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第十五章 王立魔術学園の特別講師
第一話 新たな学友
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王都にある王立魔術学園の中等部に、一人の少年がおよそ三か月ほど前から入学した。
全日制の中等部に入学した少年は、通常毎日通学する生徒達と異なり、週に一、二度程度しか通っていない。また、聴講生ということで、講師達も彼には実技をさせたり、質問をぶつけるということもなかった。
彼は空気のように教室の後ろに座っているだけなのだ。
週に一、二度しか出席しない生徒であったが、教室にいる時は非常に熱心に教師の話に耳を傾けていた。
大教室での授業の際は、大勢の生徒達に紛れて話しかけづらかったが、二十名以下の小教室での授業を彼が取っているのを見て、初めて彼に話しかけてみた。
「授業にも慣れた?」
そう尋ねると、書籍から顔を上げた彼は「ああ、慣れた」と短く答えた。
真っ黒い髪に、茶色の瞳のどこか凛々しい少年だ。
身のこなしから、何か武道を嗜んでいるのではないかと思った。
優秀な騎士見習いが、王立魔術学園の授業を受講しに来ることもあった。剣だけではなく魔法も使える騎士というのはなかなかいないらしい。
「僕はアーゼン=ウィルスターだ。よろしく」
そう名乗ると、少年もまた名乗った。
「バート……バート=ビスフィールドだ」
それが僕とバートと名乗る少年と初めて言葉を交わした瞬間だった。
それから僕は、バート少年が魔術学園の授業を受けに来るたびに隣に座り、彼に話しかけるようになった。僕が話しかけると、僕の友人達も彼に興味があったようで、同じように話しかけるようになる。
聞くところによると、やはり彼は騎士の見習いで、魔法を学びに来ているらしい。特別に授業を聴講することが許されているとのこと。恐らく、騎士学校でも目をかけられている優秀な生徒なのではないかと思った。
「魔法の授業は楽しい?」
そう尋ねると、バートはうなずいた。
「面白い。もっと前から学んでおけばよかったと思う」
心の底からそう思っているようで、そのことを嬉しく思った。僕も魔法が大好きだった。
「魔法と剣の両立というのは大変でしょう?」
そこに僕の友人のアンドレがやって来て、バートに話しかける。
「そうだな。だが、剣の方は目途がついているので、今は魔法の仕組みそのものに興味があって学んでいるところだ」
「将来は魔法剣士になるの? 魔法剣士って、騎士団でも数名しかいないんでしょう?」
「ああ、魔法と剣の両立は難しいからな。戦闘中、剣で戦いながら詠唱というわけにはいかない。そのため、普通なら使う魔法は身体強化などだけに留める。そうなるとそれは魔法剣士を名乗らなくてもいいものになる。身体強化だけしか使わないのだから」
「確かに詠唱を唱えている間に、相手の騎士が斬り込んでくるよね。そう言われてみればそうかも」
アンドレは苦笑していた。
剣で戦い合っている中、悠長に詠唱を唱え精神集中をするという時間的余裕はないだろう。
「身体強化や防御魔法のみに特化している騎士は多い。魔法をもし使うとなれば、事前に魔法をこめていた魔道具を使うか、魔法剣などで戦うということになる。ただ、それも魔法剣の魔法を維持しながら戦うのはキツイだろう」
僕は彼の言葉にうなずいた。
彼はよく騎士達のことも魔法剣の仕組みも理解しているようだった。
「魔法剣といった魔法武器は、使用する魔力量もダントツに多いからね。たとえ魔石でそれを補ったとしても限界があるだろう。特別な魔法剣になると別だろうけど……」
そう僕ら三人が話している中、教室に初老の教師が入ってきた。
僕はすぐに口を閉じ、教科書を開いて授業に臨んだ。
そしてチロリとバート少年を見た。
聴講生だという彼はまったく実技の授業には参加しない。
