愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【六従兄弟姉妹(むいとこ)】

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 オレを置いてけぼりにして、ぽんぽんぽんと会話が進む。

 そういや、虎蔵んところのお袋さんは、折に触れて『ウチの子、残念馬鹿でごめんなさいね。できれば見捨てないでずっと仲良くしてやってね』と苦笑いしていた気がしなくもない。
 お袋さんが言っていたのはそうかコレかと腑に落ちた途端。ぐちゃぐちゃだった頭が、ストンと冷えた。

 胸の奥でじくじくと存在を主張する小さなトゲは消えないままだが、虎蔵に何の含みもなかったのならしょうがない。どうやら、そう思える程度には、虎蔵との間に積み重ねてきたものがあったらしい。

 ぎゃんぎゃんと賑やかしく知り合いらしき人物に噛みつきに行く虎蔵に、彼のお袋さんと同じような、残念なモノを見る目を向ける。
 そうだよな。顔が良くて明るくて、なのにオレみたいなのが一番の仲良しだとかほざいて纏わりついてくるような奴だ。どこかしら抜けていても不思議ではない。

「だったらなんで、兄さんにどんな職場か聞かれてごまかした?」

「ごまかしてなんかいませんー。オレの職場て、一般人なリュウちゃんにどこまで話してもええんやろって考えとっただけですう。って。いつから盗み見しとった!」

「そんなもん。初めからに決まってんだろうよ。素人さんを投入するんだ。何事もねえよう配慮すんなあ当然だろうが」

 スーツの懐から煙草を取り出して咥えた男の右肩に、何処からともなく現れた小鳥がふわりと留まる。
 ちょんちょんと肩の上を歩き、男の首筋に頭を擦り付ける仕草も愛らしい、賢そうな顔をした紅色の小さな鳥だ。

 赤い色をした小鳥なんて珍しいと思う反面。どこかで見た事があるような気もして小首を傾げる。

「おまえさんが横着して一階のロビーで寛いでる間に襲われかけた兄さんを、このベニがちゃあんと守ったんだ。盗み見だなんぞと人聞きの悪ィ事ぉ言われる筋合いはねえやな」

「襲われかけた……? 嘘つけや。あのおっさんは、急に出てきてびっくりさせるだけやったやないか。せやで、バイトのお人がいきなり出てきたおっさんにびっくりしてビルから逃げて行ったら、入れ替りでオレが処理しに入るて段取りやったやろ」

「不測の事態に備えろとも言っといただろうが。ベニが割り込まなけりゃ、この兄さん。今頃は魅入られて連れていかれてただろうぜ」

 ああ。やはりあの手招きはそういう意味だったのかと思うのと同時。紅色の小鳥をどこで見たのかを思い出す。
 廃ビルの廊下で、足が竦んで動けなくなっていた所に飛び込んできた小鳥だ。
 どこにでもいそうな野鳥に見えるが、野鳥を飼育するには確か、特別な許可かなにかが必要だったはずだ。わざわざ許可を取ってまで野鳥に芸を仕込む手間を考えるに、あの小鳥はなにか特別なのだろう。
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