愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【護り人形】

拾弐

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 尼子さんからざっくりまとめた説明を聞いて、佐久間のおっさんが眉を寄せる。

「壊れてもいいならすぐ祓えるぞ」

「歴史資料としての価値があるモノらしいからな。壊すのは却下だ」

 なんでもこの人形は、子どもの遊び道具として実用できるよう、体が自由に動かせる実用性の高いビスクドールが開発されたばかりの頃の物で、歴史的な資料としての価値が高い為、絶対に壊してくれるなと依頼主から念押しされているのだそうだ。

「となると、鎮めるには庇護対象を与えるしかなくなるわけだけど、仮にも怪異を子供に近付けるのはどうかと思いますよ」

「怪異じゃ流石に、這子の代わりにゃならねえわなあ」

「なったとしても怪異は怪異なんだから、どんな影響が出るかもわからないようなモノをそのままには出来ませんよ」

「わかってる」

 オレの持つ人形を見下ろし、佐久間のおっさんが苦い溜め息を吐き出す。
 どうやら稀少かつ高価な品物らしいし、どうしたものか悩んでいるのだろう。

「ほうこ ?」

「簡単に言うと、幼児を守るための祓いの形代……かな? 平安時代から、枕元に飾って子供を病や災厄などから守るために使用された布製の人形でね」

「その後、雛人形として雛段にも飾られるようになった、いわばぬいぐるみの原型だな」

「人形ってなあ元をたどっていきゃあ、人間や動物--生き物のかわりに『生け贄』として祭壇に捧げられたり、呪術的な用途で用いられてたもんだしよ。ソイツも元々は『護りの人形』として作られたんだろうぜ」

 耳慣れない単語に首を傾げたオレに、佐津川さん、尼子さん、佐久間のおっさんの三人が、順繰りに説明を口にする。

「とはいえ、あちこち歩き回るような人形を、そのまま持ち主に返す訳にもいかんしな」

「厳重に封印するくらいしか手はないか」

「歴史資料を封印しちゃっていいものなの?」

 そのまま、人形の処遇をどうするかで話し合いをはじめた三人を横目に、いまだオレの指を掴んだままの人形と重なって視える女の人に目を向ける。
 線の細い、綺麗な人だった。憂いを帯びた表情は、我が子を想うが故のものだろう。
 わざわざ『子供を探してるだけだ』とオレに伝えてきたのも、子供を探す邪魔をされたくないからだ。

 けれど、怪異は怪異。どんな理由であれ、こちらの常識の範疇外にいる存在を、子供の側になど置けるはずもない。
 それに--彼女の子供はもう、とっくの昔に亡くなっているはずだ。

「仕方がない。一端地下の倉庫行きだ」

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