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その4. スパークリング

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「こんな素敵なお店に連れてきてもらって、ありがとうございます」

 そう話しかけられて、健斗は慌てて目線を正面に向ける。花柄のワンピースを着た美晴がこちらを見て微笑んでいた。

 健斗が週一で見かける普段の彼女の格好はもっとシンプルで、白いシャツに黒のパンツとか、カーキ色のカットソーに白のスカートとか、モノトーンの組み合わせしか記憶に残っていない。それはそれで彼女のセンスとバランスの良さを感じて好ましいのだが、やはり二人きりで出掛けたときにいつもより華やかな格好をされていると、こちらも嬉しくなる。健斗にとってはそれだけで誘ったかいがあったが、その分不安にもなった。

「あの、迷惑ではなかったですか?」

 陽平にのせられてこんな店まで来てしまったが、元はランチの誘いの代わりの夕飯だった。大事になってしまったような気がして落ち着かない。美晴もその点は同感だったらしく、曖昧な微笑みでやんわりと同意されてしまう。

「正直言うとちょっとびっくりしました。でも素敵なお店なので」

 そこまで言うと美晴が店内を見回す。その目が今までと違い、輝いていた。

「どんな美味しいものが出るのかなって、期待しています」

 その言葉に嘘は無いようで、直前の曖昧な微笑みとは違うふふふという声が漏れてきそうな笑顔に変わっていた。

「ご飯食べるの、好きですか?」
「はい。好きです」
「それならこれからも俺と一緒に食べに行きましょう」

 つい勢い込んで言ってしまう。

「そうですね」

 そんな健斗をさらりとかわし、美晴がグラスの水に口を付けた。その動作だけで、健斗の暴走に止めがかかる。まだ最初の食事をしていないうちからの次の誘いは、さすがに性急過ぎる。数秒前の自分を振り返り、その暴走っぷりが恥ずかしくなって、健斗は視線を落とした。

「先ずはこれからですよね。すみません」

 反省して謝ると、美晴がこらえきれない様子で吹き出す。美晴の笑いのツボが健斗にはよく分からなかったが、でも見ている限り彼女はいつも笑顔だ。健斗にも陽介にも、きっと誰にでも柔らかい笑顔を見せる人。

「本日はご予約をありがとうございました。本日のコースですが……」

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