騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

騎士団長とケモミミ事件 (4)

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 翌朝、目が覚めた時、寝台の傍らにはバーナードはいなかった。
 フィリップは起き上がり、寝室を出ると、台所に彼の姿はあった。
 彼は鍋の料理を味見しながら、フィリップに気が付き、挨拶をした。

「おはよう、フィリップ」

「…………」

 フィリップの青い目が見開かれる。思わずバーナードの近くに駆け寄り、彼の姿を上から下までまじまじと眺めてしまった。




 あの……
 あのケモミミと、魅惑の黒の尻尾が影も形もなく消え失せていたのだ。



 内心、膝から崩れ落ちて、フィリップは地面を両手で叩いていた。
 あまりにも悲しかった。


 昨日のあのケモミミと尻尾は、夢だったのだろう。
 一夜の、フィリップの願望が見せつけた夢。


「朝食の支度ができているが、もう食べるか?」

 問いかけるバーナードに、フィリップは弱々しくうなずいた。

「…………はい」

「どうした、元気がないな」

「…………………とても……とても悲しいことがありました」

 そう言うフィリップの額に、バーナードは自身の額をコツンと合わせ、優しく言った。

「そうか。元気を出すんだ。今日は昨日の煮込みを温めたものだけど、味がしみて美味しくなっているぞ」

「………はい」

 どこからが夢で、どこからが現実だったのかよくわからない。
 バーナードが魚の煮込み料理を作ってくれた時、彼の背にはすでに黒い尻尾が揺れていた。
 そして美味しい料理を一緒に食べたのだ。

 その料理はここにある。


「そんなに悲しいことがあったのか?」

 問いかけるバーナードに、フィリップは深々とうなずいた。

「ええ、とても」


 フィリップは一週間ほど立ち直れないでいた。
 そのせいか食欲も落ちて少し痩せたため、皆に「どうしたんだ」と心配される有様だった。
 (バーナードもひどく心配した)

 ただフィリップは、しばらくの間、バーナードの頭や後ろを見て、またあの尻尾が出現しないかと探す日々が続いたのであった。
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