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【短編】
騎士団長と会議は踊る (5)
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第五話 血気盛んな男達
大森林から現れる大型魔獣シンディアは、今年後半に現れるだろうと予想されていた。
予知の才を持つ神官達の言葉による『シンディア出現予想地図』が、壁に貼りだされ、会議の参加者達に『予想進行ルートマップ』が配布される。
七年毎に定期的に現れる魔獣のため、その対策についても手慣れたものであった。予想地図やルートマップが発表されるようになった時には、会議場が拍手喝采に包まれたという。
各国の文官達もその優れた頭脳を使って、いかにわかりやすく会議の参加者達に伝えるか知恵を絞っているようだった。
椅子に座りながら、バーナードはマップを開く。
大森林のどこから出現し、どう進行するか、それが一番の肝なのだ。
討伐するのは、その国の騎士団の騎士だけで足りればいいのだが、戦力の足りない小国は、助力を他国に願わなければならなくなる。
バーナードが驚いたのは、今年の出現予想国が、七年前の前回と同様にエルドラント王国であったからだ。
エルドランド王国の騎士団では、おそらくシンディアを倒しきれないであろう。
バーナードはフィリップや文官達と視線を交わす。
七年前と同じく、我が王国との共同作戦になるであろうと見込まれた。
実際、近くの席に座っているエルドランド王国の騎士団長ハロルドの顔色はあまりよくない。共にいるエルドランド王国王子ラーグも青ざめていた。
エルドランド王国が再びシンディアに縦断される場合は、助力を申し出るように言われていた。
かの国には国王の妹姫が嫁いでおり、関係が極めて良好であったからだ。
バーナードが立ち上がり、王子ラーグへ声をかけようとしたその時、ルーサー騎士団長が声をかけてきた。
「バーナード騎士団長が前回同様にご助力ですか」
バーナードはため息をついた。
仕方なく、赤毛の大男の騎士の方に身体を向ける。
「それがどうかしたか」
会議場の者達は二人の騎士団長の会話に注目し始めていた。
「いえ、さすがだと思っただけです。前々回からの討伐成功者たる余裕を感じました。私の再戦からは逃げ回っているのに、獣相手には余裕を見せるのですね」
フィリップが怒りに碧い目を吊り上げ、前に出ようとするのを見て、バーナードはそれを手で制する。
「キャンキャンうるさい奴は相手にしないことにしている」
その言葉に、今度はルーサー騎士団長のそばの騎士達が色めき立ち、剣の柄に手をかけていた。
バーナードの傍らのフィリップにちらりと視線をやり、ルーサーは言葉を続けた。
「美しい伴侶を得て、意気軒高とは結構なものだ騎士団長。だが、気を付けることだ。この王国にいる間は、ゆめゆめ大切なものから目を離さないように」
「…………」
その時、バーナードはその茶色の瞳でルーサーを強く睨みつけた。
どこか猛獣めいたその強い視線に、ルーサーはひやりと背中に汗を掻いた。危険な獣の尾を踏んだ。そんな思いが心をよぎり、怯えを一瞬覚え、慌ててそれを否定した。
バーナードは無言で、エルドランド王国の王子や騎士達のそばへ行き、穏やかに話し始めた。
「ルーサー騎士団長、あいつ、団長に相手にされないからって最低だ」
宿の部屋に戻るなり、フィリップは“静寂の魔道具”を起動させ、彼にしては珍しく苛立って声をあげ、ソファに乱暴に座った。
苛々している副騎士団長をちらりとバーナードは見つめて、ため息をつく。
「ああいう手合いは無視するに限る」
「むしろ、さっさと再戦してやって、あいつをコテンパンにしてやるのはどうですか。きっとスッキリしますよ」
「……面倒だ」
倒しても倒しても挑戦してくる姿が目に浮かぶ。
「それよりも、フィリップ。身辺に気を付けろ。アレはお前にも目を付けている」
「あんな男に私がやられるはずはありません、団長」
フィリップは不敵に微笑み、そしてソファに座るバーナードの頬に手をそっと添えた。
「仮にもあなたの副騎士団長を拝命しているのです。そうですね、私があなたの代わりにあいつをコテンパンにするのもいいかも知れない」
「…………余計に面倒なことになるからやめておけ」
「心配して下さるのですか、団長」
フィリップはとろけるような視線を、最愛の男に向け、その唇に口づけた。
「今度団長に無礼なことを言ったら、あいつに決闘を申し込んでいいですか?」
「だめだ」
バーナードは頭が痛くなってきた。
フィリップは、その冷静に見える外見と裏腹に、意外と血の気が多い。
