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第十五章 王立魔術学園の特別講師
第十三話 “魅了”の力(中)
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翌朝、セオドリックとアンドレ、アーゼンは学園の授業にその姿を現した。
三人はどこかぼんやりとした様子があり、授業においても失敗することも多かったが、なんとか普段の生活の姿を取り繕うことができていた。
その様子をおかしいとルーシーは思ったのだが、どこがどうおかしいのか、具体的に彼女は説明することは出来なかった。おかしいと思いながらも日々は過ぎていく。
そしていよいよ、王立魔術学園の学園祭の日を迎えようとしていた。
王立魔術学園はこの王国内で最も権威のある、魔術師の養成学校である。
学園祭も規模が大きく、王都はもちろんのこと、その外からも多くの者達が訪れる。
生徒達の学習の成果を発表する場でもあり、また屋台なども数多く学園内の敷地に並ぶために、魔術の技を見に来ることを目的にしなくても十分に楽しめる祭りだった。やって来るのは子供達はもちろんのこと、カップルや、家族連れも多い。
バーナードは、“若返りの魔道具”を使って少年バートの姿に変え、フィリップと共に私服で学園を訪れていた。
「制服でもよろしかったと思いますが」
「しばらく休むと言ったのだから、制服で学園に来るのはおかしいだろう」
バートは、屋台で買ったらしい串焼きにかぶりつきながら答えた。熱々で肉汁の滴る旨い肉だった。
彼はこの日、言葉通り制服で登校することはやめて、気軽な私服姿をしていた。
「だねー。しばらく休むと言っていたのに、学園祭だけ出席するなんてちょっと恥ずかしいぞ」
学園祭にバーナード(もといバート)とフィリップが遊びに行くと聞いて、王立副魔術師長マグルも同行していた。
「やぁやぁ、この雰囲気は久しぶりだな!!」
マグルは賑やかな学園祭を見ながら、非常に楽しそうな様子である。子供のように目がキラキラと輝いていた。
「お前は本当に耳が早いな。どこから聞きつけて来たんだ」
あきれ顔で、マグルを見てバートがそう言うと、「母校なんだから同然だろう!!」とマグルは言い返した。確かに、王立魔術学園はマグルの母校だった。
「お前の嫁さんも連れてきてやればよかったのに」
バートがそう言うと、マグルは少し顔を赤らめてこう言った。
「その、大事な時期だから、連れてくるのはやめておいた」
その言葉に、バートとフィリップは顔を見合わせた。
「おめでとう、マグル!!」
「おめでとうございます、マグル。先を越されましたね」
その言葉に、バートは(何をこいつはまた言っているんだ)という冷ややかな視線を向けた。
フィリップはその冷たい視線を無視して、マグルに尋ねる。
「ご出産はいつ頃なのでしょう」
「来年の春過ぎだね」
「めでたいな。何か欲しいものがあれば言えよ。何でも買ってやるからな」
バートがその少年の姿に似つかわない太っ腹を見せると、マグルは「ありがたいなー」とニコニコと笑っていた。
二人は幼い頃からの友人で、親友の間柄だった。バートは、マグルの妻カトレーヌが妊娠したという話を聞いて心の底から嬉しそうであった。
「カトレーヌによく似た子が生まれるといいな」
「それはどういう意味なのかな、バート君」
「他意はないぞ。カトレーヌに似た子だと可愛いだろう」
「それで王宮副魔術師長の有能な頭脳があれば、完璧だな」
マグルとバートが言い合うように話している時、三人に声がかかった。
呼び止めたのは王立魔術学園の職員である。
「学園長がお呼びです。騎士様と魔術師様はこちらにいらして下さい」
バート、フィリップ、マグルは顔を見合わせた。
「あれ、僕、学園に来る話、学園長に言っていたっけ」
その問いかけに、職員は無言だった。
「応接室にいらして下さい」
それだけ言って、フィリップとマグルが従ってついて来るのをその場に立って待っている。
マグルは頭に手をやり、首を傾げていたが、学園長の呼び出しとなれば行かざるを得ない。なにくれと学園長にはお世話になっているのだ。
そしてそれはフィリップも同様であった。
「バート、少し離れますが、知らない人についていってはなりませんよ」
フィリップはその場を離れる際に、黒髪の少年にそう注意すると、バートは笑っていた。
フィリップの言い様は、まるで小さな子供に言い聞かせるもののようであった。
「俺を誰だと思っている。そんな知らない奴についていかないぞ。ここで待っているから、早く用事を済ませて戻って来い」
