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第十五章 王立魔術学園の特別講師
第六話 教授の特別授業
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そしてそのレブラン=リヒテンシュタイン教授に相まみえる機会がやってきた。
王立魔術学園に特別講師として招かれることがあると聞いていたが、早速特別講師として講義するというのだ。
バートは、授業を受講するか迷いがあったが、クラスメイト達には「絶対に参加した方がいい」と強く勧められた。
忙しい教授は、年に一度くらいしか、王立魔術学園へ足を運んで講義をしない。その貴重な機会に巡り合えた幸運を喜ぶべきだという。
アーゼン、アンドレ、セオドリックの三人からは「非常にわかりやすくてためになる授業だから」と説得され、ルーシーからは「とても目の保養になるから」と言われた。
後者はどうでも良かった。
少し調べてみると、レブラン=リヒテンシュタイン教授は何冊も本を出版しており、魔法学の基礎理論について名が知られているというのは本当らしかった。
わかりやすいと生徒達が口々に言うように、図を使ったその本は、バートにとって面白く読めた。
最初は(魔剣を収集家として買い占めるなんてとんでもない教授だ)と憤っていたが、少しばかり見直した。
その特別な授業は、王立魔術学園の大ホールで行われることが決定している。
聞けば、王立副魔術師長のマグルも話を聞きに行くらしい。
そして驚いたことに、当日は王太子エドワードも聴講予定だという。
バートは目立たないよう、大ホールの一番後ろの席にひっそりといようと思った。
レブラン=リヒテンシュタイン教授の授業の当日、大ホールの席は満員だった。
事前に整理券が配られて、その番号札のある者しか入れない。
整理券を手に入れられなかった生徒達は教授の授業を受けられず大層悔しがっていたが、バートはアーゼン達がバートの分も手に入れてくれたので助かった。
大ホールの席に座っている生徒達の興奮とその熱気の凄まじさに、バートは驚いていた。
「レブラン教授に憧れている生徒は多いよ」
アーゼンも目をキラキラと輝かせてそう言う。彼自身も憧れを持っているらしい。
「素晴らしい学識、美形で、教え上手で資産家で憧れるなというのが無理だ」
「……相当、モテるだろうな」
バートが言うと、セオドリックはうなずいた。隣国から留学しに来ている彼は、レブラン教授のことを良く知っている。
「男女問わずにモテる。崇拝者が何人もいるね。老いも若きも彼に夢中だ。常にそばには美しい女達を侍らせている」
視線を前にやると、事前に講義台の準備をしているらしい若く美しい女がそこにいた。
水飲み用のグラスと水の入った水差しを置き、手許の書類をチェックしている。
「そばにいる女も確かに美人だな」
男心をそそるような美しい容姿の女だった。
それも一人ではない。数人がキビキビと働いている。皆、若く美しい女と若く美しい男。周りには綺麗どころを揃えているというわけか。
「教授のそばで働きたいと言う、就職希望者がものすごく多い。だけど、教授のそばで働くにはそれ相応のレベルがないといけない。容姿はもちろんのこと、優秀な頭脳の持ち主ばかりだ。皆、上級魔術師の資格持ちだという」
「ふぅん」
バーナードはセオドリックの話を聞きながら、視線を前の貴賓席にやった。
そこには、この国の王太子エドワードが、護衛の騎士達を連れて座っている。
貴賓席の隣に設けられている関係者席には、王宮副魔術師のマグルの姿もあった。
その他にも、王国の高位貴族や魔術師達がギッシリと席に座っている。
(当代一の人気者だというわけか)
自身の伴侶であるフィリップ副騎士団長と匹敵するくらいの美形の男だという。
(フィリップは、俺が言うのもなんだが、本当に綺麗な男だ。彼と同じくらいの美形だというと、相当なものだろう)
王都一の美形と謳われるフィリップ副騎士団長。初めて彼を見た時は、その美貌に驚いたものだ。
出会ったのは十年以上前になる。それでも、出会った時のことは今でもよく覚えている。
貴族の男に追いかけ回され、困っている彼を助けた。
それからの付き合いだ。まさか、結婚まですることになるとは思ってもみなかった。
そして視線を前にやる。
大金持ちで、博識で、男女問わずに大人気だという美形の男性教授がいよいよ大ホールに入ってこようとしていた。
銀の髪を撫でつけた、痩身の背の高いその男は確かに驚くほどの美形だった。
生徒達はキャーと声を上げるので、お付きの若者達が「静粛に」「静粛に」と声をかけて回っている。
レブラン教授はゆったりとした優雅な足取りで大ホールに入ってきた。
三十代にしか見えないが、実際は四十を軽く越しているという話だった。
「静粛に」と注意されてもなお、生徒達は嬉々と声を上げていた。
やがて教授が講義台の席につき、拡声の魔道具に手をかけると、次第に声をあげる生徒達も大人しくなっていった。
ホール内が静まり返るのを待って、ようやく教授は声を発した。
耳に心地良く響く男の声だった。
その声を聞いて、バートは一瞬身震いした。
ゾクリと背筋が震える思いがある。
(……なんだこれは)
後にマグル王宮副魔術師長にそのことを話すと、彼は「おそらく魅了系の魔力が籠っている可能性がある。天性のものだけど、そういう力がある人間がいる。他者を従わせる力だね。ただ、規制されるほどの力ではない。それをわかって教授は使っているのだろう」と言った。
