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【短編】
騎士団長とケモミミ事件 (2)
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やはり、バーナードの耳と尻尾が見えているのは、自分だけであった。
バーナードが訓練場で訓練を始めても、誰も彼の頭にケモミミがあることに突っ込まない。その後ろで黒い尻尾がゆらゆら揺れていても気にもしていない。まるで、見えていないかのようだった。
(見えているのは、自分だけなのか)
(私だけがおかしくなっているのか。いわゆる……幻覚ということか)
しかし、団長室で尻尾を掴んだ時、団長は声を上げて反応したのだ。
アレを見る限り、実体としてあるようだ。
(……あの尻尾、触り心地が良かった。天鵞絨のように滑らかで……)
そしてかわいい。
こんなことを言うと、団長に怒られそうだと思ったが、真面目な顔で職務に励む彼の頭にケモノの耳と、その後ろに黒い尻尾がゆらゆらと揺れているのを見ると、心が和んだ。
(私にしか見えないようだけど、団長に害は無さそうだし、このままでいいかも)
そんなことまでフィリップは思い始めていた。
そんなケモミミの団長と仕事に励み、バーナードは今日もまた自身の屋敷に戻る日であったのだけど、その日、フィリップは懇願するようにバーナードへ言った。
「今日は、私の屋敷に泊まってください。後生です」
頭を下げ、そこまで頼み込むフィリップの姿を見るのは初めてだった。
バーナードはフィリップの金の頭に手をやり、その髪をくしゃりと混ぜた。
「朝からおかしいぞ。どうしたんだ、フィリップ」
「……疲れているのかも知れません。だから、バーナード」
「……今日は俺が料理を作ってやろう。お前はゆっくり休め」
そう優しく言うケモミミ団長を見て、フィリップは自分の心の汚さを実感した。
(そんな優しくしないでください)
(私は……私はケモミミ団長を愛でたいだけなんですから)
そう、ケモミミ団長が寝台の上でも違うかどうか、実地で調べたいと思う、すっかり心の汚れきったフィリップであった。
バーナードはフィリップの屋敷へ行くと、すぐに料理を作り始めた。
彼は意外と料理が上手だ。野外訓練の一環で、騎士達は料理がある程度できることを求められていたが、バーナードは下手な料理人以上の腕前を持っていた。得意は当然のように魚料理である。
その日も、市場で煮込むと旨いという魚を買ってきて、さばいて煮込んでいる。
台所に立つ彼の後ろで、黒い尻尾がゆらゆらと揺れているのを、フィリップはソファーに座ってじっと眺めていた。
(尻尾のある団長もいいな……)
気が付いていないようだが、バーナードはその尻尾も使って料理をしていた。棚から塩の小瓶に黒い尻尾が巻き付かせて取ったりしている。あまりにも自然に使っている。
そして料理が出来た。
フィリップが煮込み料理を「美味しい」と褒めると、バーナードの頭の耳はピコピコと動き、尻尾がぶんぶんと激しく揺れているのを見て、(ああ、ケモミミ団長がかわいすぎる。もうずっとこのままでいい。うん。このままケモミミでいさせて下さい)と神に祈る気持ちすら湧き上がっていた。
食事を終え、入浴も済ませた二人は、寝室の大きな寝台の上に横たわる。
フィリップの体調が悪いと考えているバーナードは、フィリップの横で大人しく横向きに眠っている。
そこでフィリップは気が付いた。
(そうか……尻尾があると仰向けに寝ることはできないのか)
仰向けになると、尻の部分にある尻尾を潰してしまうからである。
(つまり尻尾がある獣人とする時は、正常位はできずに、バックか対面座位がいいのか)
そんな余計な知識を得たフィリップであるが、寝つきの良いバーナードがほどなくしてスヤスヤと寝息を立て始めていることに慌てた。
彼はバーナードの後ろに手を回し、その尻尾の付け根を掴んだ。
途端、バーナードは悲鳴を上げ、真っ赤な顔で、涙目でフィリップを睨みつけた。
「なっ、なっ、なっ、何をする!!」
不思議なことに、バーナードは自分の尻に尻尾が生え、頭に耳があることを認識していない。
