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第九章 夢を渡る
第五話 王宮副魔術師長との会話
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その日の晩、バーナードが自分の屋敷に帰るというので、フィリップはまた手土産を持って王宮副魔術師長のマグルの元を訪ねた。
少し遅い時間だったが、マグルはフィリップを歓迎してくれた。
フィリップが持参したチーズとワインを喜んで受け取ってくれる。
「じゃあ、つまみながら話そうか」
チーズの他にも燻製肉の薄切りなどをテーブルに載せ、ワイングラスをいそいそとマグルは用意している。
皿を並べながら、マグルは話していた。
「何か話したいことがあるんだろう」
バーナードがサキュバスであることを知っているのは、フィリップの他はこの王宮副魔術師長のマグルだけだった。
だから、バーナードに関する悩みなどを打ち明けられるのは、彼しかいない。
「ええ」
フィリップは椅子に座り、マグルに勧められるままワインを口に含んだ。
「実は昨日、バーナードが私の夢の中へ渡ってきたんです」
「お前、バーナードが夢を渡ることには反対だったはずじゃないか」
「バーナードが、やりたいと言ったんです。突然その能力に目覚めて、わからないまま使い出したらまずいだろうと言って」
「確かにそうだな」
マグルはもぐもぐとチーズを食べている。彼は酒よりもつまみが好きなようだ。
「それで、私の夢の中に彼が入ったのですが」
「ちょっと待て。お前の夢の中にどうやって入ったんだ? そこを詳しく教えてくれ。任意の相手の夢に入ることができるのか?」
「私は彼のことを意識しながら眠りました。彼も私の夢の中に入ることを思いながら眠ったと思います」
マグルは顎に手を当てて考え込んでいた。
「とすると、互いに思い合えば、夢の中へ招くことができるということか。面白い。それでどうした?」
「夢の中で彼と会うことができました」
「それで、バーナードとセックスしたわけか」
マグルの率直な言葉に、フィリップは頬を赤く染めた。
「ちょっとお前、やつれているからそうなんだろう。バーナードに精力を吸い取られたんだな。いい思いをしたんだろう」
「……否定はしませんね。夢の中の彼は最高でした」
その言葉に、マグルは半目になって、グラスの中のワインをあおった。
「ケッ、この新婚野郎どもが!!」
「すみません」
フィリップはワインを飲みつつ、顔のほてりを感じていた。
「……問題は、片方だけが切望した場合、バーナードが夢を渡ることがあるのかどうかという点と、無差別に夢を渡ることがあるのかということだな」
「…………………………どういうことですか?」
「俺も色々とサキュバスの生態を調べてみたんだ。サキュバスは夢魔だ。双方で思い合わないと夢を渡れないとなると、奴らはやっていけないはずだ。だからきっと、無差別に夢を渡ることもあるし、相手がサキュバスを招こうと呼ぶこともあると思う」
マグルは燻製肉の薄切りを口に入れてモグモグとしていた。
そしてフィリップは、マグルの言葉に考え込んでいた。
「サキュバスを招こうと呼ぶとは?」
「……セーラ妃からヒアリングしたことがある。彼女はサキュバスの友人があり、そのサキュバスのことをいつも考えていたらしい。そうすると彼女の招きでサキュバスはセーラ妃の元に渡った」
「私達と一緒ですね。サキュバスの友人もセーラ妃に会いたいと思って渡ったのでは?」
「途中からはそうなっただろう。だけど、最初はどうだ? 彼女達は最初から友人であったわけではない。どちらかがどちらかを見初めて欲したのだろう。最初はサキュバスである友人がセーラ妃を見初めて欲したのかも知れない」
「……そうですね」
「でも、美しいサキュバスに渡って欲しいと願う者もいる。サキュバスの虜になるという奴だ。一般的にサキュバスは美しい女の姿をとる。それこそ男の夢を体現したような存在だ。魅力的な姿に性技。それで精を搾り取られるわけだ。獲物となる美しい若者の元を訪れる。ああ、フィリップ、お前は十分にサキュバスの獲物になるにふさわしい若さと美しさを持っていると思うよ」
「…………」
「精力に満ち溢れた若者を獲物とするんだ。たとえ無差別に渡ろうともそういう相手を狙うだろうし、招きに応える時も当然、そういう相手の招きに応えると思う」
