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【六従兄弟姉妹(むいとこ)】
肆
しおりを挟む「リュウちゃん?」
オレが着いてきていない事に気がついたのだろう。虎蔵が、足を止めて振り返る。
中肉中背。引き締まった体躯は筋肉質で、お洒落な服を着こなした姿は、どこぞのモデルのようだ。実際、虎蔵と街歩きをしていると、スカウトマンらしき人に何度か声を掛けられた事もある。
その際、隣にいたオレは、いつも奇異の目を向けられた。
ひょろりと背だけが高く、痩せぎす。切りっぱなしの黒髪に、目の下の濃い隈。服も、お洒落とは程遠い安物だ。
十人いたら十人ともが美形だと断言するだろう容姿の虎蔵と並んでいれば、引き立て役にもなりゃしない。
考えないようにして目を逸らしてきたがオレは、虎蔵の隣に立つに相応しくない人間なのだろう。
「どないしたん? 今頃具合悪なった?」
小走りで戻ってきた虎蔵が、心配そうにオレの顔を覗き込む。
感情に合わせてくるくるとよく動く猫の目のような瞳はいつも真っ直ぐで。
「いや……なんでもない」
頭半分低い位置にある虎蔵の目を見ていられず、そっと顔を逸らす。どこまでも真っ直ぐな目を見ていたら、奥底に仕舞い込んで蓋をしてたもんまで出てきちまいそうで。
知らず、溜め息が溢れて落ちる。
これまでずっと、自分の感情に蓋をして生きてきた。感情を揺らしても無駄なだけ。オレなんぞ、親にとってすら取るに足らない存在なのだと、小さい頃に思い知った。
両親が離婚する時、オレの意見なんてもの、誰も聞いてくれようとはしなかった。お袋が再婚する時もそう。オレの言葉はどこにも届かず、口を開けばなじられた。
いつの間にやら辛い時ほど口を噤むようになって、児童養護施設に放り込まれた頃にはもう、言葉を飲み込む癖がついていたように思う。
だから、平常心ならばなんとかなった。上手いこと自分の感情にけりをつけられたのに。あのおっさん、人を怖がらせるだけじゃなく、精神状態までぐちゃぐちゃにしていきやがって。
『どうしよう』。そんな言葉が、頭の中でぐるぐる回る。
虎蔵との縁が切れてダメージを受けるのは恐らく、オレの方だけだ。
朗らかで社交性のある虎蔵とは違い、人見知りどころか。くそったれな両親のせいで人間不信気味なオレには、社交性なんてもの欠片も備わっちゃいない。
前の職場で先輩社員のミスを押し付けられた時、誰もなにも教えてくれなかったのは、つまりはそういうことだ。
「なんでもなくない顔色しとるで?」
「だから、大丈夫だって」
オレがよほど酷い顔をしていたのだろう。熱でも計るみたいに額へ伸ばされた手を反射的に払いのけ--……後悔した。
虎蔵が、酷く傷付いた顔をしたからだ。
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