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第十四章 王家の庭の霊樹
第二話 新しい侍従の紹介
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いつもの殿下の私室に案内されると思いきや、侍従長が王宮内の別の棟に案内していることに気が付いた。
どこへ案内されるのだろうと思っていたところ、案内されたそこはどうやら新しく整えられた部屋だった。
真新しい調度が並んでいる。
部屋に入ると、年若い侍従が二人現れて、頭を下げて挨拶をしてきた。
二人とも二十代前半といったところだろう。
「バート様のお世話を承っております」
侍従の名はリュイとラーナといった。
表情には出さなかったが、二人はバートを見て少しばかり驚いた様子だった。
「世話など特にいらぬと思うが」
自分の為に二人もの侍従が用意されていることに、バートも驚いていた。
一週間の滞在である。不要だろうと言うバートに、侍従長は頭を振った。
「身支度のお世話など、お気軽に使ってください。二人ともよく働く者です」
「……そうか」
「リュイ、ラーナ、バート様のお支度はできていますか?」
その侍従長の問いかけに、二人の侍従は頷いた。
「はい。浴室も整えております」
「わかりました。バート様、湯浴みをお願いいたします。また、恐縮ですが、こちらで服をご用意しておりますので、お着換えをお願いします」
「また着替えるのか?」
マグルの部屋で、若返りの魔道具を使った後に服は着替えている。更にもう一度着替えることに声を上げると、侍従長は申し訳なさげに頭を下げた。
「はい。どうぞよろしくお願いします。湯浴みにお手伝いが必要でしたら」
「いらない。一人でできる」
バートはため息をつきながら、湯殿に案内され、その扉の向こうに姿を消した。
新しく整えられた部屋には、湯殿までついていたのだ。
大きな衣装部屋もあり、見事な調度も置かれ、その殿下の寵愛ぶりが伺える。
リュイとラーナも、今日のこの日まで、この部屋の主だという少年に会うことはなかった。
そして会って驚いた。
見目形は確かに整ったものだったが、飛び抜けて美しいという容姿を持つわけではない。彼よりも美しい少年ならばもっと他にいるはずだろう。
けれど、不思議と惹かれるものがあった。
艶やかな黒髪に、炯々と輝く茶色の瞳、そして柔らかそうな唇など、どことなく色香が漂っている。そうした雰囲気に、殿下も惹かれているのだろう。所作も美しかったが、無駄のないキビキビとしたものがあった。この部屋の主だという少年は、この一年まったく王宮に姿を現さずにいた。一体どこの誰で、普段は何をしているのか、謎に包まれた存在であった。
(一部の侍従達は、バートがバーナード騎士団長であることを知っていますが、魔法契約により縛られて口外を禁止されています。そのため、新しい侍従達は全くバートの正体を知りません)
王宮のこの部屋が整えられた時にも、王宮内の侍従、女官の間ではざわめきが起こったものだった。
セーラ妃を寵愛する王太子殿下が、新たに部屋を整えさせているのだ。
その部屋には一体誰が入るのだと噂していた。けれど、整えられた部屋には一向に誰も入ることがなかったことにも驚いた。
衣装棚には無数の服や靴、帽子が仕舞われていて、その主を待っていたのだが、現れることのない主に、疑問を抱きつつ時が過ぎていっていた。
そしてこの日、ようやくその少年が突然現れたのだ。
侍従長から、くれぐれも無礼がないようにと言われている。
もとよりそのつもりだった。
湯殿で一人、湯に浸かったバートは息を吐いた。
広い浴室である。乳白色の大理石のふんだんに使われた王宮らしい見事な浴槽で、獅子の口から湯が流れ出ていた。
浴槽内の湯の中には、真っ赤なバラの花びらが浮かんでいた。これは新しく付けられた侍従達が気を回したことなのだろうか。
この部屋も湯殿も、エドワード王太子の愛人のためのものなのだろう。
新しく整えられた部屋を、自分がまず使うことになったことに、苦笑する。
エドワードは、寵愛するセーラ妃との間に、待望の男児を一人もうけた。
重臣たちの中には、更に子をと求める声も大きい。セーラだけではなく、他にも妃を迎えよと薦める声もある。
だが、“最強王”の呪い持ちの殿下の相手は、誰でも良いというわけにはいかない。
絶倫だという彼の相手をするには、ただの人間ではその身が持たないであろうし、物理的にも身体が耐えられない。
結局、“サキュバス”の加護持ちか、サキュバスしか、彼の身を真実受け入れることはできないのだ。その他の人間達は、口や手で、殿下を慰めるだけになるだろう。
