上 下
12 / 85
その4. スパークリング

(2)

しおりを挟む
 店員が頃合いを見計らった様にやって来て、説明を始めた。それを聞きながら、メニューに視線を落とす彼女をそっと見る。真剣にメニューに書かれた内容に目を通している彼女を眺め、ご飯を食べるのが好きな人で良かったと思った。そうでなければ初回でこんな気合の入った店にいきなり誘っても、決して付いてきてはくれなかっただろう。

「お飲み物ですが、いかがなさいますか」
「俺はビールで」
「私は、……スパークリングにします」
「スパークリング・ワイン?」

 飲み物といえばビールしか頭になかったので、つい反射的に聞き返してしまう。

「ビールも好きなんですが、せっかくのフランス料理なのでワインでいこうかと」
「そうか。俺も、そうしようかな」

 ほんの軽い気持ちでそう言ったのだが、美晴の視線が思案するように揺れたのに気がついた。

「それでしたら、ボトル頼んじゃいます?」
「ボトル」
「ビールに比べたら一杯の量が少ないんですよね。多分、すぐ飲んでしまうと思うので、それならボトルの方がいいかと」

 なにか躊躇いがちな表情が気になりつつも、健斗は素直にうなずく。その恵まれた体型ゆえに、学生時代は運動部に所属していた。大学時代に部活仲間に散々酒も鍛えられた健斗にとって、ワインの一本くらいどうということもない。店員にお勧めを訊いてスパークリングを選ぶと乾杯をして、食事が始まる。

 さすが陽平が推すだけあって、店の雰囲気に劣らず料理もなかなかのものだった。とはいえ、健斗に味わう余裕はなく、主に美晴の満足そうな表情でそう判断する。

「穴子、コンビニおにぎりだけじゃなくフレンチここでもメニューにでてきましたね。さすが旬の魚」
「夏が旬なんですか?」
「そうです。これ、穴子と根野菜のコンソメ仕立てって字面だけでも十分美味しそうだけれど、実際食べると出汁が効いて本当に美味しい」
「俺、フランス料理で出汁って考えたことなかったです」
「確かに出汁って言うと、和食っぽいですね」

 そんな風に料理について語りながら一口食べると、漫然と食べていた物の味が広がる。酒と料理に次第に気持ちがほぐれたところで、ようやくお互いの自己紹介が始まった。考えてみると美晴のことは、毎週水曜日にコンビニのイートインコーナーでコーヒーを飲む、という習慣しか知らない。聞いてみると自分より三歳年上で、アウトソーシングの会社に勤めているとのことだった。

「アウトソーシングって?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

やさしい幼馴染は豹変する。

春密まつり
恋愛
マンションの隣の部屋の喘ぎ声に悩まされている紗江。 そのせいで転職1日目なのに眠くてたまらない。 なんとか遅刻せず会社に着いて挨拶を済ませると、なんと昔大好きだった幼馴染と再会した。 けれど、王子様みたいだった彼は昔の彼とは違っていてーー ▼全6話 ▼ムーンライト、pixiv、エブリスタにも投稿しています

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

[R18]年上幼なじみはメロメロです──藤原美也子はトロかされたい──

みやほたる
恋愛
つっけんどんなツンデレ幼なじみお姉さんも、甘々エッチでトロトロに! 「だ、射してぇ……早く射してちょうだい!私のだらしないおっぱい、恭ちゃんのオチン×ンザーメンで真っ白に犯してぇ……!」 「イッた……イキながらイッたぁ……オマ×コ、たぷたぷしてしゃーわせぇ……」 ツンデレヒロインが乱れる姿は最高だーー!! ※この作品はR18作品です。過度な性的描写があることをあらかじめご了承ください

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

処理中です...