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【短編】
夏の祭りの花火 (2)
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そして祭りの当日になった。
マグルや弟夫婦達には、先に宿の部屋に入ってくれるように話していた。
祭りの警備の仕事がずれこむことも考えられたからだ。
祭り当日に、王都の人口は通常の五倍に膨れ上がると言われている。王立騎士団の騎士達は警備隊の者達と組んで、王都の街の警邏活動にいそしむ。門前の入場警備から、都に面した森からの侵入の見回り、街内の見回りと本当に忙しい。迷子や喧嘩なども頻繁に起こる。
警備隊も騎士団も、ずっと街内を走り回っている。
そして午前の任務を終え、冒険者ギルドの面々と交代の時間になった。
ギルド長とバーナードは挨拶を交わしている時、王城から差し入れを持って侍従長と侍従達が現れた。
「王太子殿下からの、差し入れです」
冷たい飲み物と軽食の大量の差し入れに、皆が歓声を挙げていた。
「殿下に感謝だな」
警備隊隊長、騎士団長バーナード、そして交代に入ったギルド長も嬉しそうである。
侍従長はバーナードを見つめ、目で合図する。
察したバーナードが傍まで行くと、侍従長はバーナードに手紙を差し出した。
「殿下からのお手紙です」
「……ありがとうございます」
王家の紋章の入った封筒である。
この場で開けない方が良いだろうと、バーナードはすぐに懐に入れた。
それから交代の冒険者ギルド長に声をかける。
「では、私はこれで失礼する」
「差し入れは食べないのか? 騎士団長殿」
ムシャムシャとサンドイッチを口に銜えている冒険者ギルド長に、バーナードはにこやかに笑って言った。
「ああ、この後、出かける先があるものでな。では失礼する」
警備隊隊長と、その場に残って軽食等を食べていく騎士団の騎士達に声をかけた後、バーナードはフィリップと共にその場を後にしたのだった。
人込みの中を掻きわけるようにして歩きながら、バーナードにフィリップは話しかけた。
「殿下からのお手紙だそうですが」
「ああ。まだ受け取っただけで、中身は見ていない」
「……そうですか」
「気になるのか?」
「当たり前です」
そう言うフィリップの頭を、バーナードはぽんと軽く叩いた。
何くれとちょっかいを出してくるエドワード王太子のことが気にならないはずがない。
フィリップは自分が男ながらに、悋気持ちであることは自覚している。
特に今、バーナードは王太子に借りが幾つもある状態なのである。あの殿下が、その貸しを回収しないはずがなかった。
無茶なことを要求されまいかと、いつもハラハラとしているのだ。対してバーナードは借りを重ねた今でも平然としている。神経が図太いのか、はたまた、殿下からの取り立てを大したものではないと考えているのか分からなかった。
バーナードは何も言わず、そのまま手紙を懐に入れたまま宿に向かっていた。
その彼の横顔を見つめ、フィリップは内心、ため息をついていた。
宿にはすでに、マグル夫妻とその義父がやって来ていた。
義父のマクレイガー教授は、バーナードと王都釣り倶楽部の会員仲間である。教授はバーナードの招待を感謝すると言って、持参したワイン数本を差し出していた。
それを見てバーナードは礼を言い、目を輝かせる。
「このワインは私も好きなのです。後で飲みましょう」
そしてマグルとその妻カトリーヌも礼を口にした。
「バーナード、お招きありがとう!! 僕はつまみを大量に持ってきたぞ」
「ああ、助かる」
「私はパイを何皿か持ってきました」
「ありがとう」
テーブルの上にはワインやパイ、つまみや果物がすでに山盛りの状態である。
その時、扉がまたノックされた。
「ケヴィンかな」
バーナードは椅子から立ち上がり、部屋の扉を開けた。
そこにはバーナードの弟夫妻とその子供達が揃っていた。
マグルや弟夫婦達には、先に宿の部屋に入ってくれるように話していた。
祭りの警備の仕事がずれこむことも考えられたからだ。
祭り当日に、王都の人口は通常の五倍に膨れ上がると言われている。王立騎士団の騎士達は警備隊の者達と組んで、王都の街の警邏活動にいそしむ。門前の入場警備から、都に面した森からの侵入の見回り、街内の見回りと本当に忙しい。迷子や喧嘩なども頻繁に起こる。
警備隊も騎士団も、ずっと街内を走り回っている。
そして午前の任務を終え、冒険者ギルドの面々と交代の時間になった。
ギルド長とバーナードは挨拶を交わしている時、王城から差し入れを持って侍従長と侍従達が現れた。
「王太子殿下からの、差し入れです」
冷たい飲み物と軽食の大量の差し入れに、皆が歓声を挙げていた。
「殿下に感謝だな」
警備隊隊長、騎士団長バーナード、そして交代に入ったギルド長も嬉しそうである。
侍従長はバーナードを見つめ、目で合図する。
察したバーナードが傍まで行くと、侍従長はバーナードに手紙を差し出した。
「殿下からのお手紙です」
「……ありがとうございます」
王家の紋章の入った封筒である。
この場で開けない方が良いだろうと、バーナードはすぐに懐に入れた。
それから交代の冒険者ギルド長に声をかける。
「では、私はこれで失礼する」
「差し入れは食べないのか? 騎士団長殿」
ムシャムシャとサンドイッチを口に銜えている冒険者ギルド長に、バーナードはにこやかに笑って言った。
「ああ、この後、出かける先があるものでな。では失礼する」
警備隊隊長と、その場に残って軽食等を食べていく騎士団の騎士達に声をかけた後、バーナードはフィリップと共にその場を後にしたのだった。
人込みの中を掻きわけるようにして歩きながら、バーナードにフィリップは話しかけた。
「殿下からのお手紙だそうですが」
「ああ。まだ受け取っただけで、中身は見ていない」
「……そうですか」
「気になるのか?」
「当たり前です」
そう言うフィリップの頭を、バーナードはぽんと軽く叩いた。
何くれとちょっかいを出してくるエドワード王太子のことが気にならないはずがない。
フィリップは自分が男ながらに、悋気持ちであることは自覚している。
特に今、バーナードは王太子に借りが幾つもある状態なのである。あの殿下が、その貸しを回収しないはずがなかった。
無茶なことを要求されまいかと、いつもハラハラとしているのだ。対してバーナードは借りを重ねた今でも平然としている。神経が図太いのか、はたまた、殿下からの取り立てを大したものではないと考えているのか分からなかった。
バーナードは何も言わず、そのまま手紙を懐に入れたまま宿に向かっていた。
その彼の横顔を見つめ、フィリップは内心、ため息をついていた。
宿にはすでに、マグル夫妻とその義父がやって来ていた。
義父のマクレイガー教授は、バーナードと王都釣り倶楽部の会員仲間である。教授はバーナードの招待を感謝すると言って、持参したワイン数本を差し出していた。
それを見てバーナードは礼を言い、目を輝かせる。
「このワインは私も好きなのです。後で飲みましょう」
そしてマグルとその妻カトリーヌも礼を口にした。
「バーナード、お招きありがとう!! 僕はつまみを大量に持ってきたぞ」
「ああ、助かる」
「私はパイを何皿か持ってきました」
「ありがとう」
テーブルの上にはワインやパイ、つまみや果物がすでに山盛りの状態である。
その時、扉がまたノックされた。
「ケヴィンかな」
バーナードは椅子から立ち上がり、部屋の扉を開けた。
そこにはバーナードの弟夫妻とその子供達が揃っていた。
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