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【短編】
古代魔術師の持つ本 (1)
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第一話 古代魔術師の持つ本
王宮副魔術師長マグルは、古代魔術師ギガントとすっかり仲良くなったようで、暇さえあればちょくちょくギガントのダンジョンへ遊びに行っているらしい。
ギガントは、ダンジョンマスターとしてその身をダンジョン内に縛り付けられているようで、彼はダンジョンの外に出ることはできないという。永遠に近いほど生きる身になったとはいえ、その点はひどく不便そうな様子だった。
そのため、もっぱらマグルがギガントへ会いに行くことになっている。
その日も、マグルがギガントのダンジョンへ行くというので、フィリップも彼についてダンジョンへ向かうことにした。
「バーナードは一緒に行かないのか?」
単身で一緒に来るというフィリップを見て、マグルが問いかけた。
「団長は、あのダンジョンが苦手みたいです」
「ふーん」
エロ絵画にエロ銅像など、エロてんこ盛りのあのダンジョンが、バーナードは苦手な様子だった。
もはやその身は“淫魔”になってしまったのに、恥じらいを持つのがおかしかった。
ダンジョンに到着すると、マグルは特別な鍵をもらっているようで、勝手知ったようにダンジョンの中を進み、妙なポーズを取っているエロ彫像の後ろの壁に手をやる。そこには鍵穴があり、鍵を差し込む。すると、壁が音を立てて開いた。扉の向こうの小部屋の中には、転移の魔道具が置かれていた。
「……すっかりギガントと仲良しですね」
「いやぁ、話が合うんだよね。ギガントも僕も魔術師だからさ」
まさか、フリーパスの鍵までもらっているとは思わなかった。
そして二人は転移して、最下層のギガントの部屋まで飛んだのだった。
ギガントと会うなり、マグルは熱心に魔術の話を始めていた。二人は椅子に座り、本を手にあれこれと専門的な会話をしている。
フィリップはこの部屋の主であるギガントに断って、彼の部屋の書棚を眺めていた。
先日、この部屋で時間を潰していた時、書棚に昔の書物がギッシリと収められているのを見つけたのだ。エロの探究者であるギガントの書棚には、古今東西のエロ書籍が山盛りである。フィリップはそうしたエロ書籍に興味があるのではない。興味があったのは“淫魔”に関する本であった。
バーナードの身が淫魔に変わってから、フィリップは淫魔のことが知りたいと考え、王宮副魔術師のマグルに話を聞いたり、自分も調べている。だが、表層的なことはある程度わかっていたが、まだまだわからない話が多いのだ。
だいたい、淫魔に階級があるというのも不思議なことだった。
“淫魔の王”“淫魔の王子”
“淫魔の女王”“淫魔の王女”
そういった位があり、中でも王と女王が一番上の位だという。そして、バーナードは“淫魔の王女”位を持っている。王国の騎士団長なのに、淫魔の中では、王女。ちょっとおかしいと思うが、バーナードはあまり細かいことを気にしていない様子だった。かといって、もし“淫魔の王”や“淫魔の王子”位を、バーナードが授けられていたならば、彼はインキュバスになっており、もしかしたら、フィリップと今の立場が逆転していたかも知れない。
フィリップは嘆息して、本の背表紙を辿っていく。
ギガントは古い時代から生き続けている古代魔術師のため、持っている書籍はいずれも古代語で書かれていた。ある程度の古代語なら読むことはできたが、古い字体のものに関しては自信がない。
だが、ようやく革張りの一冊の本の背表紙に『淫魔の生態とその捕え方』と書かれているのを見つけた。フィリップはそっとその本を取り出した。
非常に古い本で、触っているうちに崩れそうな部分もある。
彼は取り扱いに注意しながら本を持つと、椅子の一つに座り、膝に広げてそれをゆっくりと読み出そうとした。
だが、開いて早々に、しかめっ面になる。
やはり、古すぎてその文字が読めないのだった。
マグルとギガントの会話が落ち着いたのを見て、フィリップはマグルに声をかけた。
