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第十章 王宮副魔術師長の結婚
第六話 結婚式の招待状
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妖精の王族達が住まう城に到着した。
立派な門前には、門番らしき者も立っておらず、相変わらず出入り自由の状態だった。
バーナードはあまりの開放感に、門番の姿をしばらく探していた。
王族が住む城なのに大丈夫なのだろうか。
ふわふわと飛ぶ小さな妖精達に案内されて、城の大広間に辿り着いた。
そこには、妖精女王、妖精王子、そして妖精王子のお妃であるセリーヌが立派な椅子に座っていた。
長い茶色の髪に、小さな冠をつけ、白いドレスを纏っているセリーヌは眩しいほどに美しかった。
背中には隣の王子と同じ、アゲハ蝶の翅が生えている。
カトリーヌは、姉の姿に気が付くと声を上げてすぐに駆け寄った。
「お姉さま」
「カトリーヌ」
二人の少女はすぐに抱き合う。
「どうしたの、カトリーヌ。また迷い込んでしまったの?」
懐かしい妹の姿に、セリーヌは緑の瞳を潤ませている。
その言葉に、慌ててカトリーヌは傍らの小柄な青年を紹介した。
「こちら、マグルさんといって、私の婚約者です」
マグルはカトリーヌと王子達に恭しく一礼する。
「今度、結婚することになったの。それをお姉さまにお伝えしに来たの」
それにセリーヌは頬を紅潮させて喜びの声を上げた。
「おめでとう、カトリーヌ」
再びぎゅっと妹の身体を抱きしめる。
「ありがとう」
そうしてしばらくの間抱き合っていた二人だったが、やがてカトリーヌはいそいそと懐から四通の白い封書を取り出した。蝋で封をされた流麗な文字の招待状である。
「お父様が、私の結婚式で是非、お姉さま方にお会いしたいと言っているの。出席して頂けないかしら」
この妖精の国に来るにあたって、マグルとカトリーヌはよく話し合っていた。
通常、結婚式に招くとなれば、姉の結婚相手も招待するだろう。
実際に足を運ぶかどうかはわからない。
だが、セリーヌの伴侶の妖精王子にも招待状を渡すのが筋だった。
同じように、妖精女王や、ご隠居様と呼ばれる祖父も呼ぶべきだとして招待状を作成したのだった。
それを聞いたフィリップは(あの、妖精女王を結婚式に招くなどとは……さすがマグル、懐が広すぎる)と感心する一方で、彼女の暴走を抑えるため、絶対に同じテーブルにバーナード騎士団長を配するべきだと助言しようと考えていた(バーナードが妖精女王に睨みをきかせる構図になる)。
セリーヌは傍らの妖精王子に目を遣ると、王子は頷いていた。
「喜んで出席させて頂くわ。招待状をありがとう」
「ありがとう、お姉さま」
これでマグルとの結婚が父に認められると、カトリーヌもマグルも顔を綻ばせる。
二人がそっと手を握り合っている様子に、セリーヌも微笑んでいた。
それまで、密かにバーナード騎士団長に睨まれて、まるで蛇に睨まれた蛙の如く大人しくなっていた妖精女王であったが、自分宛の結婚式の招待状を受け取って、まるで子供のようにポカンとした顔をしていた。
「わらわに……わらわに結婚式の招待状だと……こんな……こんなものを受け取るのは初めてじゃ」
それを聞いたフィリップも、カトリーヌも、妖精女王の人望の無さに憐れみが込み上げてきた。
今まで一度も、結婚式の招待状を受け取ったことがないとは。
女王なのに……。
「……喜んで出席させて頂く……」
ぽつりと妖精女王はそう言い、フィリップとバーナードは視線を交わした。
彼女の席は、ガッチリとその周囲を、バーナードとその友人の勇猛果敢な騎士達で固めなければならない、と。
(ただし、勇猛果敢な騎士達は、妖精女王の餌食になる可能性があった)
結婚式の日程や会場など、ワイワイと楽しそうに話している一行の元に、お仕着せを着た小さなかわいらしい妖精が一人、飛んで来て言った。
