愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【護り人形】

拾漆

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 オフィスいっぱいに広がっていた顔が小さくなりながら、ぐぐっとオレの方へと押し寄せてくる。

 ギョッとして逃げを打とうにも行き場はなく。身を起こした狗呂が迎撃体勢に入るのを、成す術もなく見つめる。
 だが、人形師はオレの前までやって来ると、ピタリと動きを止めた。そのまま何をするでもなく、少しでも動こうものなら触れてしまいそうなほど近くからじっとオレの目を覗き込み--……。

〖コドモ、ミツケタ。コドモォ、コドモコドモコドモコドモコドモ、コドクナ……コドモォォオ!! オヤノナイコドモ!! アノヒトノォオォ、コドモォオォッッッ!!!!!!!〗

 唐突に叫び声を上げるや、ぐるぐるとオレの周りを回り始めた。
 狗呂が激しく吠えたててもお構いなしだ。歓喜の叫び声を上げながら目まぐるしく大きさを変え、ぐるぐるぐるぐる。オフィス中のモノを巻き上げ、壁に激突し、跳ね返されしながら、とんでもないスピードで生首が飛び回る。

「子供を見つけた………? って、ああ!? ちょっと龍くん! ボクさっき、むやみやたらと強力な物の怪を生み出しちゃ駄目って言ったよね!? ストーップ! 止めて止めて!!」

 そんな中、何かに気付いたらしい佐津川さんが、焦った口調で何事かを叫ぶ。

「はい?」

 しかしながら、頭を直接揺さぶるような大声でひたすら喚き散らしている人形師のせいでうまく聞き取れず、慌てて聞き返そうとしたが遅かった。

 ぐるぐるぐるぐる。オフィス中をかき乱しながら回り続け、少しずつ人形師から元の美女に姿を変えた怪異、は。

〖ワタシノボウヤ〗

 聞き捨てならない台詞と共にオレをふわりと優しく抱き締め、て。

「へ……? あ、あーッ! ちょっと待ったぁあッ!」

 佐津川さんが言わんとしていた事を理解したオレの制止も虚しく、輪郭が滲むように溶けて淡い光の粒子となった怪異は、そのまま人形の中に吸い込まれていってしまった。

「あぁああぁあッ!」

 後はもう、いつかの焼き直しだった。
 経年劣化で色褪せていたドレスが見る間に鮮やかな色を取り戻し、傷みが生じていたストロベリーブロンドの髪が、しなやかさと艶やかさを取り戻していく。
 どこかで見た--というか。九十九が付喪神化した時とまったく同じ現象だ。
 しかも今回は、佐久間のおっさんやベニ姐さんだけでなく、佐津川さんと尼子さんもいて、狗呂までいる。
 下手をすれば九十九より強力な存在になってしまうのではと慌てるオレの頭からひょいと人形の頭へと移動したベニ姐さんが、何故かドヤ顔で胸を張る。
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