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第十四章 王家の庭の霊樹
第七話 最後の夜
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その部屋の新たな主となった、バートという名の少年への寵愛は非常に深かった。
彼がこの部屋にやって来て以来、王太子殿下は政務でどうしても外せない時を除いて、ほぼその部屋に閉じこもり、ずっと睦み合っている状況だった。
何度か食事を部屋へと運んだのだが、その時も二人は寝台の上で身を絡ませ合っていた。
シーツの下で蠢く肢体の生々しさに、バート付の侍従の二人の若者は目をやるまいと思ってもつい視線がいってしまうことがあった。
食事の際には、殿下は少年を自身の膝の上に座らせ、手づから食事を口に入れさせる様子もあり、湯殿では甲斐甲斐しくその身を洗う様子もあった。
明らかに、尽くしているのは殿下の方であった。
その事実に、バート付の侍従リュイとラーナは驚いていた。
これほど殿下が夢中になっている様子は、セーラ妃に対してもないだろう。
殿下のその碧い瞳には溢れんばかりの熱情があった。
そしてセーラ妃付きの女官達もざわめいていた。
バート付の侍従二人に、あろうことか苦情を言う女官もいた。
「殿下に、セーラ妃殿下の許へいらして下さるようお願いして下さい」
少年へのご寵愛が過ぎるというのだ。朝昼晩と籠りきりで、王子を産んだ妃の許へ足を運ばぬというのはおかしいだろう。
セーラ妃殿下と王子殿下をないがしろにするのは許されないと、息を巻く女官達を鎮めるため、口を開いたのは侍従長だった。
「あと数日で終わります」
その言葉の意味が分からなかった。
女官らと侍従達の疑問の表情の前に、侍従長は言ったのだ。
「七日間で、彼はここからいなくなる約束なのです」
そして六日目の夜、最後の夜だった。
エドワードは、何度となく精を放ち、受け止めた彼のその薄い腹を優しく撫でた。
愛しい少年の顔を見つめながら、耳元で囁く。
「お前を孕ませたい」
「私は男ですから、孕むことはできませんよ」
バートが呆れたような眼差しで王太子を見つめると、王太子はうっそりと笑った。
「数えきれないほどお前の中に精を放てば、いつか、お前は孕みそうだ」
「無理です」
その唇に、自身の唇を押し付け、そして舌を吸い上げる。
幾度となく口づけを交わし、その身を抱いても、愛の言葉を囁いたとしても、彼はまたいなくなる。
たとえ一時、その身を手に入れても、やがて彼は、泡沫のように消えてしまうのだ。
身体の下で熱く息を吐き、甘く啼いて、快感に震えるこの身体も消えてしまう。
けれど以前と違って、小さな希望があった。
霊樹の許で生まれ落ちる果実を手にするのは自分だというその思い。
フィリップではなく、自分が手に入れる。
そのことを彼は知らない。
最後まで、教えるつもりはなかった。
彼がこの部屋にやって来て以来、王太子殿下は政務でどうしても外せない時を除いて、ほぼその部屋に閉じこもり、ずっと睦み合っている状況だった。
何度か食事を部屋へと運んだのだが、その時も二人は寝台の上で身を絡ませ合っていた。
シーツの下で蠢く肢体の生々しさに、バート付の侍従の二人の若者は目をやるまいと思ってもつい視線がいってしまうことがあった。
食事の際には、殿下は少年を自身の膝の上に座らせ、手づから食事を口に入れさせる様子もあり、湯殿では甲斐甲斐しくその身を洗う様子もあった。
明らかに、尽くしているのは殿下の方であった。
その事実に、バート付の侍従リュイとラーナは驚いていた。
これほど殿下が夢中になっている様子は、セーラ妃に対してもないだろう。
殿下のその碧い瞳には溢れんばかりの熱情があった。
そしてセーラ妃付きの女官達もざわめいていた。
バート付の侍従二人に、あろうことか苦情を言う女官もいた。
「殿下に、セーラ妃殿下の許へいらして下さるようお願いして下さい」
少年へのご寵愛が過ぎるというのだ。朝昼晩と籠りきりで、王子を産んだ妃の許へ足を運ばぬというのはおかしいだろう。
セーラ妃殿下と王子殿下をないがしろにするのは許されないと、息を巻く女官達を鎮めるため、口を開いたのは侍従長だった。
「あと数日で終わります」
その言葉の意味が分からなかった。
女官らと侍従達の疑問の表情の前に、侍従長は言ったのだ。
「七日間で、彼はここからいなくなる約束なのです」
そして六日目の夜、最後の夜だった。
エドワードは、何度となく精を放ち、受け止めた彼のその薄い腹を優しく撫でた。
愛しい少年の顔を見つめながら、耳元で囁く。
「お前を孕ませたい」
「私は男ですから、孕むことはできませんよ」
バートが呆れたような眼差しで王太子を見つめると、王太子はうっそりと笑った。
「数えきれないほどお前の中に精を放てば、いつか、お前は孕みそうだ」
「無理です」
その唇に、自身の唇を押し付け、そして舌を吸い上げる。
幾度となく口づけを交わし、その身を抱いても、愛の言葉を囁いたとしても、彼はまたいなくなる。
たとえ一時、その身を手に入れても、やがて彼は、泡沫のように消えてしまうのだ。
身体の下で熱く息を吐き、甘く啼いて、快感に震えるこの身体も消えてしまう。
けれど以前と違って、小さな希望があった。
霊樹の許で生まれ落ちる果実を手にするのは自分だというその思い。
フィリップではなく、自分が手に入れる。
そのことを彼は知らない。
最後まで、教えるつもりはなかった。
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