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【短編】
王宮魔術師長の講義
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次期国王である王太子エドワードは、王宮の魔術師長から定期的に講義を受けていた。
子供の頃から学び続けている彼は、魔術に関しても相応の知識を持ち、かつ“最強王”の呪いを受け、魔力も人並外れて所持している彼は、魔術師としての能力もひとかどのものであった。
守られるべき立場のエドワードが魔術を使うことはない。実力の高さを知っていた魔術師長は、その立場ゆえに他人に披露されることもないエドワードのその能力を密かに惜しんでいた。
その日、魔術師長はエドワード王太子に尋ねた。
「ご興味のある事柄があれば、お調べして、次回からご報告がてら、お教え致します。殿下のご興味あることは何でございましょう」
その言葉に、しばらく考え込んだエドワードは魔術師長にこう言った。
「“淫魔”について知りたい」
少しばかりその言葉に驚いたが、すぐに魔術師長は納得した。
殿下の妃であるセーラ妃は、“サキュバスの加護”持ちである。
それ故の、興味、好奇心であると考えたのだ。
「わかりました。では次回、殿下に“淫魔”についてご講義致します」
そう恭しく、魔術師長は頭を下げたのだった。
そして次週、やってきた魔術師長は『淫魔の生態とその捕え方(写し)』という本を手にしていた。
古い本であるが、これが一番淫魔について詳しいものだと言う。
彼はわざわざ中央図書館の、禁書庫を開けてその本を借りてきたらしい。
相当昔の本で、原本は持ち出しが禁止されており、写しを彼は手にしていた。
「禁書にされているのは何故ですか?」
エドワード王太子の問いかけに、魔術師長はこう言った。
「この本の方法を採れば、簡単に淫魔を捕えることができるためです。淫魔だけではなく、魔族そのものが一時期激減した時代があることを、殿下は御存知ですよね?」
「はい」
「そうした中、この本を参考に淫魔狩りをされてはたまらないと、禁書扱いになりました」
「そんなに淫魔とは簡単に捕まえられるのですか?」
「ええ。殿下も今回の講義でお教えしますが、決して悪用してはなりません」
「……はい」
そうして教えられたことに、エドワードは驚かされた。
“淫魔”は快楽に弱く、刺激にひどく敏感に出来ている。
精力をその源として生きている生き物であるからして、性交が彼らにとって欠かせないものであり、ゆえに、より深く快感を得られるように、どこもかしこも敏感に、感じやすく出来ているのだという。
「だから、彼らは快楽に弱く、酒、薬物なども極端にその身に効きます。媚薬などを用いた日には、狂ったように反応してしまうでしょう」
エドワードの耳が赤く染まる。
「加護持ちも、酒などに弱いです。我が妃は酒も飲めません」
「そのようですね。加護持ちは、淫魔に準じた能力を持ちます。快楽に同様に弱いですね」
魔術師長は言葉を区切って言う。
「ならばもう、弱点はわかったも同然ですね」
エドワードは頷く。
「はい」
「かつて、数多くの淫魔を捕えたというこの本の作者は、淫魔を捕える際は、ほとんど快楽堕ちさせて捕まえていたといいます。媚薬を用いれば前後もわからなくなり、簡単に屈服する淫魔を、隷紋を刻んで支配下に置いたそうです」
「……」
「媚薬だけではなく、ありとあらゆる薬物に弱いです。眠り薬などを嗅がせれば、恐らく長い間目を覚ますことがないかも知れません。ですので、お妃様に対してお薬の使い方は重々お気を付けてください」
「はい」
その時、エドワードの脳裏に浮かんだのは、妃として迎えたセーラ妃の姿であっただろうか。それとも、黒髪に茶色の瞳の凛々しい騎士の姿であったのだろうか。それは本人にしか分からぬことであった。
