愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【首吊りの木】

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 まあ、虎蔵にゃあしょっちゅう作らされているし。最近じゃあ、九十九にせがまれて怪異用の作り置き惣菜なんかも作ってる。素人料理ではあれど、人様に出しても恥ずかしくない程度の料理は作れている--はずだと思っているのだが。
 どいつもこいつも、人に作らせておいて遠慮がないのはどういう訳か。

「残りはオレと佐津川さんの分だから、おかわりなんぞない」

 地方出張組を除いた主要メンバー全員が仕事の合間に呪いの根元を探して出歩く羽目になって、書類仕事の大半は、留守居役の佐津川さんと雑用係のオレに回ってきている。
 原因となった詞葉さんにも書類仕事をやらせようとはしたらしいのだが、若者言葉--というより、独特の感性でもって綴られる文章で埋め尽くされてゆく書類を見て、佐久間のおっさんと佐津川さんの額に青筋が浮かんだ為、却下となった。
 しがない雑用係でしかないオレには専門知識が必要な書類には手が出せず、主に佐津川さんが書類をさばいてくれているのだが、全員分を肩代わりするとなれば、かなりの量になる。
 食事の時間を削って頑張ってくれていた佐津川さんだったが、飄々としているようでいて、それなりに煮詰まってきていたのか。『出張料理人をやるならボクの分も』と、材料代をそっと握らせてきた。
 家にも帰れず、食事も出来合いの物やインスタント食品ばかりで、さすがの佐津川さんも疲労が溜まってきているのだろう。

 詞葉さんの呪いが進行しないよう気を配りつつ、大量の書類に埋もれる佐津川さんのやつれた顔を見れば否やを唱えられるはずもなく。ついでだからと、オレの分も含めて、三人前の炒飯を作った--つもりだったのだが。
 詞葉さんの胃袋も、虎蔵とさして変わらない大きさをしているらしい。

「え~ッ! 呪われて可哀想な先輩の為の出張料理人でしょ。なくなったら追加で作ればいいじゃないさ」

「あんたな。呪われてるなら呪われてるで、もうちょっとそれらしくしてろよ」

 自分が呪われているとわかったら、もう少し慌てるなり怖がるなりするのが普通だと思う。なのに、どこまでも行き当たりばったりと言おうか、同僚をあてにしすぎと言おうか。詞葉さんはいつも通りどころか、ここぞとばかり我が儘三昧で、気を揉んでいるこちらが馬鹿らしくなってくる。

「それらしくって? 怯えて震えて絶望に打ち拉がれながら泣いてろとでも?」

「違えよ。食っちゃ寝してないで、呪いを祓う努力とか、進行させない為の努力をしろって話だ」

 佐津川さんの疲労具合に比べて、書類仕事を免除され、のほほんと食っちゃ寝している詞葉さんの顔色は、艶々のピカピカだ。
 なんとかしようと必死になっているこちらが馬鹿らしくなってくる。
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