「マグル、“淫魔”に関する古い本を見つけたんだ。私は文字が読めないので、見てもらえないか?」
王宮副魔術師長マグルは、古代魔術師ギガントとすっかり仲良くなったようで、暇さえあればちょくちょくギガントのダンジョンへ遊びに行っているらしい。
ギガントは、ダンジョンマスターとしてその身をダンジョン内に縛り付けられているようで、彼はダンジョンの外に出ることはできないという。永遠に近いほど生きる身になったとはいえ、その点はひどく不便そうな様子だった。
そのため、もっぱらマグルがギガントへ会いに行くことになっている。
その日も、マグルがギガントのダンジョンへ行くというので、フィリップも彼についてダンジョンへ向かうことにした。
「バーナードは一緒に行かないのか?」
単身で一緒に来るというフィリップを見て、マグルが問いかけた。
「団長は、あのダンジョンが苦手みたいです」
「ふーん」
エロ絵画にエロ銅像など、エロてんこ盛りのあのダンジョンが、バーナードは苦手な様子だった。
もはやその身は“淫魔”になってしまったのに、恥じらいを持つのがおかしかった。
ダンジョンに到着すると、マグルは特別な鍵をもらっているようで、勝手知ったようにダンジョンの中を進み、妙なポーズを取っているエロ彫像の後ろの壁に手をやる。そこには鍵穴があり、鍵を差し込む。すると、壁が音を立てて開いた。扉の向こうの小部屋の中には、転移の魔道具が置かれていた。
「……すっかりギガントと仲良しですね」
「いやぁ、話が合うんだよね。ギガントも僕も魔術師だからさ」
まさか、フリーパスの鍵までもらっているとは思わなかった。
そして二人は転移して、最下層のギガントの部屋まで飛んだのだった。
ギガントと会うなり、マグルは熱心に魔術の話を始めていた。二人は椅子に座り、本を手にあれこれと専門的な会話をしている。
フィリップはこの部屋の主であるギガントに断って、彼の部屋の書棚を眺めていた。
先日、この部屋で時間を潰していた時、書棚に昔の書物がギッシリと収められているのを見つけたのだ。エロの探究者であるギガントの書棚には、古今東西のエロ書籍が山盛りである。フィリップはそうしたエロ書籍に興味があるのではない。興味があったのは“淫魔”に関する本であった。
バーナードの身が淫魔に変わってから、フィリップは淫魔のことが知りたいと考え、王宮副魔術師のマグルに話を聞いたり、自分も調べている。だが、表層的なことはある程度わかっていたが、まだまだわからない話が多いのだ。
だいたい、淫魔に階級があるというのも不思議なことだった。
“淫魔の王”“淫魔の王子”
“淫魔の女王”“淫魔の王女”
そういった位があり、中でも王と女王が一番上の位だという。そして、バーナードは“淫魔の王女”位を持っている。王国の騎士団長なのに、淫魔の中では、王女。ちょっとおかしいと思うが、バーナードはあまり細かいことを気にしていない様子だった。かといって、もし“淫魔の王”や“淫魔の王子”位を、バーナードが授けられていたならば、彼はインキュバスになっており、もしかしたら、フィリップと今の立場が逆転していたかも知れない。
フィリップは嘆息して、本の背表紙を辿っていく。
ギガントは古い時代から生き続けている古代魔術師のため、持っている書籍はいずれも古代語で書かれていた。ある程度の古代語なら読むことはできたが、古い字体のものに関しては自信がない。
だが、ようやく革張りの一冊の本の背表紙に『淫魔の生態とその捕え方』と書かれているのを見つけた。フィリップはそっとその本を取り出した。
非常に古い本で、触っているうちに崩れそうな部分もある。
彼は取り扱いに注意しながら本を持つと、椅子の一つに座り、膝に広げてそれをゆっくりと読み出そうとした。
だが、開いて早々に、しかめっ面になる。
やはり、古すぎてその文字が読めないのだった。
マグルとギガントの会話が落ち着いたのを見て、フィリップはマグルに声をかけた。
「マグル、“淫魔”に関する古い本を見つけたんだ。私は文字が読めないので、見てもらえないか?」
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