「フィリップ様、ご隠居様がお呼びです」
立派な門前には、門番らしき者も立っておらず、相変わらず出入り自由の状態だった。
バーナードはあまりの開放感に、門番の姿をしばらく探していた。
王族が住む城なのに大丈夫なのだろうか。
ふわふわと飛ぶ小さな妖精達に案内されて、城の大広間に辿り着いた。
そこには、妖精女王、妖精王子、そして妖精王子のお妃であるセリーヌが立派な椅子に座っていた。
長い茶色の髪に、小さな冠をつけ、白いドレスを纏っているセリーヌは眩しいほどに美しかった。
背中には隣の王子と同じ、アゲハ蝶の翅が生えている。
カトリーヌは、姉の姿に気が付くと声を上げてすぐに駆け寄った。
「お姉さま」
「カトリーヌ」
二人の少女はすぐに抱き合う。
「どうしたの、カトリーヌ。また迷い込んでしまったの?」
懐かしい妹の姿に、セリーヌは緑の瞳を潤ませている。
その言葉に、慌ててカトリーヌは傍らの小柄な青年を紹介した。
「こちら、マグルさんといって、私の婚約者です」
マグルはカトリーヌと王子達に恭しく一礼する。
「今度、結婚することになったの。それをお姉さまにお伝えしに来たの」
それにセリーヌは頬を紅潮させて喜びの声を上げた。
「おめでとう、カトリーヌ」
再びぎゅっと妹の身体を抱きしめる。
「ありがとう」
そうしてしばらくの間抱き合っていた二人だったが、やがてカトリーヌはいそいそと懐から四通の白い封書を取り出した。蝋で封をされた流麗な文字の招待状である。
「お父様が、私の結婚式で是非、お姉さま方にお会いしたいと言っているの。出席して頂けないかしら」
この妖精の国に来るにあたって、マグルとカトリーヌはよく話し合っていた。
通常、結婚式に招くとなれば、姉の結婚相手も招待するだろう。
実際に足を運ぶかどうかはわからない。
だが、セリーヌの伴侶の妖精王子にも招待状を渡すのが筋だった。
同じように、妖精女王や、ご隠居様と呼ばれる祖父も呼ぶべきだとして招待状を作成したのだった。
それを聞いたフィリップは(あの、妖精女王を結婚式に招くなどとは……さすがマグル、懐が広すぎる)と感心する一方で、彼女の暴走を抑えるため、絶対に同じテーブルにバーナード騎士団長を配するべきだと助言しようと考えていた(バーナードが妖精女王に睨みをきかせる構図になる)。
セリーヌは傍らの妖精王子に目を遣ると、王子は頷いていた。
「喜んで出席させて頂くわ。招待状をありがとう」
「ありがとう、お姉さま」
これでマグルとの結婚が父に認められると、カトリーヌもマグルも顔を綻ばせる。
二人がそっと手を握り合っている様子に、セリーヌも微笑んでいた。
それまで、密かにバーナード騎士団長に睨まれて、まるで蛇に睨まれた蛙の如く大人しくなっていた妖精女王であったが、自分宛の結婚式の招待状を受け取って、まるで子供のようにポカンとした顔をしていた。
「わらわに……わらわに結婚式の招待状だと……こんな……こんなものを受け取るのは初めてじゃ」
それを聞いたフィリップも、カトリーヌも、妖精女王の人望の無さに憐れみが込み上げてきた。
今まで一度も、結婚式の招待状を受け取ったことがないとは。
女王なのに……。
「……喜んで出席させて頂く……」
ぽつりと妖精女王はそう言い、フィリップとバーナードは視線を交わした。
彼女の席は、ガッチリとその周囲を、バーナードとその友人の勇猛果敢な騎士達で固めなければならない、と。
(ただし、勇猛果敢な騎士達は、妖精女王の餌食になる可能性があった)
結婚式の日程や会場など、ワイワイと楽しそうに話している一行の元に、お仕着せを着た小さなかわいらしい妖精が一人、飛んで来て言った。
「フィリップ様、ご隠居様がお呼びです」
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