騎士団長が大変です

曙なつき

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第七章 加護を外れる

第十四話 帰還

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 大妖精の老人の魔法によって、四人は人の世界に再び戻って来ることができた。
 現れたセリーヌとカトリーヌを、父親である教授はきつく抱きしめ、そして家へと連れて帰っていく。
 帰宅後、きっと喧々囂々けんけんごうごうの家族会議だろうと思われた。


 バーナードは王宮に、国宝の竜剣を返しにいくと告げた。
 いくら寵愛する騎士団長に対するものとはいえ、やすやすと国宝を貸してしまうエドワード王太子も王太子のような気がした。
 それだけ、バーナードを信頼し、愛しているのだろう。

 だが、彼はこの自分と共にあることを望んでくれた。

 フィリップは屋敷に帰るなり、すぐさまバーナードを寝台に引き込んだ。
 バーナードは、未だに心配していた。

「……フィリップ、俺とそういうことをすると、お前の身体を害するかも知れない」

 苦しそうに言うその彼の頬に口づけする。

「私は貴方としている最中に、死んでもいいと思うくらい、貴方を愛しています。何よりも誰よりも」

「……フィリップ」

 何かを言いかけるその唇を塞いで、その身を寝台の上に押し倒す。
 互いの唇を夢中になって貪りながら、彼の服を脱がせていく。

 右手にはめられていたあの“封印の指輪”を取り上げてしまう。

「私の前では、この指輪をしないでください。私が貴方を満たします」

「……フィリップ」

「大丈夫です。時期が来れば貴方と釣り合うようになるというのでしょう」

 首筋を食み、その胸を舐め、彼の股間の欲望を優しく扱いていく。
 目元を赤く染め、彼は熱く息を吐いた。
 もう片手で彼の後孔に触れ、指を咥えさせると、身体を震わせて悦びを露わにする。

「貴方をずっと抱きたかった」

 妖精の国へ行ってから、あの好色な妖精女王につけ狙われながらも、いつも想っていたのは目の前の黒髪の男のことだけだった。

 彼に囚われている。
 心は彼の元にあり、もはや離れられなかった。

 もし仮に、彼が人間でなくなっているというのであるならば、それがなんだと言うのだろう。

 妖精の王子と恋に落ちたセリーヌも口にしていたではなかったか。

 異種族婚は古来からよくあることだと。

 魔に囚われ、魔と婚姻を為す。
 そして彼を愛する。


「愛していますよ、騎士団長」

 足を開かせ、ゆっくりと彼の中を満たしながらそう言うと、彼はフィリップの肩に手を回し、耳元で囁いた。

「俺もだ、フィリップ」



 


 後日、バーナードは、王宮副魔術師長で親友のマグルの元へと足を運び、久々に“鑑定の水晶玉”に手をかざした。

 その水晶玉を使わせて欲しいと願われたマグルは「なんだろう」と疑問を抱きながらも、テーブルに透明な水晶玉をコトリと置いた。
 そして、目の前の騎士団長が手をかざした。マグルはその水晶玉を覗きこんだ時、彼は絶句していた。

「……………え? これって……これってどういうこと。加護が……加護が称号に変わっているの?」

 そこにあったのは、“淫魔の王女の加護”という言葉ではなく、“淫魔の王女”という称号であった。
 つまりは。



「バーナード……お前、淫魔サキュバスになっちゃったの?」




 そういうことだった。

 それもただのサキュバスではない。淫魔の一族の高位貴族たる、“淫魔の王女”の称号を持つのだ。

「え……だからなの」

 そこでようやく、マグルもに落ちたのだ。
 バーナードに対してのみ“封印の指輪”が効力があったのは、彼自身が淫魔だからだ。
 “封印の指輪”は、魔であるそれを封印することができる。対して、セーラ妃は人間だから効果はない。

 そして一方のバーナードも、理解したことがあった。
 サキュバスは、淫夢を人間に見せる。それで相手を捕え、相手から精力を奪う。

 以前、フィリップが朝、おかしな様子だったことが何度かあった。
 あの時、彼は淫夢を見て、精力を貪り取られたのではないかと思った。
 共に暮らし、共に愛し合った自分達であるから、そうしたことはあり得るだろうと思った。



「…………どーするの? バーナード」

 どこか途方に暮れたように言うマグルに、バーナードは言った。

「どうもしない。今までと変わらないだろう」

 え、そうなの?

 そういった表情を見せ、しばらく考え込んだマグルであったが、確かに今までと何か変わることがあるかというと、ないように思えた。
 実際、いつからバーナードがサキュバス化していたのかわからなかったが、そのまま彼は日常を過ごしていたのだから。

 バーナード自身、淫魔になってしまったことに思うことがないわけではない。王家に仕える騎士団長が、“淫魔の王女の加護”を受けた人間ではなく、淫魔そのものになっているのである。
 だが、それで何か問題があるのかというと、今のところ大きな問題が思いつかなかった(加護を受けていた時と、何が変わるのか未だにバーナード自身わかっていなかった)。

「……フィリップが大変そうだな。あいつ、お前に精力絞りとられて。ん、いや、妻役があいつだから絞りとるのはフィリップになるのか? ん?」

 とマグルは余計なことを考えて首を傾げている。
 そんな彼を放っておいて、バーナードはフィリップの屋敷に戻っていった。
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