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その19. おにぎりの具、なんにする?
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その時のことを思い返しながら、レンジで温めたおにぎりを頬張る。コンビニおにぎりを食べたのは久しぶりで、なぜかやけに美味しく感じられた。味噌汁もインスタントなのに、一口すするとその塩味や旨味が全身に染み渡るような気がする。
おにぎりと味噌汁の朝食が済むと、健斗がペットボトルのお茶をコップに注いで美晴に渡した。
「コーヒーじゃなくてすみません」
「でもこの流れでいったら、断然にお茶だよ。ありがとう」
受け取ったお茶を一口飲んで、満足のため息を漏らす。テーブルの上には抜け殻のようなおにぎりの包装フィルムが散らばっていた。胃が空っぽの美晴が夢中になっておにぎりを二個食べている間に、残りの四個は健斗が食べきった。がっついた様子も見せずに倍の量を食べるのは、さすが男の人だなと感心する。
「味噌汁とおにぎりっていいね。基本って感じがする」
「飲んだ次の日って、なぜか味噌汁飲みたくなるんですよね」
「だからパンを選ばなかったの?」
「そうかも。でもやっぱり米飯の方が好きです」
「そういえば健斗、コンビニでいつもおにぎりを真剣に選んでいたものね」
美晴がふふっと笑うと、健斗が首を振って否定した。
「いや、あれは美晴さんに会いたくて……」
「え?」
中途半端に言葉を切って、健斗が慌てて視線を逸らす。その態度に、以前陽平が教えてくれたことを美晴は思い出した。
「毎週、水曜日には『コンビニの君』に会いたくて、公園前のあのお店に通ってたって、本当?」
「なぜそれを……、って陽平か」
「おにぎりのコーナー、確かにイートインスペースに近かったね。あれっておにぎりじゃなくて、イートインに近付くのが目的だったの?」
「あ、いや、それだとなんかストーカーっぽい……」
今まで気付かなかったことを確認したいだけなのに、質問すればするほど健斗の顔が赤くなり、動揺する。それを見て、美晴はようやく腑に落ちた。
なんでコンビニでぶつかっただけの人に、とっておきのお店を教えようと思ったのか。一緒にご飯を食べに行くことを了承したのか。そして、試しに寝てみようと思ったのか。
付き合っていくうちにほだされたわけではない。それはきっと――。
「私、最初のころから健斗のこと、好きだったんだ」
「え?」
大きく目を見開き、美晴を真っ直ぐ見つめたまま、健斗の動きが静止した。
おにぎりと味噌汁の朝食が済むと、健斗がペットボトルのお茶をコップに注いで美晴に渡した。
「コーヒーじゃなくてすみません」
「でもこの流れでいったら、断然にお茶だよ。ありがとう」
受け取ったお茶を一口飲んで、満足のため息を漏らす。テーブルの上には抜け殻のようなおにぎりの包装フィルムが散らばっていた。胃が空っぽの美晴が夢中になっておにぎりを二個食べている間に、残りの四個は健斗が食べきった。がっついた様子も見せずに倍の量を食べるのは、さすが男の人だなと感心する。
「味噌汁とおにぎりっていいね。基本って感じがする」
「飲んだ次の日って、なぜか味噌汁飲みたくなるんですよね」
「だからパンを選ばなかったの?」
「そうかも。でもやっぱり米飯の方が好きです」
「そういえば健斗、コンビニでいつもおにぎりを真剣に選んでいたものね」
美晴がふふっと笑うと、健斗が首を振って否定した。
「いや、あれは美晴さんに会いたくて……」
「え?」
中途半端に言葉を切って、健斗が慌てて視線を逸らす。その態度に、以前陽平が教えてくれたことを美晴は思い出した。
「毎週、水曜日には『コンビニの君』に会いたくて、公園前のあのお店に通ってたって、本当?」
「なぜそれを……、って陽平か」
「おにぎりのコーナー、確かにイートインスペースに近かったね。あれっておにぎりじゃなくて、イートインに近付くのが目的だったの?」
「あ、いや、それだとなんかストーカーっぽい……」
今まで気付かなかったことを確認したいだけなのに、質問すればするほど健斗の顔が赤くなり、動揺する。それを見て、美晴はようやく腑に落ちた。
なんでコンビニでぶつかっただけの人に、とっておきのお店を教えようと思ったのか。一緒にご飯を食べに行くことを了承したのか。そして、試しに寝てみようと思ったのか。
付き合っていくうちにほだされたわけではない。それはきっと――。
「私、最初のころから健斗のこと、好きだったんだ」
「え?」
大きく目を見開き、美晴を真っ直ぐ見つめたまま、健斗の動きが静止した。
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