だから、殿下は自分に執着しているのだろうとバーナードは思っていた。
殿下を受け入れられる相手が限られるからだ。
どこへ案内されるのだろうと思っていたところ、案内されたそこはどうやら新しく整えられた部屋だった。
真新しい調度が並んでいる。
部屋に入ると、年若い侍従が二人現れて、頭を下げて挨拶をしてきた。
二人とも二十代前半といったところだろう。
「バート様のお世話を承っております」
侍従の名はリュイとラーナといった。
表情には出さなかったが、二人はバートを見て少しばかり驚いた様子だった。
「世話など特にいらぬと思うが」
自分の為に二人もの侍従が用意されていることに、バートも驚いていた。
一週間の滞在である。不要だろうと言うバートに、侍従長は頭を振った。
「身支度のお世話など、お気軽に使ってください。二人ともよく働く者です」
「……そうか」
「リュイ、ラーナ、バート様のお支度はできていますか?」
その侍従長の問いかけに、二人の侍従は頷いた。
「はい。浴室も整えております」
「わかりました。バート様、湯浴みをお願いいたします。また、恐縮ですが、こちらで服をご用意しておりますので、お着換えをお願いします」
「また着替えるのか?」
マグルの部屋で、若返りの魔道具を使った後に服は着替えている。更にもう一度着替えることに声を上げると、侍従長は申し訳なさげに頭を下げた。
「はい。どうぞよろしくお願いします。湯浴みにお手伝いが必要でしたら」
「いらない。一人でできる」
バートはため息をつきながら、湯殿に案内され、その扉の向こうに姿を消した。
新しく整えられた部屋には、湯殿までついていたのだ。
大きな衣装部屋もあり、見事な調度も置かれ、その殿下の寵愛ぶりが伺える。
リュイとラーナも、今日のこの日まで、この部屋の主だという少年に会うことはなかった。
そして会って驚いた。
見目形は確かに整ったものだったが、飛び抜けて美しいという容姿を持つわけではない。彼よりも美しい少年ならばもっと他にいるはずだろう。
けれど、不思議と惹かれるものがあった。
艶やかな黒髪に、炯々と輝く茶色の瞳、そして柔らかそうな唇など、どことなく色香が漂っている。そうした雰囲気に、殿下も惹かれているのだろう。所作も美しかったが、無駄のないキビキビとしたものがあった。この部屋の主だという少年は、この一年まったく王宮に姿を現さずにいた。一体どこの誰で、普段は何をしているのか、謎に包まれた存在であった。
(一部の侍従達は、バートがバーナード騎士団長であることを知っていますが、魔法契約により縛られて口外を禁止されています。そのため、新しい侍従達は全くバートの正体を知りません)
王宮のこの部屋が整えられた時にも、王宮内の侍従、女官の間ではざわめきが起こったものだった。
セーラ妃を寵愛する王太子殿下が、新たに部屋を整えさせているのだ。
その部屋には一体誰が入るのだと噂していた。けれど、整えられた部屋には一向に誰も入ることがなかったことにも驚いた。
衣装棚には無数の服や靴、帽子が仕舞われていて、その主を待っていたのだが、現れることのない主に、疑問を抱きつつ時が過ぎていっていた。
そしてこの日、ようやくその少年が突然現れたのだ。
侍従長から、くれぐれも無礼がないようにと言われている。
もとよりそのつもりだった。
湯殿で一人、湯に浸かったバートは息を吐いた。
広い浴室である。乳白色の大理石のふんだんに使われた王宮らしい見事な浴槽で、獅子の口から湯が流れ出ていた。
浴槽内の湯の中には、真っ赤なバラの花びらが浮かんでいた。これは新しく付けられた侍従達が気を回したことなのだろうか。
この部屋も湯殿も、エドワード王太子の愛人のためのものなのだろう。
新しく整えられた部屋を、自分がまず使うことになったことに、苦笑する。
エドワードは、寵愛するセーラ妃との間に、待望の男児を一人もうけた。
重臣たちの中には、更に子をと求める声も大きい。セーラだけではなく、他にも妃を迎えよと薦める声もある。
だが、“最強王”の呪い持ちの殿下の相手は、誰でも良いというわけにはいかない。
絶倫だという彼の相手をするには、ただの人間ではその身が持たないであろうし、物理的にも身体が耐えられない。
結局、“サキュバス”の加護持ちか、サキュバスしか、彼の身を真実受け入れることはできないのだ。その他の人間達は、口や手で、殿下を慰めるだけになるだろう。
だから、殿下は自分に執着しているのだろうとバーナードは思っていた。
殿下を受け入れられる相手が限られるからだ。
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