極上エリートの甘すぎる求愛に酔わされています～初恋未満の淡い恋情は愛へと花開く～

【書籍化お礼】初恋未満の淡い恋情のことなど

（４）

　この川沿いに建つ高層マンションは元々は兄の持ち家で、今の俺はそこに間借りしている。彩乃と共にここに住めばよいという兄の誘いもあったが、それは遠慮して新しい住処を探すことにした。見つけたのは同じ沿線の、十駅ほど先の街に建つマンションだ。今度のマンションは低層階しかない。高層階にありがちな、エレベーターを無駄に待つフラストレーションから解放されるので選んだ物件だった。

「そういえば瑛士の実家の荷物整理、どうだった？」

　バッグをリビングのソファーに置くと、二人して部屋に向かう。パジャマを取りに行くのが目的だったけれど、ドアを閉めると欲望が高まった。二週間ぶりに会う彼女に早く触れたくて、そっと手を取る。

「うん。それよりも」
「駄目だよ。話を聞かせて？」

　ベッドへ誘導しようとしたけれど、くすくすと笑いながらその手を外されてしまった。彩乃はそのままデスクチェアに座ったので、俺はベッドに腰を下ろし彼女と向き合う。

　先週彩乃がここに泊まりに来られなかったのは、俺が実家に泊りがけで行ったからだ。新居を構えるなら、実家に置きっ放しになっている俺の物を整理するようにと親から厳命されたんだった。大学から留学をし、そのあと就職先に合わせて一人暮らしをしていたせいで、実家に残している荷物はそう多くはない。とはいえそれまでのものはすべて自分の部屋を物置代わりにして置いてあるので、確かに整理は必要だった。

「俺の部屋は親父の趣味部屋に改装したいんだって。新居に持っていけるものは持っていって、残ったものはいつでも捨てられる覚悟で残せって言われた」
「うわ、厳しいね。それじゃあ瑛士、なにか持ち帰ってきたの？」

　無邪気に聞かれて一瞬言葉に詰まり、それから取り繕うように笑顔を向ける。思えば、これがいけなかった。

「たいしたものは無かったかな」
「そうなんだ」
「彩乃も部屋の整理をするんだろ？　お互い、荷物を新居に運ぶのをどうするか、段取りを考えなくちゃな」
「私の方は、大丈夫。今使っている部屋を明け渡す予定は無いし。なにかあったら電車で取りに行ける距離だしね。今回の引っ越し荷物も、宅配で送るだけで済んじゃう」

　そこまで言うと、首を傾げてこちらを覗き込んできた。

「それで、なにか持ち帰ってきたの？」