「バーナードは、私以外の人間の招きに乗る可能性があるというんですか?」
マグルはワインをあおった。
「“淫夢”と同じだ。彼はまだ制御できないだろう」
少し遅い時間だったが、マグルはフィリップを歓迎してくれた。
フィリップが持参したチーズとワインを喜んで受け取ってくれる。
「じゃあ、つまみながら話そうか」
チーズの他にも燻製肉の薄切りなどをテーブルに載せ、ワイングラスをいそいそとマグルは用意している。
皿を並べながら、マグルは話していた。
「何か話したいことがあるんだろう」
バーナードがサキュバスであることを知っているのは、フィリップの他はこの王宮副魔術師長のマグルだけだった。
だから、バーナードに関する悩みなどを打ち明けられるのは、彼しかいない。
「ええ」
フィリップは椅子に座り、マグルに勧められるままワインを口に含んだ。
「実は昨日、バーナードが私の夢の中へ渡ってきたんです」
「お前、バーナードが夢を渡ることには反対だったはずじゃないか」
「バーナードが、やりたいと言ったんです。突然その能力に目覚めて、わからないまま使い出したらまずいだろうと言って」
「確かにそうだな」
マグルはもぐもぐとチーズを食べている。彼は酒よりもつまみが好きなようだ。
「それで、私の夢の中に彼が入ったのですが」
「ちょっと待て。お前の夢の中にどうやって入ったんだ? そこを詳しく教えてくれ。任意の相手の夢に入ることができるのか?」
「私は彼のことを意識しながら眠りました。彼も私の夢の中に入ることを思いながら眠ったと思います」
マグルは顎に手を当てて考え込んでいた。
「とすると、互いに思い合えば、夢の中へ招くことができるということか。面白い。それでどうした?」
「夢の中で彼と会うことができました」
「それで、バーナードとセックスしたわけか」
マグルの率直な言葉に、フィリップは頬を赤く染めた。
「ちょっとお前、やつれているからそうなんだろう。バーナードに精力を吸い取られたんだな。いい思いをしたんだろう」
「……否定はしませんね。夢の中の彼は最高でした」
その言葉に、マグルは半目になって、グラスの中のワインをあおった。
「ケッ、この新婚野郎どもが!!」
「すみません」
フィリップはワインを飲みつつ、顔のほてりを感じていた。
「……問題は、片方だけが切望した場合、バーナードが夢を渡ることがあるのかどうかという点と、無差別に夢を渡ることがあるのかということだな」
「…………………………どういうことですか?」
「俺も色々とサキュバスの生態を調べてみたんだ。サキュバスは夢魔だ。双方で思い合わないと夢を渡れないとなると、奴らはやっていけないはずだ。だからきっと、無差別に夢を渡ることもあるし、相手がサキュバスを招こうと呼ぶこともあると思う」
マグルは燻製肉の薄切りを口に入れてモグモグとしていた。
そしてフィリップは、マグルの言葉に考え込んでいた。
「サキュバスを招こうと呼ぶとは?」
「……セーラ妃からヒアリングしたことがある。彼女はサキュバスの友人があり、そのサキュバスのことをいつも考えていたらしい。そうすると彼女の招きでサキュバスはセーラ妃の元に渡った」
「私達と一緒ですね。サキュバスの友人もセーラ妃に会いたいと思って渡ったのでは?」
「途中からはそうなっただろう。だけど、最初はどうだ? 彼女達は最初から友人であったわけではない。どちらかがどちらかを見初めて欲したのだろう。最初はサキュバスである友人がセーラ妃を見初めて欲したのかも知れない」
「……そうですね」
「でも、美しいサキュバスに渡って欲しいと願う者もいる。サキュバスの虜になるという奴だ。一般的にサキュバスは美しい女の姿をとる。それこそ男の夢を体現したような存在だ。魅力的な姿に性技。それで精を搾り取られるわけだ。獲物となる美しい若者の元を訪れる。ああ、フィリップ、お前は十分にサキュバスの獲物になるにふさわしい若さと美しさを持っていると思うよ」
「…………」
「精力に満ち溢れた若者を獲物とするんだ。たとえ無差別に渡ろうともそういう相手を狙うだろうし、招きに応える時も当然、そういう相手の招きに応えると思う」
「バーナードは、私以外の人間の招きに乗る可能性があるというんですか?」
マグルはワインをあおった。
「“淫夢”と同じだ。彼はまだ制御できないだろう」
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