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【短編】
王宮副魔術師長の春 (上)
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突如、王立騎士団団長室の扉がバーンと大きく開かれた。
そこにあったのは、小柄な王宮副魔術師長マグルの姿だった。
彼は満面に笑みを浮かべて、部屋の中にいた騎士団長バーナードと副騎士団長フィリップにこう言い放った。
「聞いてくれ、二人とも。僕、ついに」
顔がパァァァと明るく輝いた。
「彼女が出来たんだ!!!!」
「おめでとう、マグル」
バーナードは書類の積み上がったデスクの椅子から立ち上がり、マグルに握手を求めた。
マグルは嬉々としてバーナードの前まで回ると、彼の手を両手で包むようにしてぶんぶんと上下に揺すっていた。
「ありがとう、ありがとう、バーナード」
「おめでとうございます、マグル」
「ありがとう、フィリップ」
マグルは少し涙ぐんでいた。
前の彼女には振られており(ヒドイ話だが、いつの間にか彼女は結婚していたらしい※)、それ以来、仕事にかまけてずっと彼女の席は不在だった。欲しい欲しいと思いながらも、毎日残業続きでそれどころではない。王宮副魔術師長という要職にある彼は、激務だった。
騎士団長バーナードと副騎士団長フィリップの二人が結婚して、その仲の良さが妬ましくて、ついつい嫌味を言ってしまうことも多かったが、これからは違う。もう、妬ましいと思うことも無くなる。独身者が妬ましく思うくらいにこの恋の素晴らしさを見せつけてやろうと思っているマグルだった。
実際、マグルの目から見ても、今のバーナードとフィリップは熱々だった。
結婚した当初は、どうなるものかと思っていたが(当初、騎士団長バーナードは副騎士団長フィリップに「押し切られて結婚させられました感」がありありと漂う状況だった。その目は虚ろだった)、今ではこんなに仲良しなのだから。
バーナードが、マグルに尋ねた。
「それで、お前の彼女はどこの誰なんだ」
「カトリーヌちゃんと言うんだ。図書館で知り合った」
どこかで聞いたことのある名だった。バーナードは再度、彼女のフルネームを尋ねた。
それにマグルは答えた。
「カトリーヌ=マクレイガーという。お義父さんは大学の教授をしているらしい」
そこで、フィリップとバーナードは顔を見合わせた。
バーナードは「ああ、王都釣り倶楽部の」と言い、フィリップは「……妖精王子の」と呟いていた。
そう、妖精王子の元へ輿入れしたセリーヌの妹であった。
思い起こせば、茶色の髪に緑色の大きな瞳のかわいらしい少女だった。
バーナードは顎に手を当てた。
「確か、あの娘は十代半ばだと思ったが……」
二十代後半のマグルとは十歳以上の年の差がある。
「バーナード、お前も僕達の交際を反対するのか!!」
お前も?
お前もって、もう反対する者がいるのか。
バーナードが視線をマグルにやると、マグルはため息混じりでこう答えた。
「カトリーヌのお義父さんが、僕達の交際に反対なんだ」
そこにあったのは、小柄な王宮副魔術師長マグルの姿だった。
彼は満面に笑みを浮かべて、部屋の中にいた騎士団長バーナードと副騎士団長フィリップにこう言い放った。
「聞いてくれ、二人とも。僕、ついに」
顔がパァァァと明るく輝いた。
「彼女が出来たんだ!!!!」
「おめでとう、マグル」
バーナードは書類の積み上がったデスクの椅子から立ち上がり、マグルに握手を求めた。
マグルは嬉々としてバーナードの前まで回ると、彼の手を両手で包むようにしてぶんぶんと上下に揺すっていた。
「ありがとう、ありがとう、バーナード」
「おめでとうございます、マグル」
「ありがとう、フィリップ」
マグルは少し涙ぐんでいた。
前の彼女には振られており(ヒドイ話だが、いつの間にか彼女は結婚していたらしい※)、それ以来、仕事にかまけてずっと彼女の席は不在だった。欲しい欲しいと思いながらも、毎日残業続きでそれどころではない。王宮副魔術師長という要職にある彼は、激務だった。
騎士団長バーナードと副騎士団長フィリップの二人が結婚して、その仲の良さが妬ましくて、ついつい嫌味を言ってしまうことも多かったが、これからは違う。もう、妬ましいと思うことも無くなる。独身者が妬ましく思うくらいにこの恋の素晴らしさを見せつけてやろうと思っているマグルだった。
実際、マグルの目から見ても、今のバーナードとフィリップは熱々だった。
結婚した当初は、どうなるものかと思っていたが(当初、騎士団長バーナードは副騎士団長フィリップに「押し切られて結婚させられました感」がありありと漂う状況だった。その目は虚ろだった)、今ではこんなに仲良しなのだから。
バーナードが、マグルに尋ねた。
「それで、お前の彼女はどこの誰なんだ」
「カトリーヌちゃんと言うんだ。図書館で知り合った」
どこかで聞いたことのある名だった。バーナードは再度、彼女のフルネームを尋ねた。
それにマグルは答えた。
「カトリーヌ=マクレイガーという。お義父さんは大学の教授をしているらしい」
そこで、フィリップとバーナードは顔を見合わせた。
バーナードは「ああ、王都釣り倶楽部の」と言い、フィリップは「……妖精王子の」と呟いていた。
そう、妖精王子の元へ輿入れしたセリーヌの妹であった。
思い起こせば、茶色の髪に緑色の大きな瞳のかわいらしい少女だった。
バーナードは顎に手を当てた。
「確か、あの娘は十代半ばだと思ったが……」
二十代後半のマグルとは十歳以上の年の差がある。
「バーナード、お前も僕達の交際を反対するのか!!」
お前も?
お前もって、もう反対する者がいるのか。
バーナードが視線をマグルにやると、マグルはため息混じりでこう答えた。
「カトリーヌのお義父さんが、僕達の交際に反対なんだ」
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