愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【犬神】

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 作り置きの惣菜が食べ尽くされてないのなら今から作るしかないかと食材を取り出しつつ、九十九に言って聞かせる。虎蔵の言うように九十九とコミュニケーションがとれるのなら、こっちの懐事情をきちんと理解させてしまいたい。

 飢えてこの世を去った連中が、常世でまで飢えてるのは気の毒だとは思う。思うがオレの給金は有限だ。誰彼構わず恵んでいたら、こっちの口が干上がっちまう。

 それでなくとも、この家の物はちょくちょくなくなっているんだ。食料まであるだけ持っていかれていたら、破産コースまっしぐらだ。

 雑貨や小物、衣類などは、怪異が持って行ってしまってもいいようにと、佐久間のおっさんが何処からともなく仕入れてきて九十九に渡している。
 女性や子供、ご年配の方々が欲しがるようなモノはそもそもこの家にはないだろうとかなんとか。さも『配慮しました』的な事を言ってはいたが、無害な幽鬼がなんらかの拍子で悪鬼になってしまわないよう、さっさと九十九に処理させてしまおうという魂胆が見え隠れしていたが--……。
 九十九本人が気にしていないのならあえて指摘する必要もないだろう。

〖今後。物の怪、対価、要求〗

「って、待て。んなもんまで出入りしてんのかこの家は」

〖空腹、来訪〗

 飢えた哀れな人影のイメージが、ちょこちょこ動く小さな影にとって変わる。
 二足歩行の狐や狸。兎や鼬、烏といった小動物。果てはよくわからない形状の毛玉やらなんやらまで。
 百鬼夜行図で見たような妖鬼だの妖だの魑魅魍魎だのと呼ばれる類いのモノが、車座になって宴会を開いてるんだがよ。
 九十九おまえコレ。『迷い家』としての活動と、なんの関係もないんじゃないか?

「体のいいお食事処になってるだけじゃねえか。つか、戸締まりはきっちりして出てるのに、どっから入り込んでやがる」

〖中有。裏口、有〗

 こぢんまりとしたどこぞの高級旅館のような佇まいの古家--つまりはこの家の正面からぐるり回って、天地が逆さまになるようなイメージを挟んで、日本昔話に出てくるような日本家屋の画像が、するりと脳裏に描き出される。
 表裏一体、裏と表。
 うつし世にはこの家が。常世側を向いて別の--いや。この家であることには間違いないのだが、生きているものには足を踏み入れることのできないもうひとつの家があって。
 諸々の怪異は何処から出入りしているのかと思いきや、そちら側から礼儀正しく呼び鈴を押して来訪してきていたようだ。

「おまえなあ。増築するなら家主のオレに一言あって然るべきだろうが」
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