騎士団長が大変です

曙なつき

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第十五章 王立魔術学園の特別講師

第八話 教授の友人

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 レブラン教授からの指示を受けたお付きの者達は、彼が興味を持った生徒達の調査を進めていく。
 その中で、特に注意を払うように言われた少年の調査には手間がかかった。

 学園の教師の“崇拝者”から得た情報は、非常に少なかった。
 少年は聴講生であり、他の生徒達と同じように毎日学園には通っていない。
 名前程度しかわからなかった。
 有力者からの推薦で、学園に受け入れられたようだ。

 ならば、授業を聴講し終わった後に、後をつけて住んでいる場所を探ろうとしたが、気付かれて撒かれてしまった。
 そうこうしているうちに、レブランは隣国への帰国の時期を迎えた。申し訳なさげに報告するお付きの者達にため息をついて言った。

「調べきれなかったということだな。わかった。別の手を考えておこう」

 レブランは友人に声を掛けることにした。
 そこまですべきかと一瞬考えたが、あの“魔”の気配は尋常ではなかった。
 高位魔族について、吸血鬼族のレブランは長く生きているだけあって、人の世に生きている高位魔族のほとんどすべての者を知っていた。
 だが、あの少年のことをレブランは知らなかった。それゆえの好奇心があった。
 話せばきっと、友人も興味を持ってくれるだろう。
 


 その友人は名をウルディヌスといい、全てのインキュバスを統べると言われる“淫魔の王”であった。
 レブランほどではないが、彼にも多くの付き従う淫魔がいる。
 情報を得るのも容易いはずだ。

 先日の事件で、“淫魔の王女”“淫魔の王子”を失ってしまったウルディヌスは気落ちしている。
 これがいい気晴らしになるだろう。
 
 話を持ちかけられたウルディヌスは興味津々であった。
 元から好奇心旺盛な男である。
 その好奇心から、“火中の栗”を拾うようなところも多々あったが、これまでは自身の幸運と逃げ足の速さから、危機から逃げ出していた。
 その逃げ足の速さをレブランは買っていた。

 レブランがウルディヌスに声をかけると聞いた、お付きのネリアは少しばかり不安そうな顔をしていた。

「ウルディヌス様にご依頼になるのですか」

「ああ、ネリアは不満か?」

「あの方は調子が良く、そそっかしいところが多いです」

 そして男女問わず、人間が大好きで、誰かれ構わず手を出している。それゆえの“淫魔の王”だった。
 貪欲で、淫乱で、お喋りな男だった。
 ネリアは正直、ウルディヌスは苦手な存在だった。

 だが、レブランにとってウルディヌスは古くからの友人で、その付き合いは長い。
 長い一方ではあるが、レブランはウルディヌスをいいように使っている関係でもあった。
 レブランから「面白いからどうだ」と言われれば、ウルディヌスはひょいひょいそこに首を突っ込む。
 先日の“淫魔の王女”“淫魔の王子”が殺された事件も、元はと言えば、レブランがウルディヌスに「淫魔なら“夢を渡って”聖王国の神子を犯しに行けるだろう」と唆したせいである。
 まんまとウルディヌスは、“夢を渡り”、聖王国の神子の護りにつく聖騎士達に殺されそうになった。
 相変わらずの強運と逃げ足の速さで、彼だけが逃げ切り、“淫魔の王女”“淫魔の王子”は斬り殺された。
 さすがにその事件の後には、ウルディヌスは震えあがって、「もう聖王国には絶対に近寄らない!!」と泣きごとを言っていた。
 “淫魔の王”とはいえ、まったく戦闘力のない彼は弱いのだから、最初から近寄らなければいいのにと思う。
 けれど好奇心は抑えきれなかったのだろう。

 そのウルディヌスの性格を、レブランは知り尽くしていた。
 危険な目に遭うこともわかっていてなお、レブランはウルディヌスの耳に囁くのだ。

「面白い話がある」と。

 そして愚かなウルディヌスは、何度失敗を繰り返しても、その火の中、水の中という危険に飛び込むことになる。

 ネリアは吸血鬼である主レブランを非常に尊敬していた。
 だが、同時に彼は恐ろしい人であることを知っていた。
 “淫魔の王女”“淫魔の王子”が殺されたことを聞いて、レブランは嗤っていた。



 そのレブランには可愛がっている淫魔の少年がいる。
 隣国のレブランの立派な屋敷の中、その少年は大事に囲われている。
 “淫魔の王女”“淫魔の王子”が殺されることを、レブランは最初から知っていたような気がしてならなかった。
 殺されるように、レブランは彼らを唆したのだ。

 それもこれも。

 ネリアは瞼の裏で、レブランが寵愛する長い黒髪に紫色の瞳を持つ、その淫魔の姿を思い浮かべた。

 すべて、ラーシェのためだった。
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