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その11. トライアル始まる

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 ――好きになって欲しいけど、それは俺が努力するので先ずは知り合うところから。

 そう懇願し美晴との交際が始まったはずなのに、あれから二日後の金曜日、健斗の心はすでに暗礁に乗り上げていた。

『お疲れさまです。水曜日の件ですが、19時に予約しているので18:50にコンビニ前で待ち合わせでいいですか?』

 会社のロビー横にある自動販売機。そこに隠れるように身を寄せて、スマホに打った己のメッセージを読み返してため息をつく。

「硬い。硬すぎる……」

 これではまるで取引先の客との打ち合わせだ。自分でもそう思うのだが、これ以上の文章を思い付くことができない。帰宅を急ぐ社員たちの話し声が近付いて、つい反射的に送信ボタンを押す。その途端、冒頭の『お疲れさまです。』が余分だったのではないかと気が付いた。

「あああ……」

 努力とは? どうすれば人は好きになってもらえるのか?

 勢いで突き進んだ分、局面を一つ乗り越えると次になにをどうしたらいいのかが分からなくなる。メッセージ一つ送るのにも、気持ちが右往左往してしまう。

 そんな健斗の心を震わすように、スマホが受信を知らせた。美晴からの返信だ。

『OKです。楽しみにしています』

 そんな言葉と共に、よく分からない犬のキャラクターと背景に『ありがとう!』の文字が浮かんだスタンプ。犬を選んで送っているのは、彼女なりの歩み寄りなのだろう。美晴はやけに健斗の犬のアイコンを気に入っていた。

 彼女の優しさにすがってこのまま一気に会話をはずませ、『水曜まで待てないから土日も会いましょう』だの、『いっそ今日、これから飲みに行きませんか? 』だの出来ればよいが、どう考えてもここで終了した会話をつなぎとめる文章が浮かばない。そのくせ未練がましく駅に向かうこともしないで、こんな場所で立ち止まっている。

「お。ケンケン発見ー。久し振り。その後どうなった? 」
「陽平」

 偶然出会うなら、野郎ではなく彼女のほうが断然良かった。ままならない人生に、健斗はため息をつく。

「なんか今、失礼なこと考えていなかったか?」

 陽平の頬がピクリと引きつった。



 結局そのまま陽平に引きずられて、ロビー奥にある来客用ミーティングスペースで報告をすることになった。

「陽平、コーヒー」
「お。サンキュ」

 陽平がリクエストした缶コーヒーを、健斗が自販機で買って渡す。

「いくらだっけ」
「要らない。先週の店情報とか諸々のお礼」

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