その後、エドワード王太子は、自身もわざわざ『淫魔の生態とその捕え方(写し)』を入手し、その書物の中身を時間があればよく読み耽っていたという。
子供の頃から学び続けている彼は、魔術に関しても相応の知識を持ち、かつ“最強王”の呪いを受け、魔力も人並外れて所持している彼は、魔術師としての能力もひとかどのものであった。
守られるべき立場のエドワードが魔術を使うことはない。実力の高さを知っていた魔術師長は、その立場ゆえに他人に披露されることもないエドワードのその能力を密かに惜しんでいた。
その日、魔術師長はエドワード王太子に尋ねた。
「ご興味のある事柄があれば、お調べして、次回からご報告がてら、お教え致します。殿下のご興味あることは何でございましょう」
その言葉に、しばらく考え込んだエドワードは魔術師長にこう言った。
「“淫魔”について知りたい」
少しばかりその言葉に驚いたが、すぐに魔術師長は納得した。
殿下の妃であるセーラ妃は、“サキュバスの加護”持ちである。
それ故の、興味、好奇心であると考えたのだ。
「わかりました。では次回、殿下に“淫魔”についてご講義致します」
そう恭しく、魔術師長は頭を下げたのだった。
そして次週、やってきた魔術師長は『淫魔の生態とその捕え方(写し)』という本を手にしていた。
古い本であるが、これが一番淫魔について詳しいものだと言う。
彼はわざわざ中央図書館の、禁書庫を開けてその本を借りてきたらしい。
相当昔の本で、原本は持ち出しが禁止されており、写しを彼は手にしていた。
「禁書にされているのは何故ですか?」
エドワード王太子の問いかけに、魔術師長はこう言った。
「この本の方法を採れば、簡単に淫魔を捕えることができるためです。淫魔だけではなく、魔族そのものが一時期激減した時代があることを、殿下は御存知ですよね?」
「はい」
「そうした中、この本を参考に淫魔狩りをされてはたまらないと、禁書扱いになりました」
「そんなに淫魔とは簡単に捕まえられるのですか?」
「ええ。殿下も今回の講義でお教えしますが、決して悪用してはなりません」
「……はい」
そうして教えられたことに、エドワードは驚かされた。
“淫魔”は快楽に弱く、刺激にひどく敏感に出来ている。
精力をその源として生きている生き物であるからして、性交が彼らにとって欠かせないものであり、ゆえに、より深く快感を得られるように、どこもかしこも敏感に、感じやすく出来ているのだという。
「だから、彼らは快楽に弱く、酒、薬物なども極端にその身に効きます。媚薬などを用いた日には、狂ったように反応してしまうでしょう」
エドワードの耳が赤く染まる。
「加護持ちも、酒などに弱いです。我が妃は酒も飲めません」
「そのようですね。加護持ちは、淫魔に準じた能力を持ちます。快楽に同様に弱いですね」
魔術師長は言葉を区切って言う。
「ならばもう、弱点はわかったも同然ですね」
エドワードは頷く。
「はい」
「かつて、数多くの淫魔を捕えたというこの本の作者は、淫魔を捕える際は、ほとんど快楽堕ちさせて捕まえていたといいます。媚薬を用いれば前後もわからなくなり、簡単に屈服する淫魔を、隷紋を刻んで支配下に置いたそうです」
「……」
「媚薬だけではなく、ありとあらゆる薬物に弱いです。眠り薬などを嗅がせれば、恐らく長い間目を覚ますことがないかも知れません。ですので、お妃様に対してお薬の使い方は重々お気を付けてください」
「はい」
その時、エドワードの脳裏に浮かんだのは、妃として迎えたセーラ妃の姿であっただろうか。それとも、黒髪に茶色の瞳の凛々しい騎士の姿であったのだろうか。それは本人にしか分からぬことであった。
その後、エドワード王太子は、自身もわざわざ『淫魔の生態とその捕え方(写し)』を入手し、その書物の中身を時間があればよく読み耽っていたという。
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