2 / 568
第一章 騎士団長が大変です
第二話 耐える騎士団長
しおりを挟む
侯爵家から馬車を出してもらい、フィリップ副騎士団長はバーナード騎士団長を連れ出した。
騎士団長は眉間に深い皺を寄せ、耐えるようにじっとしていた。
あの時、“淫魔の王女”は、美しい面にまざまざと侮蔑の表情を浮かべ、こう言い放った。
『わたくしを捕えて自分のものにしようだなんて、なんて身の程知らずな人間どもよ。その愚かさの罰を受けるといい。そうね、あなた……』
黒い巻き毛を揺らし、赤い唇の端をくっと釣り上げ、フィリップ副騎士団長に向かって白い手を伸ばした。
『男でもあなたならいいわ。美しいもの。あなたなら、この部屋中の男から精を絞り取れるでしょう。ウフフフフフフ、アハハハハハハハ、取り憑いた瞬間に、あなた達を襲ってあげるわ。あなた達の×××から思う存分×××して××××してあげるから』
×××部分はあまりにも卑猥な言葉過ぎて、フィリップの頭の中では再生不可能だった。
あの女淫魔がもし、自分に取り憑いていたら、どうなっていただろうと思うと恐ろしい。
取り憑かれた瞬間、周囲の男達に襲いかかっていただろうか。
フィリップを救ったのは近くにいたバーナード騎士団長だった。
彼は無言で、襲いかかってきた“淫魔の王女”の前に立ちはだかり、そして驚いた表情の“淫魔の王女”は、彼に触れた瞬間に消えた。
次の瞬間、バーナードは床に膝をつき、苦しそうに眉を寄せ、耐える様子を見せ始めた。
「団長!!」
庇われた?
それがわかったフィリップは蒼白となり、バーナードの肩を揺すった。それにはバーナードは叫ぶように言った。
「俺に触るな!!」
眉を寄せ、唇を噛み締めている。きつく噛み締めているせいで、そこからは血がにじみ出していた。
ハァハァと荒く息をついて、自分で自分の身を抱きしめるようにしている。
「…………どこかに俺を閉じ込めてくれ。でないと、耐えきれなくなった時に」
耐えきれなくなった時に起こる事態を想像した侯爵と護衛騎士は真っ青になった。
慌てて侯爵は馬車を用意した。フィリップ副騎士団長は屋敷に一人暮らしだった。
すぐさま騎士団長をその屋敷に隔離することにした。
かくして、冒頭の見習い騎士ミカエルが神殿に走る場面に繋がったのである。
フィリップの屋敷に着くまでの間も、バーナード騎士団長はとにかく苦しそうな様子だった。
馬車の振動さえも辛い様子で、目をぎゅっと閉じて、無言だった。
フィリップの屋敷は、通いの家政婦がいるだけのもので、今回の事態には都合が良かった。
寝室のある部屋にバーナードを案内する。
彼は部屋に入るなり言った。
「俺を縛れ、フィリップ」
「……団長」
「早くしろ。そうしないと、俺が耐えられなくなった時にお前を襲う。わかったな。縄でぐるぐる巻きにしろ」
フィリップは悲痛な面持ちでうなずいた。
「わかりました、団長」
そしてどこからか丈夫そうな縄を持ち出し、団長の手を背中でくくった。きつく何重にも結わえる。
茶色の団長の目が、どこか虚ろになってきた。
時折、くそっと叫んでいる。
「早く封印紙で封印してもらわないと、気が狂いそうだ!!」
「団長。……申し訳ありません、私のせいで……」
「それはいいんだ、気にするな」
尊敬する騎士団長の足を引っ張ってばかりだった。副騎士団長フィリップの心は沈む。
彼の役に立ちたいと、王立騎士団に入り、副騎士団長になり、ようやくこの憧れの人に尽くせると思っていたのに。
役立つどころか、このような事態になるとは。
バーナード騎士団長は呻きながら言った。
「フィリップ……部屋から出ろ。いいか、もし、俺がお前に襲いかかったら、俺を倒せ」
「団長?」
「いいか、約束しろ。俺を倒すんだ。怪我をさせてもいい」
ハァハァと息が荒い。その茶色の目が濡れたように輝き、どこか艶めかしく思えてゾクリとした。
「わかったな」
フィリップは部屋を出た。
一緒の部屋にいること自体が、騎士団長を苦しめているように思えたからだ。
そして居間の椅子に座っていると、バーナード騎士団長の居る部屋からモノを倒すような大きな音が響く。
大丈夫だろうかと立ち上がった瞬間、彼の居た部屋の扉が蹴り破られた。
ヒュッと息を飲む。
そこには目をギラギラと輝かせ、手を後ろでに縛られながらも仁王立ちしていた騎士団長の姿があった。
