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【護り人形】
拾伍
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何かしらの理由で契約者である佐久間のおっさんとだけしか言葉が通じないのか、はたまた何かしらの意味があるのか。ベニ姐さんの言葉は、怪異同士を除けば佐久間のおっさんにしか通じない。
たまにオレに用事がある時でも、九十九か狗呂を介してしか、話しかけてこないのだ。
だから、ベニ姐さんが人形師に向かって何を言ったのかオレにはわからなかったのだが。狗呂にはベニ姐さんの言葉が聞き取れたのだろう。
珍しくもやや慌てた様子でずるりと影から這い出してくるや、腹で抱え込むようにして、ぐるりとオレに巻き付いた。
「ヒュイッ。フィ、フィイッ」
「そりゃあよう。『育児放棄された子供』にゃあ違いねえが、育ち過ぎだろ」
「フィッ!」
「まあ、『護り人形』だ。悪いもんではねえんだろうけど、なあ」
ベニ姐さんに何事かを告げられ、苦々しい顔をした佐久間のおっさんが、しばし迷うようにオレを見る。
そうしてふと、オレの腹に巻き付いて人形を威嚇している狗呂に視線を移すと、諦めたように肩を竦めた。
「あー……。トラに九十九に狗呂だ。今更か」
「ヒュイッ」
「しょうがねえ。その人形は買い取りだ」
「フィイィッ」
さもしぶしぶといった口調で、佐久間のおっさんが告げた『買い取り』という単語に反応して、思わず指にしがみついたままの人形を見下ろす。
虎蔵と九十九と狗呂の名前が何故いまここで出てくるのか気になりはしたが、どうせいまはそれどころじゃないと返されるのがオチだ。
ならば、狗呂が低く唸りつつ威嚇している人形をどうにかする方が先だろう。
佐久間のおっさんが『買い取り』だと告げたという事は恐らく、『祓う』と決めたという事だ。
尼子さんだと勢い余ってオレにまで影響が出るらしいし。
なら佐津川さんかと指示を仰ぐべく顔を向けかけ、いつの間にやらオレを凝視していた人形師とまともに視線が絡む。
狂気と後悔を孕んだ、仄暗い眼差し。
恩人の『最期の想い』を届けるべく、求めて求めて、気の遠くなる年月を経てなおまだ探し求める『未練』の成れの果て。
ここにいるのは、人形師そのものではなく、ただの妄執。無念が未練となって人形に染み付いた、残滓だ。
泣き叫ぶようなその表情を見れば、願い半ばで無理矢理諦めさせるのは哀れにも思えてしまうほどの、渇望。
ただただ、遺していく子供を案じた母親と、そんな母親の『想い』をその子供に届けたかった人形師。
嫉妬がすべての歯車を狂わせ生じた、哀れな妄執。
『母親』の『愛情』を知らないオレからしてみれば、ここまで『想い』を遺してもらえるのは羨ましい限りだ。
たまにオレに用事がある時でも、九十九か狗呂を介してしか、話しかけてこないのだ。
だから、ベニ姐さんが人形師に向かって何を言ったのかオレにはわからなかったのだが。狗呂にはベニ姐さんの言葉が聞き取れたのだろう。
珍しくもやや慌てた様子でずるりと影から這い出してくるや、腹で抱え込むようにして、ぐるりとオレに巻き付いた。
「ヒュイッ。フィ、フィイッ」
「そりゃあよう。『育児放棄された子供』にゃあ違いねえが、育ち過ぎだろ」
「フィッ!」
「まあ、『護り人形』だ。悪いもんではねえんだろうけど、なあ」
ベニ姐さんに何事かを告げられ、苦々しい顔をした佐久間のおっさんが、しばし迷うようにオレを見る。
そうしてふと、オレの腹に巻き付いて人形を威嚇している狗呂に視線を移すと、諦めたように肩を竦めた。
「あー……。トラに九十九に狗呂だ。今更か」
「ヒュイッ」
「しょうがねえ。その人形は買い取りだ」
「フィイィッ」
さもしぶしぶといった口調で、佐久間のおっさんが告げた『買い取り』という単語に反応して、思わず指にしがみついたままの人形を見下ろす。
虎蔵と九十九と狗呂の名前が何故いまここで出てくるのか気になりはしたが、どうせいまはそれどころじゃないと返されるのがオチだ。
ならば、狗呂が低く唸りつつ威嚇している人形をどうにかする方が先だろう。
佐久間のおっさんが『買い取り』だと告げたという事は恐らく、『祓う』と決めたという事だ。
尼子さんだと勢い余ってオレにまで影響が出るらしいし。
なら佐津川さんかと指示を仰ぐべく顔を向けかけ、いつの間にやらオレを凝視していた人形師とまともに視線が絡む。
狂気と後悔を孕んだ、仄暗い眼差し。
恩人の『最期の想い』を届けるべく、求めて求めて、気の遠くなる年月を経てなおまだ探し求める『未練』の成れの果て。
ここにいるのは、人形師そのものではなく、ただの妄執。無念が未練となって人形に染み付いた、残滓だ。
泣き叫ぶようなその表情を見れば、願い半ばで無理矢理諦めさせるのは哀れにも思えてしまうほどの、渇望。
ただただ、遺していく子供を案じた母親と、そんな母親の『想い』をその子供に届けたかった人形師。
嫉妬がすべての歯車を狂わせ生じた、哀れな妄執。
『母親』の『愛情』を知らないオレからしてみれば、ここまで『想い』を遺してもらえるのは羨ましい限りだ。
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