ちびっこ怪獣三匹、異世界に降り立つ～異世界転移は課外活動に入りますか？～

第２章 ちびっこ怪獣三匹、事の次第を知る

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　同じ読書でも、料理の本やレシピ集を好むカエデと違い、コズエが好むのは冒険小説や恋愛小説といった娯楽系だ。
　クラスで異世界転移モノのアニメが流行ってからは、似通ったジャンルの本を読みあさっていたのを、光太は見て知っている。

　いまこそその知識を披露してもらう時である。
　なんかアイデアを寄越せと光太は、無茶振りもはなはだしくコズエに迫ることにした。

「え？　なんでアタシ？　てか、女子を名前で呼び捨てにするなっていつも言ってるでしょ」

「なんでだよ。名前呼びのが仲良しっぽいだろ？」

　仲良しもなにも、光太はクラスメイトのほとんどを、名前で呼んでいる。
　以前同じクラスだった子たちも、そのまま名前呼びである。
　特別親しい友人だから名字ではなく名前で呼ぶんだろうと主張されても、いまいち信用できないコズエである。
　単に、光太のパーソナルスペースがやたらと狭いだけだと知ってしまえばそうでもないのだが、女子からしてみれば、光太の距離の詰めかたは、やや馴れ馴れしく感じられてしまう。

「呼び捨てにしないでって言ってるの。だいたい、それを言うなら金堂はどうなのよ？　名字呼びじゃない」

「金堂はいいんだよ。名前にスープレックスがあるから、名字で呼ぶのが友情なの」

「コウちゃん、違う」

「それを言うならコンプレックスだから」

　金堂は、名前の『巌いわお』をもじって『石男いしおとこ』とからかわれていた時期があり、名前で呼ばれるのをひどく嫌がる。
　昔は名前で呼んでいた光太たちだったが、本人があまりに嫌がるので、いまは名字呼びに変えている。

　低学年の頃は、しょうもないことで笑いをとろうとして、ネタにされた本人の気持ちなんてこれっぽっちも考えていないヤツが何人かいた。
　きっかけは、金堂の名前の漢字が難しくて読めないとかなんとか、そんなことだったように思う。
　みんなでわいわい調べて意味がわかると、『じゃあ今日から石男だな！』と誰かが言って、何人かのクラスメイトにウケけた。
　それからソイツは金堂が嫌がるのすらネタにして、しつこく金堂に絡みだした。

　金堂が嫌がれば笑いがおきて、怒って怒鳴れば冗談に本気になるなよと、イヤな笑いを浮かべてみせる。
　先生が注意をしても知らん顔。
　そんなことが長く続いて－－……。

　光太たちを含めた半数は嫌がる金堂をかばってソイツらと喧嘩したり、クラスが半分にわかれたりといろいろあって、金堂は名前で呼ばれると返事をしなくなった。
　高学年になってソイツらとは違うクラスになっても、金堂は名前で呼ばれると嫌な顔をする。

　だから、仲のいい者ほど、金堂を名字で呼ぶ。
　それが友情の証だからだ。

「人の嫌がることはしない。当然のことだろ」

「コウちゃんそれ、説得力ないからね」

「だったら女子も、ちゃんと本人の希望通り呼ばなきゃダメだぞ」

　きりりっとした顔で胸を張る光太を、ユーゴとケースケが左右から突っ込む。
　言ってることは正論だが、やっていることがともなっていない。

　光太にはそろそろ、本心からではない拒否であっても、ダメ出しをされたらあきらめることも覚えて欲しいふたりである。