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【短編】
王立魔術学園での講義 (1)
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広い教室の中、初老の魔術の教師が前方の台の上に立ち、拡声の効果がある棒状の魔道具の前で語り始めた。教室の中にはぎっしりと、制服姿の少年少女達が座って、真剣な表情で教師の話に耳を傾けている。
ここは王都の王立魔術学園。
王国内で最も歴史があり、そして魔術師を目指す者達の最高峰とされる学園であった。
その教室の一番後ろの席で、バーナードは魔法でまた少年の姿にその身を変えて、神妙な面持ちで授業を聞いていた。
バーナードは先日の副都の事件の際、ヴェルヌ魔法学園で魔法の授業を聴講した。この時の授業を聞いた経験が良かったもので、バーナードはその後も魔法の授業を受けたいと考えた。
早速、親友で王宮副魔術師のマグルに相談したところ、王立魔術学園出身の彼は、学園長と直接話をつけて、バーナードが授業を自由に聴講する許しを得たという。
ただ、王立騎士団の騎士団長の姿のまま出席すれば、同じ教室にいる子供達を動揺させ、緊張させるのではないかと思われた。そのため、バーナード騎士団長は“若返りの魔道具”を使って子供の姿で学びに来ている。
通常の騎士団の業務があるために、週に一、二度程度しか聴講できないことが歯痒くもある。騎士学校出身で、魔法の授業も一通りは学んだことがあるが、深く学べる面白さがあった。
騎士団でも魔法の素養がある者もいる。能力向上のため、彼らも魔術学園の授業を聴講してもらう機会を設けることも良いかも知れない。
バーナードはつらつらとそんなことも考えながら、授業が終わった後、教科書類をまとめて鞄に入れた。
王立魔術学園の制服は黒に近い濃紺色のズボンとシャツ、そしてフードのついた黒いローブである。いずれも小さく蛇と杖をモチーフにした学園の紋章が刺繍されている。魔術学園の服務規定は、騎士学校よりも緩いのだろう。髪がぼさぼさの者も多く、中には化粧もしている女子がいることには驚いた。バーナードのいた騎士学校では、一部の隙もなく服装を整えるのが当然だった。日々、服装が乱れていないか厳しくチェックされる。変わり者が多い魔術師の養成学校は違うものだと感じた。
バーナードが一人、スタスタと学園の門をくぐったところで、彼の姿を認めた。
満面の笑みを浮かべ、手を振っているのは、王立騎士団副騎士団長のフィリップだった。
美貌の騎士の青年が、門のところで待ち構えているのに、バーナードが来る前から通りかかる魔術学園の生徒達の熱い視線を集めていた。
バーナードはため息をついて、すぐに彼の腕を掴むとその場を早足で離れるように歩いていく。
フィリップを小声で責めるように言う。
「おい、迎えに来るなと言っただろう」
フィリップは王都一と謳われるほどの美貌である。門前に立っているだけでも噂になっていた。彼に迎えに来られると目立ってしまう。目立たないようにと思って、若返りの魔道具を使っているのに。
フィリップは嬉しそうに魔術学園の制服姿のバーナードを上から下まで眺めていた。
「その制服もとてもよくお似合いです、バーナード」
「ここではバートだと言っただろう」
「はい、そうでした」
注意されても全然へこたれないようでニコニコとしている。彼は少年姿のバーナードを迎えに来て嬉しいのだ。迎えに来るなと言っても、彼はやってくる。
一目、少年姿のバーナードに会いたいがためだった。
「迎えに来られると困る。お前は目立つんだ」
「心配なんです。その姿の貴方がとてもかわいいから」
「俺は別に普通だろう。そんなことを言うのはお前だけだ」
「殿下もきっとそう思っていますよ」
そう言うフィリップの言葉に険がある。その言葉をバーナードはあえて聞き流した。
「仕方ない、馬車で行くか」
副騎士団長を引き連れて歩くと目立ってしまう。
その言葉に「どこへこれから行かれるんですか」とフィリップは尋ねた。
「マグルのところだ。授業でわからなかったところを聞きに行く。あいつは今日、半休で家にいるという話だ」
そうしてバーナードは馬車乗り場に行くと、その日は仕事を早く終わらせたというフィリップも一緒に馬車に乗り、マグルの家へ向かったのだった。
ここは王都の王立魔術学園。
王国内で最も歴史があり、そして魔術師を目指す者達の最高峰とされる学園であった。
その教室の一番後ろの席で、バーナードは魔法でまた少年の姿にその身を変えて、神妙な面持ちで授業を聞いていた。
バーナードは先日の副都の事件の際、ヴェルヌ魔法学園で魔法の授業を聴講した。この時の授業を聞いた経験が良かったもので、バーナードはその後も魔法の授業を受けたいと考えた。
早速、親友で王宮副魔術師のマグルに相談したところ、王立魔術学園出身の彼は、学園長と直接話をつけて、バーナードが授業を自由に聴講する許しを得たという。
ただ、王立騎士団の騎士団長の姿のまま出席すれば、同じ教室にいる子供達を動揺させ、緊張させるのではないかと思われた。そのため、バーナード騎士団長は“若返りの魔道具”を使って子供の姿で学びに来ている。
通常の騎士団の業務があるために、週に一、二度程度しか聴講できないことが歯痒くもある。騎士学校出身で、魔法の授業も一通りは学んだことがあるが、深く学べる面白さがあった。
騎士団でも魔法の素養がある者もいる。能力向上のため、彼らも魔術学園の授業を聴講してもらう機会を設けることも良いかも知れない。
バーナードはつらつらとそんなことも考えながら、授業が終わった後、教科書類をまとめて鞄に入れた。
王立魔術学園の制服は黒に近い濃紺色のズボンとシャツ、そしてフードのついた黒いローブである。いずれも小さく蛇と杖をモチーフにした学園の紋章が刺繍されている。魔術学園の服務規定は、騎士学校よりも緩いのだろう。髪がぼさぼさの者も多く、中には化粧もしている女子がいることには驚いた。バーナードのいた騎士学校では、一部の隙もなく服装を整えるのが当然だった。日々、服装が乱れていないか厳しくチェックされる。変わり者が多い魔術師の養成学校は違うものだと感じた。
バーナードが一人、スタスタと学園の門をくぐったところで、彼の姿を認めた。
満面の笑みを浮かべ、手を振っているのは、王立騎士団副騎士団長のフィリップだった。
美貌の騎士の青年が、門のところで待ち構えているのに、バーナードが来る前から通りかかる魔術学園の生徒達の熱い視線を集めていた。
バーナードはため息をついて、すぐに彼の腕を掴むとその場を早足で離れるように歩いていく。
フィリップを小声で責めるように言う。
「おい、迎えに来るなと言っただろう」
フィリップは王都一と謳われるほどの美貌である。門前に立っているだけでも噂になっていた。彼に迎えに来られると目立ってしまう。目立たないようにと思って、若返りの魔道具を使っているのに。
フィリップは嬉しそうに魔術学園の制服姿のバーナードを上から下まで眺めていた。
「その制服もとてもよくお似合いです、バーナード」
「ここではバートだと言っただろう」
「はい、そうでした」
注意されても全然へこたれないようでニコニコとしている。彼は少年姿のバーナードを迎えに来て嬉しいのだ。迎えに来るなと言っても、彼はやってくる。
一目、少年姿のバーナードに会いたいがためだった。
「迎えに来られると困る。お前は目立つんだ」
「心配なんです。その姿の貴方がとてもかわいいから」
「俺は別に普通だろう。そんなことを言うのはお前だけだ」
「殿下もきっとそう思っていますよ」
そう言うフィリップの言葉に険がある。その言葉をバーナードはあえて聞き流した。
「仕方ない、馬車で行くか」
副騎士団長を引き連れて歩くと目立ってしまう。
その言葉に「どこへこれから行かれるんですか」とフィリップは尋ねた。
「マグルのところだ。授業でわからなかったところを聞きに行く。あいつは今日、半休で家にいるという話だ」
そうしてバーナードは馬車乗り場に行くと、その日は仕事を早く終わらせたというフィリップも一緒に馬車に乗り、マグルの家へ向かったのだった。
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