特に敬愛するバーナードに関しては、頭に血が上りがちであった。
大森林から現れる大型魔獣シンディアは、今年後半に現れるだろうと予想されていた。
予知の才を持つ神官達の言葉による『シンディア出現予想地図』が、壁に貼りだされ、会議の参加者達に『予想進行ルートマップ』が配布される。
七年毎に定期的に現れる魔獣のため、その対策についても手慣れたものであった。予想地図やルートマップが発表されるようになった時には、会議場が拍手喝采に包まれたという。
各国の文官達もその優れた頭脳を使って、いかにわかりやすく会議の参加者達に伝えるか知恵を絞っているようだった。
椅子に座りながら、バーナードはマップを開く。
大森林のどこから出現し、どう進行するか、それが一番の肝なのだ。
討伐するのは、その国の騎士団の騎士だけで足りればいいのだが、戦力の足りない小国は、助力を他国に願わなければならなくなる。
バーナードが驚いたのは、今年の出現予想国が、七年前の前回と同様にエルドラント王国であったからだ。
エルドランド王国の騎士団では、おそらくシンディアを倒しきれないであろう。
バーナードはフィリップや文官達と視線を交わす。
七年前と同じく、我が王国との共同作戦になるであろうと見込まれた。
実際、近くの席に座っているエルドランド王国の騎士団長ハロルドの顔色はあまりよくない。共にいるエルドランド王国王子ラーグも青ざめていた。
エルドランド王国が再びシンディアに縦断される場合は、助力を申し出るように言われていた。
かの国には国王の妹姫が嫁いでおり、関係が極めて良好であったからだ。
バーナードが立ち上がり、王子ラーグへ声をかけようとしたその時、ルーサー騎士団長が声をかけてきた。
「バーナード騎士団長が前回同様にご助力ですか」
バーナードはため息をついた。
仕方なく、赤毛の大男の騎士の方に身体を向ける。
「それがどうかしたか」
会議場の者達は二人の騎士団長の会話に注目し始めていた。
「いえ、さすがだと思っただけです。前々回からの討伐成功者たる余裕を感じました。私の再戦からは逃げ回っているのに、獣相手には余裕を見せるのですね」
フィリップが怒りに碧い目を吊り上げ、前に出ようとするのを見て、バーナードはそれを手で制する。
「キャンキャンうるさい奴は相手にしないことにしている」
その言葉に、今度はルーサー騎士団長のそばの騎士達が色めき立ち、剣の柄に手をかけていた。
バーナードの傍らのフィリップにちらりと視線をやり、ルーサーは言葉を続けた。
「美しい伴侶を得て、意気軒高とは結構なものだ騎士団長。だが、気を付けることだ。この王国にいる間は、ゆめゆめ大切なものから目を離さないように」
「…………」
その時、バーナードはその茶色の瞳でルーサーを強く睨みつけた。
どこか猛獣めいたその強い視線に、ルーサーはひやりと背中に汗を掻いた。危険な獣の尾を踏んだ。そんな思いが心をよぎり、怯えを一瞬覚え、慌ててそれを否定した。
バーナードは無言で、エルドランド王国の王子や騎士達のそばへ行き、穏やかに話し始めた。
「ルーサー騎士団長、あいつ、団長に相手にされないからって最低だ」
宿の部屋に戻るなり、フィリップは“静寂の魔道具”を起動させ、彼にしては珍しく苛立って声をあげ、ソファに乱暴に座った。
苛々している副騎士団長をちらりとバーナードは見つめて、ため息をつく。
「ああいう手合いは無視するに限る」
「むしろ、さっさと再戦してやって、あいつをコテンパンにしてやるのはどうですか。きっとスッキリしますよ」
「……面倒だ」
倒しても倒しても挑戦してくる姿が目に浮かぶ。
「それよりも、フィリップ。身辺に気を付けろ。アレはお前にも目を付けている」
「あんな男に私がやられるはずはありません、団長」
フィリップは不敵に微笑み、そしてソファに座るバーナードの頬に手をそっと添えた。
「仮にもあなたの副騎士団長を拝命しているのです。そうですね、私があなたの代わりにあいつをコテンパンにするのもいいかも知れない」
「…………余計に面倒なことになるからやめておけ」
「心配して下さるのですか、団長」
フィリップはとろけるような視線を、最愛の男に向け、その唇に口づけた。
「今度団長に無礼なことを言ったら、あいつに決闘を申し込んでいいですか?」
「だめだ」
バーナードは頭が痛くなってきた。
フィリップは、その冷静に見える外見と裏腹に、意外と血の気が多い。
特に敬愛するバーナードに関しては、頭に血が上りがちであった。
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