でも、わざわざこの王立魔術学園に席が用意される彼なのだ。きっと相応の魔力を持っているのだろうと思った。
全日制の中等部に入学した少年は、通常毎日通学する生徒達と異なり、週に一、二度程度しか通っていない。また、聴講生ということで、講師達も彼には実技をさせたり、質問をぶつけるということもなかった。
彼は空気のように教室の後ろに座っているだけなのだ。
週に一、二度しか出席しない生徒であったが、教室にいる時は非常に熱心に教師の話に耳を傾けていた。
大教室での授業の際は、大勢の生徒達に紛れて話しかけづらかったが、二十名以下の小教室での授業を彼が取っているのを見て、初めて彼に話しかけてみた。
「授業にも慣れた?」
そう尋ねると、書籍から顔を上げた彼は「ああ、慣れた」と短く答えた。
真っ黒い髪に、茶色の瞳のどこか凛々しい少年だ。
身のこなしから、何か武道を嗜んでいるのではないかと思った。
優秀な騎士見習いが、王立魔術学園の授業を受講しに来ることもあった。剣だけではなく魔法も使える騎士というのはなかなかいないらしい。
「僕はアーゼン=ウィルスターだ。よろしく」
そう名乗ると、少年もまた名乗った。
「バート……バート=ビスフィールドだ」
それが僕とバートと名乗る少年と初めて言葉を交わした瞬間だった。
それから僕は、バート少年が魔術学園の授業を受けに来るたびに隣に座り、彼に話しかけるようになった。僕が話しかけると、僕の友人達も彼に興味があったようで、同じように話しかけるようになる。
聞くところによると、やはり彼は騎士の見習いで、魔法を学びに来ているらしい。特別に授業を聴講することが許されているとのこと。恐らく、騎士学校でも目をかけられている優秀な生徒なのではないかと思った。
「魔法の授業は楽しい?」
そう尋ねると、バートはうなずいた。
「面白い。もっと前から学んでおけばよかったと思う」
心の底からそう思っているようで、そのことを嬉しく思った。僕も魔法が大好きだった。
「魔法と剣の両立というのは大変でしょう?」
そこに僕の友人のアンドレがやって来て、バートに話しかける。
「そうだな。だが、剣の方は目途がついているので、今は魔法の仕組みそのものに興味があって学んでいるところだ」
「将来は魔法剣士になるの? 魔法剣士って、騎士団でも数名しかいないんでしょう?」
「ああ、魔法と剣の両立は難しいからな。戦闘中、剣で戦いながら詠唱というわけにはいかない。そのため、普通なら使う魔法は身体強化などだけに留める。そうなるとそれは魔法剣士を名乗らなくてもいいものになる。身体強化だけしか使わないのだから」
「確かに詠唱を唱えている間に、相手の騎士が斬り込んでくるよね。そう言われてみればそうかも」
アンドレは苦笑していた。
剣で戦い合っている中、悠長に詠唱を唱え精神集中をするという時間的余裕はないだろう。
「身体強化や防御魔法のみに特化している騎士は多い。魔法をもし使うとなれば、事前に魔法をこめていた魔道具を使うか、魔法剣などで戦うということになる。ただ、それも魔法剣の魔法を維持しながら戦うのはキツイだろう」
僕は彼の言葉にうなずいた。
彼はよく騎士達のことも魔法剣の仕組みも理解しているようだった。
「魔法剣といった魔法武器は、使用する魔力量もダントツに多いからね。たとえ魔石でそれを補ったとしても限界があるだろう。特別な魔法剣になると別だろうけど……」
そう僕ら三人が話している中、教室に初老の教師が入ってきた。
僕はすぐに口を閉じ、教科書を開いて授業に臨んだ。
そしてチロリとバート少年を見た。
聴講生だという彼はまったく実技の授業には参加しない。
でも、わざわざこの王立魔術学園に席が用意される彼なのだ。きっと相応の魔力を持っているのだろうと思った。
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