騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
9 / 560
第二章 副騎士団長がおかしいです

第四話 副騎士団長は何か企んでいるようです

しおりを挟む
「神官に言われた後、酒は試してみたんですか」

「すでに薬がすごく効きやすくなっている。ハイポーションを飲んだら、古傷もすべて消え失せた。あそこまで効くことは普通ないだろう。酒もおそらく、飲んだ瞬間に昏倒するんじゃないか」

「……試してみましょう」

 副騎士団長フィリップはそう持ちかけた。

「試すわけがないだろう!! お前は何を考えている」

「団長を昏倒させたいと思ってます」

「ふざけるな!!」

 怒りに満ちた声で叫ぶ騎士団長。すぐさま強引にその唇を重ねた。片手で彼の肩を掴み、もう片手でその後頭部を押さえつける。口に含んだワインを口移しし、舌も入れようとすると、噛みつかれた。

「やめろ、馬鹿!!」

「噛みつくなんてひどいですね」

 バーナードの唇から白ワインが零れ落ちる。吐き出そうとするが、少し飲み込んでしまったらしい。
 彼は目を押さえた。

「……くそったれ」

 唇からほんの数滴移しただけなのに、効果は覿面だった。
 彼はその逞しい上体を揺らしはじめ、ぐらりと椅子から落ちそうになった。慌ててそれを抱える。

「団長、本当に酒がダメになったんですね」

「…………フィリップ……この……憶えていろ」

 視界が歪む。やがて眼が開けられなくなったようで、彼の瞼が落ちた。
 それを見た後、フィリップは店の女主人に勘定を持ってこさせ、会計を済ませた後、呼び寄せた馬車に酔い潰れた騎士団長を運んだのだった。






 目が覚めた時、自分にのしかかっていたのは案の定、副騎士団長のフィリップだった。驚くほどの美貌の男の顔が真近にあった。
 そして、寝台の上で、自分が一糸も纏わぬ裸の状態であることに、ため息をついた。

「フィリップ、お前はおかしい」

 目を覚ました騎士団長バーナードがそう言うと、フィリップは笑った。

「開口一番がそれですか、団長」

 フィリップはバーナードの肌に舌を這わしていく。柔らかい舌が這い回るその感触が、ぞくぞくするほど気持ちが良いことに気が付いた。バーナードは眉間に皺を寄せ、声を漏らさぬように耐えた。
 神官の言うように、敏感になっているのだ。気を抜けば、自分の口から喘ぐ声が零れそうだった。

「やめろ。こんな男の身体を愛撫して、抱こうとしても楽しくないだろう。お前ほどの奴なら、女ならよりどりみどりのはずだ。女を誘え」

「…………」

 フィリップは、バーナードを上から見下ろし、一瞬、泣きそうな顔をした。

「……ダメだったんです」

「…………」

「女を抱こうとしても、ダメだったんです」

 バーナードの眉間にはくっきりと深い皺が刻まれた。

「……マジか」

「だから、団長が責任を取ってください」

「……悪いが、それは無しにしてくれ。男が好きになったとしても、別に俺である必要はないだろう」

 正論である。
 フィリップは、バーナードの身体に抱きついた。切なげな熱い息を吐きながら、触れていく。
 的確に、バーナードのイイ所に触れていく彼の手の感触に、バーナードは気が狂いそうなほどの快感を覚えていた。すでに股間の男根は固く張り詰めている。

 これはヤバい。
 これ以上はマズイ。

「団長でないとダメなんです。もう他の男なんて考えられません」

 そんなことを耳元で言われたバーナードは、発狂しそうな気持ちだった。

 こいつは何を言っている。

 だが、逃げようにも身体に力が入らなかった。
 酒の影響かと思ったが、違う。
 身体が、男を欲しているのだ。
 身の奥に、またあの刺激が欲しいとねだっている。

 それに気が付いた時、バーナードは絶望した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)
BL
【男子校には「姫」がいる……。らしい。】 高校生活最後の年明け、サークはクラスの「姫」に選ばれる事になった。可愛くも美人でもない平凡な自分が何で「姫」?!と思ったが、これはクラスに目ぼしい姫タイプがいなかったC組の、バレンタインに各クラスの「姫」に貢がれた物の数を競う「バレンタイン合戦」の為の秘策だった……。サークの各レジェンド級ヒロイン系を抑えられる可能性…。それが「平凡激烈愛され系」だった……。聞いた事もないその系統だと判断されたサークは、押し切られる形で数カ月だけ「姫」をやる事になったのだが……。それが本人無自覚の熾烈な争いになっていくとは、その時、クラスメイトも本人も思いもしなかったのだ……。 ※この話は「欠片の軌跡」の「if」となります。ですが本編とは全然違う話になっていますので、本編を読んでいなくてもお楽しみ頂けます。 (同じ名前の人が出てくるだけで違う世界の話となりますので、人間関係などもこちらはこちら、本編は本編で異なっています。) ※本編がBL/R-18作品(特殊嗜好作品)となりますので無関係の不特定多数の方の目にとまる様な外部へのリンク付け等お止め下さい。ご配慮頂けますと幸いです。(LGBTQとBL/R-18作品を好む好まないは異なる事項となりますのでご理解頂けますと幸いです。) 【転載禁止】【無許可ダウンロード禁止】

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

敗者は勝者に辱められ性処理道具と化す -体育会サッカー部vsサッカーサークルの試合結果の行方は…-

藤咲レン
BL
ひょんなことから同じ大学にあり体育会に所属するサッカー部と同好会扱いのサッカーサークルが試合をすることになり、まさかの体育会サッカー部が敗北。それにより体育会サッカー部のキャプテンを務めるリョウスケを含め部員たちは、サークルのキャプテンを務めるユウマたちから辱めを受けることになる。試合後のプレイ内容というのは・・・・。 あとがき:前半は勝者×敗者によるエロ要素満載、最後はちょっと甘々なBLとなっています。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

おっさん家政夫は自警団独身寮で溺愛される

月歌(ツキウタ)
BL
妻に浮気された上、離婚宣告されたおっさんの話。ショックか何かで、異世界に転移してた。異世界の自警団で、家政夫を始めたおっさんが、色々溺愛される話。 ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

処理中です...