けれど触れると感じるようだった。
それも、ひどく敏感に感じるのがわかった。
バーナードが訓練場で訓練を始めても、誰も彼の頭にケモミミがあることに突っ込まない。その後ろで黒い尻尾がゆらゆら揺れていても気にもしていない。まるで、見えていないかのようだった。
(見えているのは、自分だけなのか)
(私だけがおかしくなっているのか。いわゆる……幻覚ということか)
しかし、団長室で尻尾を掴んだ時、団長は声を上げて反応したのだ。
アレを見る限り、実体としてあるようだ。
(……あの尻尾、触り心地が良かった。天鵞絨のように滑らかで……)
そしてかわいい。
こんなことを言うと、団長に怒られそうだと思ったが、真面目な顔で職務に励む彼の頭にケモノの耳と、その後ろに黒い尻尾がゆらゆらと揺れているのを見ると、心が和んだ。
(私にしか見えないようだけど、団長に害は無さそうだし、このままでいいかも)
そんなことまでフィリップは思い始めていた。
そんなケモミミの団長と仕事に励み、バーナードは今日もまた自身の屋敷に戻る日であったのだけど、その日、フィリップは懇願するようにバーナードへ言った。
「今日は、私の屋敷に泊まってください。後生です」
頭を下げ、そこまで頼み込むフィリップの姿を見るのは初めてだった。
バーナードはフィリップの金の頭に手をやり、その髪をくしゃりと混ぜた。
「朝からおかしいぞ。どうしたんだ、フィリップ」
「……疲れているのかも知れません。だから、バーナード」
「……今日は俺が料理を作ってやろう。お前はゆっくり休め」
そう優しく言うケモミミ団長を見て、フィリップは自分の心の汚さを実感した。
(そんな優しくしないでください)
(私は……私はケモミミ団長を愛でたいだけなんですから)
そう、ケモミミ団長が寝台の上でも違うかどうか、実地で調べたいと思う、すっかり心の汚れきったフィリップであった。
バーナードはフィリップの屋敷へ行くと、すぐに料理を作り始めた。
彼は意外と料理が上手だ。野外訓練の一環で、騎士達は料理がある程度できることを求められていたが、バーナードは下手な料理人以上の腕前を持っていた。得意は当然のように魚料理である。
その日も、市場で煮込むと旨いという魚を買ってきて、さばいて煮込んでいる。
台所に立つ彼の後ろで、黒い尻尾がゆらゆらと揺れているのを、フィリップはソファーに座ってじっと眺めていた。
(尻尾のある団長もいいな……)
気が付いていないようだが、バーナードはその尻尾も使って料理をしていた。棚から塩の小瓶に黒い尻尾が巻き付かせて取ったりしている。あまりにも自然に使っている。
そして料理が出来た。
フィリップが煮込み料理を「美味しい」と褒めると、バーナードの頭の耳はピコピコと動き、尻尾がぶんぶんと激しく揺れているのを見て、(ああ、ケモミミ団長がかわいすぎる。もうずっとこのままでいい。うん。このままケモミミでいさせて下さい)と神に祈る気持ちすら湧き上がっていた。
食事を終え、入浴も済ませた二人は、寝室の大きな寝台の上に横たわる。
フィリップの体調が悪いと考えているバーナードは、フィリップの横で大人しく横向きに眠っている。
そこでフィリップは気が付いた。
(そうか……尻尾があると仰向けに寝ることはできないのか)
仰向けになると、尻の部分にある尻尾を潰してしまうからである。
(つまり尻尾がある獣人とする時は、正常位はできずに、バックか対面座位がいいのか)
そんな余計な知識を得たフィリップであるが、寝つきの良いバーナードがほどなくしてスヤスヤと寝息を立て始めていることに慌てた。
彼はバーナードの後ろに手を回し、その尻尾の付け根を掴んだ。
途端、バーナードは悲鳴を上げ、真っ赤な顔で、涙目でフィリップを睨みつけた。
「なっ、なっ、なっ、何をする!!」
不思議なことに、バーナードは自分の尻に尻尾が生え、頭に耳があることを認識していない。
けれど触れると感じるようだった。
それも、ひどく敏感に感じるのがわかった。
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