騎士団長は眉間に深い皺を寄せ、耐えるようにじっとしていた。
あの時、“淫魔の王女”は、美しい面にまざまざと侮蔑の表情を浮かべ、こう言い放った。
『わたくしを捕えて自分のものにしようだなんて、なんて身の程知らずな人間どもよ。その愚かさの罰を受けるといい。そうね、あなた……』
黒い巻き毛を揺らし、赤い唇の端をくっと釣り上げ、フィリップ副騎士団長に向かって白い手を伸ばした。
『男でもあなたならいいわ。美しいもの。あなたなら、この部屋中の男から精を絞り取れるでしょう。ウフフフフフフ、アハハハハハハハ、取り憑いた瞬間に、あなた達を襲ってあげるわ。あなた達の×××から思う存分×××して××××してあげるから』
×××部分はあまりにも卑猥な言葉過ぎて、フィリップの頭の中では再生不可能だった。
あの女淫魔がもし、自分に取り憑いていたら、どうなっていただろうと思うと恐ろしい。
取り憑かれた瞬間、周囲の男達に襲いかかっていただろうか。
フィリップを救ったのは近くにいたバーナード騎士団長だった。
彼は無言で、襲いかかってきた“淫魔の王女”の前に立ちはだかり、そして驚いた表情の“淫魔の王女”は、彼に触れた瞬間に消えた。
次の瞬間、バーナードは床に膝をつき、苦しそうに眉を寄せ、耐える様子を見せ始めた。
「団長!!」
庇われた?
それがわかったフィリップは蒼白となり、バーナードの肩を揺すった。それにはバーナードは叫ぶように言った。
「俺に触るな!!」
眉を寄せ、唇を噛み締めている。きつく噛み締めているせいで、そこからは血がにじみ出していた。
ハァハァと荒く息をついて、自分で自分の身を抱きしめるようにしている。
「…………どこかに俺を閉じ込めてくれ。でないと、耐えきれなくなった時に」
耐えきれなくなった時に起こる事態を想像した侯爵と護衛騎士は真っ青になった。
慌てて侯爵は馬車を用意した。フィリップ副騎士団長は屋敷に一人暮らしだった。
すぐさま騎士団長をその屋敷に隔離することにした。
かくして、冒頭の見習い騎士ミカエルが神殿に走る場面に繋がったのである。
フィリップの屋敷に着くまでの間も、バーナード騎士団長はとにかく苦しそうな様子だった。
馬車の振動さえも辛い様子で、目をぎゅっと閉じて、無言だった。
フィリップの屋敷は、通いの家政婦がいるだけのもので、今回の事態には都合が良かった。
寝室のある部屋にバーナードを案内する。
彼は部屋に入るなり言った。
「俺を縛れ、フィリップ」
「……団長」
「早くしろ。そうしないと、俺が耐えられなくなった時にお前を襲う。わかったな。縄でぐるぐる巻きにしろ」
フィリップは悲痛な面持ちでうなずいた。
「わかりました、団長」
そしてどこからか丈夫そうな縄を持ち出し、団長の手を背中でくくった。きつく何重にも結わえる。
茶色の団長の目が、どこか虚ろになってきた。
時折、くそっと叫んでいる。
「早く封印紙で封印してもらわないと、気が狂いそうだ!!」
「団長。……申し訳ありません、私のせいで……」
「それはいいんだ、気にするな」
尊敬する騎士団長の足を引っ張ってばかりだった。副騎士団長フィリップの心は沈む。
彼の役に立ちたいと、王立騎士団に入り、副騎士団長になり、ようやくこの憧れの人に尽くせると思っていたのに。
役立つどころか、このような事態になるとは。
バーナード騎士団長は呻きながら言った。
「フィリップ……部屋から出ろ。いいか、もし、俺がお前に襲いかかったら、俺を倒せ」
「団長?」
「いいか、約束しろ。俺を倒すんだ。怪我をさせてもいい」
ハァハァと息が荒い。その茶色の目が濡れたように輝き、どこか艶めかしく思えてゾクリとした。
「わかったな」
フィリップは部屋を出た。
一緒の部屋にいること自体が、騎士団長を苦しめているように思えたからだ。
そして居間の椅子に座っていると、バーナード騎士団長の居る部屋からモノを倒すような大きな音が響く。
大丈夫だろうかと立ち上がった瞬間、彼の居た部屋の扉が蹴り破られた。
ヒュッと息を飲む。
そこには目をギラギラと輝かせ、手を後ろでに縛られながらも仁王立ちしていた騎士団長の姿があった。
45
お気に入りに追加
1,149
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる