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第十章 王宮副魔術師長の結婚
第十話 王宮副魔術師長の結婚
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青い空に澄み切った空気の中、緑の芝生の上でのガーデンパーティの会場に彼らはいた。
真っ白いリボンと白い花々で飾り付けられた円形のテーブルと白い椅子が芝生の上に並べられ、豪華な料理とケーキが賑やかしている。
マグルと純白のドレス姿のカトリーヌは、幸せいっぱいの表情で、神官達の前で婚礼の式を挙げた。
式場には、人間の姿に化けた妖精女王、妖精王子、セリーヌとそしてご隠居様の姿がある。
妖精女王が好みの男子を見つけては追いかけようとするが、すかさず小さな妖精達がこっそりと彼女のスカートの裾を引っ張っては席に引き戻していた。
セリーヌは、妹の美しい花嫁姿に目に涙を浮かべて見送り、そして花嫁の父であるマクレイガー教授も、嬉し泣きをしていた。
昨夜、妖精王子とセリーヌの二人はマクレイガー教授の元へ挨拶に行った。
マクレイガー教授は、非常に渋々とであったが、二人の仲を認めることにしたようだった(反対したとしても駆け落ちしてしまうので、認めざるを得なかった)。
妖精王子とセリーヌの仲睦まじい様子に、マクレイガー教授は少しばかり安心する思いもあったが、不愛想にセリーヌ達に対して「またこちらの世界にも遊びに来るように」と言っていた。
もちろん、セリーヌ達は父の元へ喜んで遊びに行くつもりだった。
バーナード騎士団長は、黒の軍衣をまとい、その式典に出席している男女の視線を釘付けにしていた。相変わらずの凛々しい男ぶりだった。同様に、副騎士団長のフィリップも華やかな軍衣姿であり、こちらも若い娘達の熱い視線を受けていた。
バーナードは当初の予定通り、妖精女王と一緒のテーブルについていたが、彼は不機嫌にため息をついていた。妖精女王の男漁りを注意するどころではない気分だった。
彼の隣にはフィリップが座っていたが、バーナードは彼をずっと無視していた。
そのことにフィリップがしょんぼりとしていたが、それでもバーナードは彼を無視していた。
その様子を見て、ご隠居様と呼ばれる老人がバーナードに声をかけた。
「あの時、そなたが望むような結果にはならぬかも知れぬと言ったであろう」
「…………今からでも、彼を元の身体に戻すことは出来ませんか」
老人は首を振った。
「零れた水はコップには戻らぬであろう。無理を申すでない」
「…………」
バーナードはまたため息をついた。
ため息ばかりだった。
「じゃが、そなたと彼の相性はいいのではないか」
「…………」
バーナード騎士団長は答えず、ただ耳を赤く染めるのみだった。
なんの相性であるのか、わかっている。
それが答えのようなものだった。
「慣れるまでは大変じゃろうが、慣れればよくなる。相性が良いのなら、きっとうまくいく」
変わらず無言のバーナードに、フィリップは声をかける。
「団長……まだ怒っているのですか。ずっと貴方は怒っているじゃないですか」
「当たり前だ」
「毎日するのがそんなにキツイんですか」
「こんな場所でそういう話をするんじゃない」
バーナードがぎょっとしてフィリップに言うと、フィリップは切なげにバーナードを見つめて言った。
「だって団長はずっと怒って私を無視しているから。ここで話すしかないです」
「……黙っていろ」
「今日は私の屋敷に来てくださいね」
「……お前はしつこいからいやだ」
フィリップはそのバーナードの言葉にショックを受けていた。
「だって私達は夫婦なんですよ。しつこいなんて、ヒドイですね」
「本当のことだろうが。いいか、お前はその絶倫を少し治せ」
「…………今日は貴方が嫌と言っても、引きずってでも貴方を私の屋敷に連れていきますからね」
フィリップの青い目が剣呑な光を浮かべていることに気が付き、バーナードはゾクリと身を震わせた。
だが、気を取り直して、ワインを口にする。
「…………フン、俺がまた逃げるだけだ。フィリップ副騎士団長」
“精力に満ち溢れる存在”になったというフィリップは、王太子並の絶倫になってバーナードを困らせていた。
そして思う存分バーナードの身を貪れるようになったフィリップにとって、バーナードとのセックスはこの上なく気持ちが悦く、彼は夢中になっていた。
彼は屋敷に帰ると常にバーナードの身を貪る。それこそ朝まで延々と。
それにバーナードは嫌気が差していた。
フィリップのことは愛している。
だが、しつこい彼は嫌いだった。
「貴方だっていつも気持ちが悦いと言って啼いているじゃないですか」
バーナード騎士団長の顔が赤く染まり、彼はわなわなとその手を震わせる。
まったくどうしてこんなことになってしまったんだと、バーナードは思った。
彼と共に生きることを望んだ。自分のせいで、身体に害が出ないように願った。
それなのに、彼は絶倫になってしまって、毎日朝まで、バーナードを啼かせるようになったのだ。
こんなことを望んだのではない!!
小さな妖精達が人々の目にその姿が見えないようにしながら、白い花を小さな手で撒き散らす。
雪のように頭上からはらはらと落ちる白い花。風に乗って舞い上がる。緑の芝生の上、青い空の下、それはどこか夢のように美しい光景だった。
妖精女王が魔法で空に七色の虹をかけた。
人々の歓声の中、マグルとカトリーナは笑顔で口づけを交わしたのだった。
真っ白いリボンと白い花々で飾り付けられた円形のテーブルと白い椅子が芝生の上に並べられ、豪華な料理とケーキが賑やかしている。
マグルと純白のドレス姿のカトリーヌは、幸せいっぱいの表情で、神官達の前で婚礼の式を挙げた。
式場には、人間の姿に化けた妖精女王、妖精王子、セリーヌとそしてご隠居様の姿がある。
妖精女王が好みの男子を見つけては追いかけようとするが、すかさず小さな妖精達がこっそりと彼女のスカートの裾を引っ張っては席に引き戻していた。
セリーヌは、妹の美しい花嫁姿に目に涙を浮かべて見送り、そして花嫁の父であるマクレイガー教授も、嬉し泣きをしていた。
昨夜、妖精王子とセリーヌの二人はマクレイガー教授の元へ挨拶に行った。
マクレイガー教授は、非常に渋々とであったが、二人の仲を認めることにしたようだった(反対したとしても駆け落ちしてしまうので、認めざるを得なかった)。
妖精王子とセリーヌの仲睦まじい様子に、マクレイガー教授は少しばかり安心する思いもあったが、不愛想にセリーヌ達に対して「またこちらの世界にも遊びに来るように」と言っていた。
もちろん、セリーヌ達は父の元へ喜んで遊びに行くつもりだった。
バーナード騎士団長は、黒の軍衣をまとい、その式典に出席している男女の視線を釘付けにしていた。相変わらずの凛々しい男ぶりだった。同様に、副騎士団長のフィリップも華やかな軍衣姿であり、こちらも若い娘達の熱い視線を受けていた。
バーナードは当初の予定通り、妖精女王と一緒のテーブルについていたが、彼は不機嫌にため息をついていた。妖精女王の男漁りを注意するどころではない気分だった。
彼の隣にはフィリップが座っていたが、バーナードは彼をずっと無視していた。
そのことにフィリップがしょんぼりとしていたが、それでもバーナードは彼を無視していた。
その様子を見て、ご隠居様と呼ばれる老人がバーナードに声をかけた。
「あの時、そなたが望むような結果にはならぬかも知れぬと言ったであろう」
「…………今からでも、彼を元の身体に戻すことは出来ませんか」
老人は首を振った。
「零れた水はコップには戻らぬであろう。無理を申すでない」
「…………」
バーナードはまたため息をついた。
ため息ばかりだった。
「じゃが、そなたと彼の相性はいいのではないか」
「…………」
バーナード騎士団長は答えず、ただ耳を赤く染めるのみだった。
なんの相性であるのか、わかっている。
それが答えのようなものだった。
「慣れるまでは大変じゃろうが、慣れればよくなる。相性が良いのなら、きっとうまくいく」
変わらず無言のバーナードに、フィリップは声をかける。
「団長……まだ怒っているのですか。ずっと貴方は怒っているじゃないですか」
「当たり前だ」
「毎日するのがそんなにキツイんですか」
「こんな場所でそういう話をするんじゃない」
バーナードがぎょっとしてフィリップに言うと、フィリップは切なげにバーナードを見つめて言った。
「だって団長はずっと怒って私を無視しているから。ここで話すしかないです」
「……黙っていろ」
「今日は私の屋敷に来てくださいね」
「……お前はしつこいからいやだ」
フィリップはそのバーナードの言葉にショックを受けていた。
「だって私達は夫婦なんですよ。しつこいなんて、ヒドイですね」
「本当のことだろうが。いいか、お前はその絶倫を少し治せ」
「…………今日は貴方が嫌と言っても、引きずってでも貴方を私の屋敷に連れていきますからね」
フィリップの青い目が剣呑な光を浮かべていることに気が付き、バーナードはゾクリと身を震わせた。
だが、気を取り直して、ワインを口にする。
「…………フン、俺がまた逃げるだけだ。フィリップ副騎士団長」
“精力に満ち溢れる存在”になったというフィリップは、王太子並の絶倫になってバーナードを困らせていた。
そして思う存分バーナードの身を貪れるようになったフィリップにとって、バーナードとのセックスはこの上なく気持ちが悦く、彼は夢中になっていた。
彼は屋敷に帰ると常にバーナードの身を貪る。それこそ朝まで延々と。
それにバーナードは嫌気が差していた。
フィリップのことは愛している。
だが、しつこい彼は嫌いだった。
「貴方だっていつも気持ちが悦いと言って啼いているじゃないですか」
バーナード騎士団長の顔が赤く染まり、彼はわなわなとその手を震わせる。
まったくどうしてこんなことになってしまったんだと、バーナードは思った。
彼と共に生きることを望んだ。自分のせいで、身体に害が出ないように願った。
それなのに、彼は絶倫になってしまって、毎日朝まで、バーナードを啼かせるようになったのだ。
こんなことを望んだのではない!!
小さな妖精達が人々の目にその姿が見えないようにしながら、白い花を小さな手で撒き散らす。
雪のように頭上からはらはらと落ちる白い花。風に乗って舞い上がる。緑の芝生の上、青い空の下、それはどこか夢のように美しい光景だった。
妖精女王が魔法で空に七色の虹をかけた。
人々の歓声の中、マグルとカトリーナは笑顔で口づけを交わしたのだった。
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