相手を心地よくさせ、心の奥底まで染み入るような声。他者を従わせる力。
そう言われると、納得ができた。
だが、あまり気に食わなかった。
王立魔術学園に特別講師として招かれることがあると聞いていたが、早速特別講師として講義するというのだ。
バートは、授業を受講するか迷いがあったが、クラスメイト達には「絶対に参加した方がいい」と強く勧められた。
忙しい教授は、年に一度くらいしか、王立魔術学園へ足を運んで講義をしない。その貴重な機会に巡り合えた幸運を喜ぶべきだという。
アーゼン、アンドレ、セオドリックの三人からは「非常にわかりやすくてためになる授業だから」と説得され、ルーシーからは「とても目の保養になるから」と言われた。
後者はどうでも良かった。
少し調べてみると、レブラン=リヒテンシュタイン教授は何冊も本を出版しており、魔法学の基礎理論について名が知られているというのは本当らしかった。
わかりやすいと生徒達が口々に言うように、図を使ったその本は、バートにとって面白く読めた。
最初は(魔剣を収集家として買い占めるなんてとんでもない教授だ)と憤っていたが、少しばかり見直した。
その特別な授業は、王立魔術学園の大ホールで行われることが決定している。
聞けば、王立副魔術師長のマグルも話を聞きに行くらしい。
そして驚いたことに、当日は王太子エドワードも聴講予定だという。
バートは目立たないよう、大ホールの一番後ろの席にひっそりといようと思った。
レブラン=リヒテンシュタイン教授の授業の当日、大ホールの席は満員だった。
事前に整理券が配られて、その番号札のある者しか入れない。
整理券を手に入れられなかった生徒達は教授の授業を受けられず大層悔しがっていたが、バートはアーゼン達がバートの分も手に入れてくれたので助かった。
大ホールの席に座っている生徒達の興奮とその熱気の凄まじさに、バートは驚いていた。
「レブラン教授に憧れている生徒は多いよ」
アーゼンも目をキラキラと輝かせてそう言う。彼自身も憧れを持っているらしい。
「素晴らしい学識、美形で、教え上手で資産家で憧れるなというのが無理だ」
「……相当、モテるだろうな」
バートが言うと、セオドリックはうなずいた。隣国から留学しに来ている彼は、レブラン教授のことを良く知っている。
「男女問わずにモテる。崇拝者が何人もいるね。老いも若きも彼に夢中だ。常にそばには美しい女達を侍らせている」
視線を前にやると、事前に講義台の準備をしているらしい若く美しい女がそこにいた。
水飲み用のグラスと水の入った水差しを置き、手許の書類をチェックしている。
「そばにいる女も確かに美人だな」
男心をそそるような美しい容姿の女だった。
それも一人ではない。数人がキビキビと働いている。皆、若く美しい女と若く美しい男。周りには綺麗どころを揃えているというわけか。
「教授のそばで働きたいと言う、就職希望者がものすごく多い。だけど、教授のそばで働くにはそれ相応のレベルがないといけない。容姿はもちろんのこと、優秀な頭脳の持ち主ばかりだ。皆、上級魔術師の資格持ちだという」
「ふぅん」
バーナードはセオドリックの話を聞きながら、視線を前の貴賓席にやった。
そこには、この国の王太子エドワードが、護衛の騎士達を連れて座っている。
貴賓席の隣に設けられている関係者席には、王宮副魔術師のマグルの姿もあった。
その他にも、王国の高位貴族や魔術師達がギッシリと席に座っている。
(当代一の人気者だというわけか)
自身の伴侶であるフィリップ副騎士団長と匹敵するくらいの美形の男だという。
(フィリップは、俺が言うのもなんだが、本当に綺麗な男だ。彼と同じくらいの美形だというと、相当なものだろう)
王都一の美形と謳われるフィリップ副騎士団長。初めて彼を見た時は、その美貌に驚いたものだ。
出会ったのは十年以上前になる。それでも、出会った時のことは今でもよく覚えている。
貴族の男に追いかけ回され、困っている彼を助けた。
それからの付き合いだ。まさか、結婚まですることになるとは思ってもみなかった。
そして視線を前にやる。
大金持ちで、博識で、男女問わずに大人気だという美形の男性教授がいよいよ大ホールに入ってこようとしていた。
銀の髪を撫でつけた、痩身の背の高いその男は確かに驚くほどの美形だった。
生徒達はキャーと声を上げるので、お付きの若者達が「静粛に」「静粛に」と声をかけて回っている。
レブラン教授はゆったりとした優雅な足取りで大ホールに入ってきた。
三十代にしか見えないが、実際は四十を軽く越しているという話だった。
「静粛に」と注意されてもなお、生徒達は嬉々と声を上げていた。
やがて教授が講義台の席につき、拡声の魔道具に手をかけると、次第に声をあげる生徒達も大人しくなっていった。
ホール内が静まり返るのを待って、ようやく教授は声を発した。
耳に心地良く響く男の声だった。
その声を聞いて、バートは一瞬身震いした。
ゾクリと背筋が震える思いがある。
(……なんだこれは)
後にマグル王宮副魔術師長にそのことを話すと、彼は「おそらく魅了系の魔力が籠っている可能性がある。天性のものだけど、そういう力がある人間がいる。他者を従わせる力だね。ただ、規制されるほどの力ではない。それをわかって教授は使っているのだろう」と言った。
相手を心地よくさせ、心の奥底まで染み入るような声。他者を従わせる力。
そう言われると、納得ができた。
だが、あまり気に食わなかった。
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