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第十五章 王立魔術学園の特別講師
第十四話 “魅了”の力(下)
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「騎士達が離れましたね」
パラフィンヌは、バートの側からフィリップとマグルが離れたのを認め、まずは一安心した。
あの金髪の騎士からも、何やら強そうな気配を感じていた。それが何であるのかわからないのが不安であり、だからこそ、あの騎士を少年の側から絶対に引きはがさないといけないと考えていた。
高位魔族ではないかと思われる少年とその騎士を同時に相手にするには無理があった。淫魔である彼らには戦力といえるほどの力がない。搦め手で少年を捕えるしかない。
だから、まずは大人二人を少年から引き離さないといけないと考えた。
“魅了”で堕とした少年達から、バートという名の少年が、学園祭にやって来る話を聞いた淫魔達は、これはチャンスだと考えた。
なんとか学園祭でバートを捕まえ、意識を失わせて空き教室に連れ込むのがいいだろう。
学園祭で使用されていない教室については、魅了した職員から聞いていた。
そこでやってしまえばいい。
作戦では、淫魔達は二手に分かれることになる。
“淫魔の王”ウルディヌスと淫魔パラフィンヌは、バート少年の対応をする。そして淫魔ルルとベイグラムは、あの金髪の騎士達をとにかく少年から引き離して時間を稼ぐことが目的だった。
ルルは「あの金髪の騎士を私がもらうから」と、彼を堕とす気満々であった。
バート少年を迎えに来る美貌の騎士を一目見た時から気に入っていたのだ。
応接室に案内した後、ルルは金髪の騎士を“魅了”してモノにする。ベイグラムもそれを手伝うと言っていた。
マグルとフィリップが学園長に会いに行った後、バートは一人になった。
学園の中庭の椅子に座っていた彼は、適当に屋台でも見て回るかと考えて立ち上がった。
先ほどまで食べていた串焼きの肉が思っていた以上に旨かったのだ。あれをもう二、三本食べてもいいだろうと思って、その屋台の方角に足を向けた時、久しぶりに彼らの声が聞こえた。
「バート」
名を呼ばれて振り向くと、そこにはアーゼン、セオドリック、アンドレの三人のクラスメイト達が連れ立っていた。
「久しぶりだな」
バートはパッと喜色を浮かべ、彼らの元に近寄った。
つい先日、アーゼンとアンドレは、わざわざバートとフィリップのために、この学園祭の招待状まで持って来てくれたのだ。あの時は、休み続けている自分の為にそうしてくれた彼らの行為がとても嬉しかった。
「招待状、ありがとう」
バートは礼を口にするが、三人は無言だった。
彼らはバートを取り囲むようにすると、戸惑うバートの腕を掴み、背中を押して歩き出した。
「おい、どこに連れていくつもりだ?」
友人達の様子が少しおかしいと思いながらも、尋ねるバートに、彼らはこう答えた。
「バート、君に会わせたい人がいる」
「上の教室で待っている」
「早く来てくれ」
「なんだ、そいつは誰なんだ」
問いかけるが、アーゼン達は答えない。ただ、バートを強引に手を引いて連れて行こうとするだけだった。
妙だと思いながらも、とりあえず付き合って行ってみるかとバートは考えた。
どちらにしろ、フィリップとマグルが戻って来るまでには少し、時間がかかるだろう。
階段を上り、幾つかの通路を抜け、人気のない教室の一角に辿り着いた時、薄暗い教室の中には一組の男女がいた。教室の中はこの学園祭のために、片側に椅子や机が寄せられている。その作られた空間に彼らは立っていた。
口元に黒子のある、どこか色気に満ちた黒髪の男を一目見て、彼が以前、王立魔術学園の前でバートのことをジロジロと眺めていた男だとすぐに気が付いた。整った顔立ちをしているが、どこか崩れたような何かを感じる。
なぜこの教室にその男がいるのだとバートは当然のことながら、強い警戒心を抱く。その彼の腕を傍らに立っていたセオドリックが突然掴んで、バートの唇を無理やり奪った。
