騎士団長が大変です

曙なつき

文字の大きさ
上 下
3 / 568
第一章 騎士団長が大変です

第三話 襲いかかる騎士団長

しおりを挟む
「……バーナード……団長?」

 彼はハァハァと荒く息を吐き続けている。

 そのまま彼は、フィリップのそばまで突進してきた。
 危険を感じたフィリップが後ずさると、彼は足を使ってフィリップを蹴り倒し、その上に跨った。
 体格の良いバーナードの体重がかかり、フィリップは顔をしかめつつ、正気を取り戻してもらいたくて、彼の名を何度も叫んだ。

「団長!! 目を覚ましてください、バーナード団長」

「……くそっ、無理だ。こんなの耐えられない」

 茶色の目からぽたりと涙が零れる。正気と狂気の狭間にいるようで、彼は苦痛を吐露していた。

「……団長、大丈夫ですか」

「くそっ、くそっ、だめだ。ああ、もうくそ」

 日頃、汚い言葉で悪態をつくことのないバーナードである。相当な苦痛なのだろう。
 そんな彼をじっと見上げて、フィリップは言った。

「……私は、団長なら抱かれてもいいです」

 その言葉に、バーナードは思い切り叫んだ。

「くそったれ!! そんなことを言うな。耐えきれなくなる」

「男同士のやり方は、知っています」

 ぎょっとしてバーナードは自分が組み伏せているフィリップを見つめた。
 なんでそんなことを知っているんだといわんばかりの視線である。

「こうした外見なので、若い頃から誘われていました。ああ、勘違いしないでください。好んでしたことは一度もありません」

 フィリップがその美しい外見のせいで、子供の頃から苦労していた話は聞いていた。
 あまりにもひどい目にも遭ったことがあるせいで、一時期バーナードが彼を庇護していたこともあった。

 バーナードは眉をぎゅっと寄せた。

「俺が取り憑かれたのはサキュバスだ」

「……?」

「抱かれるのは俺の方になるんだ。くそっ、耐えきれない、こんなこと!!」

 バーナードは叫ぶ。
 それにフィリップは動きを止めた。

「私が………………団長を抱くんですか」

 想像したこともない事態だった。





 この目の前の雄々しくも凛々しいバーナード騎士団長を抱く。剣豪の称号を持ち、誰よりも強く、勇敢で騎士の中の騎士と称される男を抱く。逞しい筋肉の持ち主のこの男を、抱く?
 一瞬考えこんだ後、すぐにフィリップは言った。
 
「大丈夫です。団長なら私、イケそうです」

 意気込んで言うフィリップの言葉に、バーナードは首を振った。絶望的な眼差しで副騎士団長を見遣った。

「……やめてくれ。俺が耐えられない。もう言うな」

 フィリップは自分の上に跨るその男の太腿にそっと手を這わせた。びくんと身体を震わせるバーナードを見つめる。フィリップの青い瞳に欲の色があるのを、バーナードは初めて認めた。

「団長を抱きたいです」

「言うな!! もう聞きたくない」

「団長なら、抱けるんですよ。本当に」

 自分の上に跨っていた彼を、今度はぐるりと下に押し倒し、フィリップは自分の方が彼の上に跨ったのだ。

「サキュバスは男の精を欲しがる。それが彼女らの生きるかてだそうです。だから、団長も今は私の精が欲しいはずだ。いや、欲しくてたまらないはずだ」

「……フィリップ」

「私の精をとれば、楽になりますよ、団長」

 それは、よく染みわたる毒のような言葉だった。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

処理中です...