フィリップは心配そうにチラチラと何度も後ろを振り返りながら、その場を後にしたのだった。
三人はどこかぼんやりとした様子があり、授業においても失敗することも多かったが、なんとか普段の生活の姿を取り繕うことができていた。
その様子をおかしいとルーシーは思ったのだが、どこがどうおかしいのか、具体的に彼女は説明することは出来なかった。おかしいと思いながらも日々は過ぎていく。
そしていよいよ、王立魔術学園の学園祭の日を迎えようとしていた。
王立魔術学園はこの王国内で最も権威のある、魔術師の養成学校である。
学園祭も規模が大きく、王都はもちろんのこと、その外からも多くの者達が訪れる。
生徒達の学習の成果を発表する場でもあり、また屋台なども数多く学園内の敷地に並ぶために、魔術の技を見に来ることを目的にしなくても十分に楽しめる祭りだった。やって来るのは子供達はもちろんのこと、カップルや、家族連れも多い。
バーナードは、“若返りの魔道具”を使って少年バートの姿に変え、フィリップと共に私服で学園を訪れていた。
「制服でもよろしかったと思いますが」
「しばらく休むと言ったのだから、制服で学園に来るのはおかしいだろう」
バートは、屋台で買ったらしい串焼きにかぶりつきながら答えた。熱々で肉汁の滴る旨い肉だった。
彼はこの日、言葉通り制服で登校することはやめて、気軽な私服姿をしていた。
「だねー。しばらく休むと言っていたのに、学園祭だけ出席するなんてちょっと恥ずかしいぞ」
学園祭にバーナード(もといバート)とフィリップが遊びに行くと聞いて、王立副魔術師長マグルも同行していた。
「やぁやぁ、この雰囲気は久しぶりだな!!」
マグルは賑やかな学園祭を見ながら、非常に楽しそうな様子である。子供のように目がキラキラと輝いていた。
「お前は本当に耳が早いな。どこから聞きつけて来たんだ」
あきれ顔で、マグルを見てバートがそう言うと、「母校なんだから同然だろう!!」とマグルは言い返した。確かに、王立魔術学園はマグルの母校だった。
「お前の嫁さんも連れてきてやればよかったのに」
バートがそう言うと、マグルは少し顔を赤らめてこう言った。
「その、大事な時期だから、連れてくるのはやめておいた」
その言葉に、バートとフィリップは顔を見合わせた。
「おめでとう、マグル!!」
「おめでとうございます、マグル。先を越されましたね」
その言葉に、バートは(何をこいつはまた言っているんだ)という冷ややかな視線を向けた。
フィリップはその冷たい視線を無視して、マグルに尋ねる。
「ご出産はいつ頃なのでしょう」
「来年の春過ぎだね」
「めでたいな。何か欲しいものがあれば言えよ。何でも買ってやるからな」
バートがその少年の姿に似つかわない太っ腹を見せると、マグルは「ありがたいなー」とニコニコと笑っていた。
二人は幼い頃からの友人で、親友の間柄だった。バートは、マグルの妻カトレーヌが妊娠したという話を聞いて心の底から嬉しそうであった。
「カトレーヌによく似た子が生まれるといいな」
「それはどういう意味なのかな、バート君」
「他意はないぞ。カトレーヌに似た子だと可愛いだろう」
「それで王宮副魔術師長の有能な頭脳があれば、完璧だな」
マグルとバートが言い合うように話している時、三人に声がかかった。
呼び止めたのは王立魔術学園の職員である。
「学園長がお呼びです。騎士様と魔術師様はこちらにいらして下さい」
バート、フィリップ、マグルは顔を見合わせた。
「あれ、僕、学園に来る話、学園長に言っていたっけ」
その問いかけに、職員は無言だった。
「応接室にいらして下さい」
それだけ言って、フィリップとマグルが従ってついて来るのをその場に立って待っている。
マグルは頭に手をやり、首を傾げていたが、学園長の呼び出しとなれば行かざるを得ない。なにくれと学園長にはお世話になっているのだ。
そしてそれはフィリップも同様であった。
「バート、少し離れますが、知らない人についていってはなりませんよ」
フィリップはその場を離れる際に、黒髪の少年にそう注意すると、バートは笑っていた。
フィリップの言い様は、まるで小さな子供に言い聞かせるもののようであった。
「俺を誰だと思っている。そんな知らない奴についていかないぞ。ここで待っているから、早く用事を済ませて戻って来い」
フィリップは心配そうにチラチラと何度も後ろを振り返りながら、その場を後にしたのだった。
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