「!?」
あまりにも突然のことで抵抗もできず、唇が重ねられる。
開いた唇から、液体が流し込まれた。慌ててセオドリックの胸を押して離れる。咳き込みながら流し込まれた液体を吐き出すが、少し飲み込んでしまったようだった。
「少しでもそれを飲み込んだら、もうダメだよ。強力な媚薬だから」
クスクスと笑いながら、その黒子のある美しい男は、バートを見つめて言った。
「初めまして、バート君。それからようこそ。君には色々とこれから教えてもらいたいと思っているよ」
媚薬と聞いたバートは青ざめた。
指には“封印の指輪”をはめてある。だから、淫魔のように極端にそれが効くことはないだろう。だが、普通の人間並みには効いてしまう。
何故、彼からこんなことをされるのかわからない。
しかし、先日から続く、尾行などの一連のことは、全部この男達のせいだろうと思った。彼らは何故か、自分を狙っている。
騎士団長である自分を狙ったのか、それとも、バートという少年の身である自分を狙ったのか、わからない。しかし、媚薬を使って力を奪い、その身を狙おうとするなど只事ではない。
「糞ったれ。この変態野郎が」
毒舌を吐くバートの腕を左右からアンドレとアーゼンが掴む。
目の前の男は、バートが少し飲み込んでしまったあの液体は強力な媚薬だと言った。実際、体には急速に媚薬の効果が回り始めているのか、バートの足元がふらつき、体が熱くなってきている。ハァハァと息が上がる。自分を押さえにかかるアンドレとアーゼンの腕を振り払うこともできない。
「君は魔族だよね。何の魔族なのかな。それがわからなくて不思議に思っているんだ」
男の手が伸びて、バートの胸元からボタンを一つずつ外していく。
「とても強力な魔族であることはわかっているんだ。でも、その正体がわからない」
手が開いた前から入って胸元を擦るようにされると、バートは電流が走ったように身を大きく揺らし叫んだ。
「触るな!!」
彼の怒りの感情の発露で、ビリビリビリと圧が走り、空気が震えた。
それには“淫魔の王”ウルディヌスも一瞬動きを止め、アンドレとアーゼン、セオドリックは膝をつく。淫魔のパラフィンヌはガクガクと震えて耐えきれずにしゃがみこんでいた。
「まだ逆らう気があるのか。もっと追加しろ」
媚薬の入った瓶の蓋を開けて、今度はアンドレがそれを口にして、バートの唇にそれを流し込もうとする。
三人の少年達のどこかぼんやりとした様子から、どうやら何らかの魔術が使われて、操られていることを察したバートは、きつく目を釣り上げ、ウルディヌスを睨みつけた。
もがいて逃げようとするが、やはり力が入らない。
「この卑怯者が!!」
「友人にそうしてもらえてお前も嬉しいだろう」
押さえ込まれ、また唇を重ねられて流し込まれる。
目の前がぐるぐると回り始め、息苦しい。心臓の鼓動の音までドクンドクンと響くように聞こえてくる。
パラフィンヌが注意した。
「あまり、媚薬を飲ませると体の負担になります」
媚薬を飲みすぎて、興奮しすぎて心の臓が止まった事例をパラフィンヌは聞いたことがあった。一本でも十分な効果があるはずだった。
だが、ウルディヌスは続けさせていた。
「彼は高位魔族だ、耐えられるだろう」
高位魔族は強い。低位の魔族達とは比べ物にならないほどの力と体を持つ。人間ならば媚薬のこの一本で狂ったように反応するだろうが、高位魔族は意志の力で耐えきれるかも知れない。
周りの者達によってたかって服を脱がされる。彼らの指がその身に少し触れるだけでも、反応が始まり、バートは総毛立ち、耐えようと唇をきつく噛み締めた。
自分でも分かっていた。
無理やり、発情させられそうになっていることに。
媚薬が回り始めている様子を見て、ウルディヌスはにんまりと笑ってその紫色の瞳を少年に向けた。
“魅了”の力を込めて、彼を凝視したのだった。
「さぁ早く、堕ちてくるんだよ」
その両眼を見た時、目の前のウルディヌスの姿が彼の姿に変わって見えた。
