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【書籍化お礼】初恋未満の淡い恋情のことなど
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俺の胸元でくぐもった声をだし、言いよどむ彩乃。その顔を覗き込んで、視線だけで先を促す。するとようやく観念したのか、俺を見ないように目を逸らしながら語りだした。
「先週の飲み会で結婚を報告したんだけど、そのとき友達に忠告されたの」
「なんて?」
「どちらか一方の愛が重いと、バランス欠いていつか浮気されちゃうわよって」
「浮気? 誰が? どんな理由で?」
これから結婚しようとする友人になんて忠告するんだ。それはどう考えてもただの脅し。酔った勢いで言ったというなら、ただの絡み酒だろう。
「どちらか一方が相手を好きで押し切って結婚した場合、同じように愛を返してこない相手にそのうち不満を持って、押し切った側が浮気をするケースが多いんだって」
「浮気した側の言い訳だよね」
そんな主張を真に受けて、愛する努力を怠ったと反省を促されたら目も当てられない。というかここで気になるのは、彩乃の認識だ。
「もしかして、彩乃から見て俺の方が一方的に好きだと思っている?」
「瑛士だって今さっき、愛が重いって自己申告していたじゃない」
「そうだけど」
苦笑しながら彩乃を見つめる。一方的に彩乃のことを好きな俺はいつか必ずその状態が嫌になり、そのうち浮気をするようになる。そんな脅しをかけられたのか。
「あのさ、確かに俺の愛は重いけど、彩乃だってじゅうぶん同じくらい、俺のこと愛しているだろ?」
「ええっ」
なぜバレたんだ? と言わんばかりに大きく目を見開いて、彩乃が叫び声をあげる。この期に及んでなぜそんな反応をするのか、俺の方が不思議だ。ふうと小さく息を吐くと、俺は彼女と視線を合わせたまま手を握り指をからめ、爪先にそっとキスをした。
「俺が分からないとでも?」
真顔のままそう訊ねてみる。彩乃の頬が見る間に上気して、うろたえたように肩が左右に揺れていた。けれど見開いた目はそのうち徐々に細くなり、満面の笑みへと変わってゆく。彼女の方から俺に近づくと、唇と唇が一瞬だけ合わさる。その感触に浸る間もなく、次は額をこつんとぶつけられた。
「そうだったね。ごめん」
もう言葉はいらない。あらためて俺からキスをすると、絡み合う指も吐息も次第に熱を帯びてゆく。そうしてようやく俺たちは、愛を確かめ合う行為に没頭した──。
ちなみにだけれど。
自分だけではない、彩乃も過去の手紙を全部保管しているということは、ポストカードになりふり構わず気持ちを書いたあの恋文も、きちんと取っておいてあるということだ。
うっかり発掘してしまったそれを見て、不意打ち食らって俺が羞恥の呻き声をあげるのは、それから数年後の話……。
「先週の飲み会で結婚を報告したんだけど、そのとき友達に忠告されたの」
「なんて?」
「どちらか一方の愛が重いと、バランス欠いていつか浮気されちゃうわよって」
「浮気? 誰が? どんな理由で?」
これから結婚しようとする友人になんて忠告するんだ。それはどう考えてもただの脅し。酔った勢いで言ったというなら、ただの絡み酒だろう。
「どちらか一方が相手を好きで押し切って結婚した場合、同じように愛を返してこない相手にそのうち不満を持って、押し切った側が浮気をするケースが多いんだって」
「浮気した側の言い訳だよね」
そんな主張を真に受けて、愛する努力を怠ったと反省を促されたら目も当てられない。というかここで気になるのは、彩乃の認識だ。
「もしかして、彩乃から見て俺の方が一方的に好きだと思っている?」
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「そうだけど」
苦笑しながら彩乃を見つめる。一方的に彩乃のことを好きな俺はいつか必ずその状態が嫌になり、そのうち浮気をするようになる。そんな脅しをかけられたのか。
「あのさ、確かに俺の愛は重いけど、彩乃だってじゅうぶん同じくらい、俺のこと愛しているだろ?」
「ええっ」
なぜバレたんだ? と言わんばかりに大きく目を見開いて、彩乃が叫び声をあげる。この期に及んでなぜそんな反応をするのか、俺の方が不思議だ。ふうと小さく息を吐くと、俺は彼女と視線を合わせたまま手を握り指をからめ、爪先にそっとキスをした。
「俺が分からないとでも?」
真顔のままそう訊ねてみる。彩乃の頬が見る間に上気して、うろたえたように肩が左右に揺れていた。けれど見開いた目はそのうち徐々に細くなり、満面の笑みへと変わってゆく。彼女の方から俺に近づくと、唇と唇が一瞬だけ合わさる。その感触に浸る間もなく、次は額をこつんとぶつけられた。
「そうだったね。ごめん」
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ちなみにだけれど。
自分だけではない、彩乃も過去の手紙を全部保管しているということは、ポストカードになりふり構わず気持ちを書いたあの恋文も、きちんと取っておいてあるということだ。
うっかり発掘してしまったそれを見て、不意打ち食らって俺が羞恥の呻き声をあげるのは、それから数年後の話……。
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奨励賞おめでとうございます✨️
番外編も嬉しいです!続きを待っています💕
ありがとうございます!
お祭期間中も、作者が一番楽しんだ!と言い切れるほど楽しみましたー。とっても充実しておりました。