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【六従兄弟姉妹(むいとこ)】
捌
しおりを挟む「へ?」
オレの言葉がよほど予想外だったのだろう。必死の形相から一転、虎蔵が間抜け面を晒す。
ああ。コレは本当に、虎蔵には何の思惑もなく、ただ。ガキの頃にお袋さんに言われた言葉を頑なに守っていただけなのだとわかって、知らず苦笑を浮かべる。
出会った頃。他人を拒んでとことん素っ気なかったオレはきっと、『幽霊が見える』だなどと打ち明けられていたら、からかわれたのだと思って気分を害し、虎蔵から距離を置いた。
その点においてお袋さんの見立ては、ちゃんと的を得ていたいたわけだ。
「どんな仕事か聞いたら言い渋っただろう、おまえ。それで、こっちは全部さらけ出してもいいと思うくらいには親しいつもりでも、虎蔵にとっちゃあオレなんかその他大勢の内のひとりなんだな、と思ったらちょっと……な」
でも、そんな言葉にしがみつかなくてもいいくらいにはもう、親しい関係だろう? そう言外に告げた言葉は、けれど。
「だ……ってそんなん。言うたらリュウちゃん引くやろ?」
--……どうしてだか、虎蔵を動揺させた。
間抜け面が苦悩に歪み、暗い眼差しがオレを見上げる。
鏡の中でよく見る、後ろ向きな事ばかりを考えている人間の眼差し。
ネガティブになんかなった事がないんじゃないかと疑いたくなるほど底抜けに明るい虎蔵が、だ。
オレと似たような--いや。オレ以上に暗い目をしているのが不思議だと思うオレはたぶん。いままでずっと、虎蔵の作ってくれた居心地のいい距離感に甘えていたのだろう。
溜め息ひとつ、飲み込んで。
「聞いてみなけりゃわからん」
うろうろとさ迷う虎蔵の視線を捕まえて、真っ直ぐ見つめる。
オレが辛い時には、虎蔵が助けてくれたんだ。虎蔵が辛いと感じているなにかがあるなら、今度はオレが助けになる番だ。
おまえなんぞに何が出来ると思われようが、虎蔵の話を聞いて、受け入れるくらいならオレにだって出来る。
だから、さっさと吐き出して楽になっちまえ。
そう視線に込めた思いが、きちんと伝わったのだろう。
「--……小学生の時な」
「うん」
「怪異に襲われとる友達を助けよと思て、今日と同じような事したら、みんな気持ち悪いもん見るみたいな顔して逃げて行ってしもたんよ。トモくんも、カッちゃんも、クラスの子ぉらあも、全員。昨日まで仲良うしとったのに、オレの周りの友達、だぁれもおらんようなってしもて」
ぽつり、ぽつりと。虎蔵が、泣きそうな顔をして言葉を紡ぐ。
震える唇が語るのは、幼い頃の苦い苦い思い出話。
当時、どうしてクラスメイトから無視されるようになったのかわからなかった虎蔵は、いじめを疑って心配する両親に、きっかけとなった事柄を包み隠さず話したそうだ。
そして、何が悪かったのかを両親に聞いた。
虎蔵にしてみれば、友達を助けただけだ。どうしてみんなから避けられるのか、本気でわかっていなかったらしい。
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