常にバーナードのそばに控える、金の髪の美貌の騎士、フィリップの姿に。
パラフィンヌは、バートの側からフィリップとマグルが離れたのを認め、まずは一安心した。
あの金髪の騎士からも、何やら強そうな気配を感じていた。それが何であるのかわからないのが不安であり、だからこそ、あの騎士を少年の側から絶対に引きはがさないといけないと考えていた。
高位魔族ではないかと思われる少年とその騎士を同時に相手にするには無理があった。淫魔である彼らには戦力といえるほどの力がない。搦め手で少年を捕えるしかない。
だから、まずは大人二人を少年から引き離さないといけないと考えた。
“魅了”で堕とした少年達から、バートという名の少年が、学園祭にやって来る話を聞いた淫魔達は、これはチャンスだと考えた。
なんとか学園祭でバートを捕まえ、意識を失わせて空き教室に連れ込むのがいいだろう。
学園祭で使用されていない教室については、魅了した職員から聞いていた。
そこでやってしまえばいい。
作戦では、淫魔達は二手に分かれることになる。
“淫魔の王”ウルディヌスと淫魔パラフィンヌは、バート少年の対応をする。そして淫魔ルルとベイグラムは、あの金髪の騎士達をとにかく少年から引き離して時間を稼ぐことが目的だった。
ルルは「あの金髪の騎士を私がもらうから」と、彼を堕とす気満々であった。
バート少年を迎えに来る美貌の騎士を一目見た時から気に入っていたのだ。
応接室に案内した後、ルルは金髪の騎士を“魅了”してモノにする。ベイグラムもそれを手伝うと言っていた。
マグルとフィリップが学園長に会いに行った後、バートは一人になった。
学園の中庭の椅子に座っていた彼は、適当に屋台でも見て回るかと考えて立ち上がった。
先ほどまで食べていた串焼きの肉が思っていた以上に旨かったのだ。あれをもう二、三本食べてもいいだろうと思って、その屋台の方角に足を向けた時、久しぶりに彼らの声が聞こえた。
「バート」
名を呼ばれて振り向くと、そこにはアーゼン、セオドリック、アンドレの三人のクラスメイト達が連れ立っていた。
「久しぶりだな」
バートはパッと喜色を浮かべ、彼らの元に近寄った。
つい先日、アーゼンとアンドレは、わざわざバートとフィリップのために、この学園祭の招待状まで持って来てくれたのだ。あの時は、休み続けている自分の為にそうしてくれた彼らの行為がとても嬉しかった。
「招待状、ありがとう」
バートは礼を口にするが、三人は無言だった。
彼らはバートを取り囲むようにすると、戸惑うバートの腕を掴み、背中を押して歩き出した。
「おい、どこに連れていくつもりだ?」
友人達の様子が少しおかしいと思いながらも、尋ねるバートに、彼らはこう答えた。
「バート、君に会わせたい人がいる」
「上の教室で待っている」
「早く来てくれ」
「なんだ、そいつは誰なんだ」
問いかけるが、アーゼン達は答えない。ただ、バートを強引に手を引いて連れて行こうとするだけだった。
妙だと思いながらも、とりあえず付き合って行ってみるかとバートは考えた。
どちらにしろ、フィリップとマグルが戻って来るまでには少し、時間がかかるだろう。
階段を上り、幾つかの通路を抜け、人気のない教室の一角に辿り着いた時、薄暗い教室の中には一組の男女がいた。教室の中はこの学園祭のために、片側に椅子や机が寄せられている。その作られた空間に彼らは立っていた。
口元に黒子のある、どこか色気に満ちた黒髪の男を一目見て、彼が以前、王立魔術学園の前でバートのことをジロジロと眺めていた男だとすぐに気が付いた。整った顔立ちをしているが、どこか崩れたような何かを感じる。
なぜこの教室にその男がいるのだとバートは当然のことながら、強い警戒心を抱く。その彼の腕を傍らに立っていたセオドリックが突然掴んで、バートの唇を無理やり奪った。
「!?」
あまりにも突然のことで抵抗もできず、唇が重ねられる。
開いた唇から、液体が流し込まれた。慌ててセオドリックの胸を押して離れる。咳き込みながら流し込まれた液体を吐き出すが、少し飲み込んでしまったようだった。
