37 / 40
【書籍化お礼】初恋未満の淡い恋情のことなど
(5)
しおりを挟む
にこやかな雰囲気を保ちつつも、納得がいかなくて確認したいといった表情。それに戸惑いつつも、俺はあえて茶化して誤魔化す道を選択する。特に秘密にするつもりはなくても、恋人に対してわざわざ報告するほどでもないことだってある。そのくらいの気持ちだったが、振り返ると確かに俺はこの瞬間、彩乃に秘密を作ろうとしていた。
「また聞く?」
「だって瑛士、話逸らしたでしょ」
なんだか今日の彼女は妙に突っかかってくる感じだ。
「どうしたの、彩乃。先週なんかあった?」
俺が実家に行っていた先週土曜日、彩乃は学生時代の友達と久しぶりの女子会だと言っていたはずだ。なにがあったのかと一気に真顔になる俺を見て、今度は彩乃が慌てる番だった。
「普通に友達と飲んでいただけだって。それよりもさっきから、瑛士に話はぐらかされ続けている気がするんですけど。そんなに私には隠しておきたいようなもの、持ってきたの?」
「そんなんじゃないよ」
すかさず否定したら、さらにまた胡散臭そうな目で見つめられた。おかしい。初っ端でつい微妙な態度を取ってしまったせいで、なんだかどんどんとおかしな方向に話が向かって行っている気がする。
「瑛士が胡散臭い笑顔を見せるときは、なにか誤魔化したいときなんだなって最近分かって来たよ」
「恋人に向かって胡散臭いだなんて、酷い」
わざと傷心の表情で言ってみたけれど、逆効果だったようだ。一瞬だけ彩乃の眉が寄って、目付きが険しくなる。
「ねえ、瑛士」
俺の目をまっすぐ見つめた彩乃が、静かに呼びかける。
「こんな時期だから、隠し事は無しにしてほしいの」
──そして場面は冒頭に戻る。
息を吐き出し顔を上げると、彩乃と視線がかち合った。至近距離で見つめれば、瞳の奥に浮かんでいるのは不信感ではなくて不安感。
そうだよな。過去の失恋から一生独身と決意した彼女をつかまえて、結婚しようと言ったのは俺の方。彼女の人生を大きく変えさせることをしているにもかかわらず、些細なことと切り捨てて、彼女の心をないがしろにするところだった。
「怒らないから、白状して」
「なんか……、エロ本隠している中学生男子にでもなった気分だ」
「なにそれ?」
ふっと彩乃が吹き出して、緊張感が一気に崩れる。そんな彼女の笑い顔に、愛おしさがこみ上げた。
「ねえ彩乃、キスしていい?」
「また聞く?」
「だって瑛士、話逸らしたでしょ」
なんだか今日の彼女は妙に突っかかってくる感じだ。
「どうしたの、彩乃。先週なんかあった?」
俺が実家に行っていた先週土曜日、彩乃は学生時代の友達と久しぶりの女子会だと言っていたはずだ。なにがあったのかと一気に真顔になる俺を見て、今度は彩乃が慌てる番だった。
「普通に友達と飲んでいただけだって。それよりもさっきから、瑛士に話はぐらかされ続けている気がするんですけど。そんなに私には隠しておきたいようなもの、持ってきたの?」
「そんなんじゃないよ」
すかさず否定したら、さらにまた胡散臭そうな目で見つめられた。おかしい。初っ端でつい微妙な態度を取ってしまったせいで、なんだかどんどんとおかしな方向に話が向かって行っている気がする。
「瑛士が胡散臭い笑顔を見せるときは、なにか誤魔化したいときなんだなって最近分かって来たよ」
「恋人に向かって胡散臭いだなんて、酷い」
わざと傷心の表情で言ってみたけれど、逆効果だったようだ。一瞬だけ彩乃の眉が寄って、目付きが険しくなる。
「ねえ、瑛士」
俺の目をまっすぐ見つめた彩乃が、静かに呼びかける。
「こんな時期だから、隠し事は無しにしてほしいの」
──そして場面は冒頭に戻る。
息を吐き出し顔を上げると、彩乃と視線がかち合った。至近距離で見つめれば、瞳の奥に浮かんでいるのは不信感ではなくて不安感。
そうだよな。過去の失恋から一生独身と決意した彼女をつかまえて、結婚しようと言ったのは俺の方。彼女の人生を大きく変えさせることをしているにもかかわらず、些細なことと切り捨てて、彼女の心をないがしろにするところだった。
「怒らないから、白状して」
「なんか……、エロ本隠している中学生男子にでもなった気分だ」
「なにそれ?」
ふっと彩乃が吹き出して、緊張感が一気に崩れる。そんな彼女の笑い顔に、愛おしさがこみ上げた。
「ねえ彩乃、キスしていい?」
34
お気に入りに追加
311
あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。