話さなければならないからだ。そうすると、どうしてバーナードが淫魔達に狙われたのかも明らかにしなければならない。それはマズイ。バーナードが淫魔であることは隠さないといけないからだ。それはお前にもわかるだろう?」

「……………ああ」

 王国の騎士団長が淫魔であるなんて、とんだ不祥事である。例え自ら望んでそうなったわけではないとしても、見つかればただでは済まないだろう。

「今回、殺してしまうよりも、もうバーナードを狙うことが無いように管理した方がいいんだ。それもわかるよな」

「…………………わかった」

 非常に渋い顔をして、不承不承、バーナードはその意見に同意したのだった。
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