「少しでもそれを飲み込んだら、もうダメだよ。強力な媚薬だから」
クスクスと笑いながら、その黒子のある美しい男は、バートを見つめて言った。
「初めまして、バート君。それからようこそ。君には色々とこれから教えてもらいたいと思っているよ」
媚薬と聞いたバートは青ざめた。
指には“封印の指輪”をはめてある。だから、淫魔のように極端にそれが効くことはないだろう。だが、普通の人間並みには効いてしまう。
何故、彼からこんなことをされるのかわからない。
しかし、先日から続く、尾行などの一連のことは、全部この男達のせいだろうと思った。彼らは何故か、自分を狙っている。
騎士団長である自分を狙ったのか、それとも、バートという少年の身である自分を狙ったのか、わからない。しかし、媚薬を使って力を奪い、その身を狙おうとするなど只事ではない。
「糞ったれ。この変態野郎が」
毒舌を吐くバートの腕を左右からアンドレとアーゼンが掴む。
目の前の男は、バートが少し飲み込んでしまったあの液体は強力な媚薬だと言った。実際、体には急速に媚薬の効果が回り始めているのか、バートの足元がふらつき、体が熱くなってきている。ハァハァと息が上がる。自分を押さえにかかるアンドレとアーゼンの腕を振り払うこともできない。
「君は魔族だよね。何の魔族なのかな。それがわからなくて不思議に思っているんだ」
男の手が伸びて、バートの胸元からボタンを一つずつ外していく。
「とても強力な魔族であることはわかっているんだ。でも、その正体がわからない」
手が開いた前から入って胸元を擦るようにされると、バートは電流が走ったように身を大きく揺らし叫んだ。
「触るな!!」
彼の怒りの感情の発露で、ビリビリビリと圧が走り、空気が震えた。
それには“淫魔の王”ウルディヌスも一瞬動きを止め、アンドレとアーゼン、セオドリックは膝をつく。淫魔のパラフィンヌはガクガクと震えて耐えきれずにしゃがみこんでいた。
「まだ逆らう気があるのか。もっと追加しろ」
媚薬の入った瓶の蓋を開けて、今度はアンドレがそれを口にして、バートの唇にそれを流し込もうとする。
三人の少年達のどこかぼんやりとした様子から、どうやら何らかの魔術が使われて、操られていることを察したバートは、きつく目を釣り上げ、ウルディヌスを睨みつけた。
もがいて逃げようとするが、やはり力が入らない。
「この卑怯者が!!」
「友人にそうしてもらえてお前も嬉しいだろう」
押さえ込まれ、また唇を重ねられて流し込まれる。
目の前がぐるぐると回り始め、息苦しい。心臓の鼓動の音までドクンドクンと響くように聞こえてくる。
パラフィンヌが注意した。
「あまり、媚薬を飲ませると体の負担になります」
媚薬を飲みすぎて、興奮しすぎて心の臓が止まった事例をパラフィンヌは聞いたことがあった。一本でも十分な効果があるはずだった。
だが、ウルディヌスは続けさせていた。
「彼は高位魔族だ、耐えられるだろう」
高位魔族は強い。低位の魔族達とは比べ物にならないほどの力と体を持つ。人間ならば媚薬のこの一本で狂ったように反応するだろうが、高位魔族は意志の力で耐えきれるかも知れない。
周りの者達によってたかって服を脱がされる。彼らの指がその身に少し触れるだけでも、反応が始まり、バートは総毛立ち、耐えようと唇をきつく噛み締めた。
自分でも分かっていた。
無理やり、発情させられそうになっていることに。
媚薬が回り始めている様子を見て、ウルディヌスはにんまりと笑ってその紫色の瞳を少年に向けた。
“魅了”の力を込めて、彼を凝視したのだった。
「さぁ早く、堕ちてくるんだよ」
その両眼を見た時、目の前のウルディヌスの姿が彼の姿に変わって見えた。
常にバーナードのそばに控える、金の髪の美貌の騎士、フィリップの姿に。
応援ありがとうございます!
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