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お礼ss
顔合わせ (3)
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ぼそりとしたその言葉に、恒もぼそりと言い返す。
「サバンナのチーターかよ」
「うるさい」
明らかにむっとした、美央里の声。その反応に、恒は少し安心した。自分のしていることの虚しさは、分かっているのだろう。今更、初恋が成就するとは思っていない。とはいえ、まだくすぶっている情熱をどうしていいのか扱いあぐねている。そんな気持ちが透けて見える。それならば同期の仲間のよしみとして、気持ちに踏ん切りがつくのを見守ってやるだけだ。
「なあ本橋、これ終わったら」
「ちょ、来たっ」
「え? 誰?」
「大浦さんに決まってるでしょ!」
そう言って真剣に見つめる視線の先をたどってゆけば、そこに見知った大浦の姿があった。駅ですでに待ち合わせたのだろう女性とこちらに向かい、広場のモニュメントの横で立ち止まる。連れの姿は大浦の影に隠れて顔までよくは見えないが、彼の表情からそれが件の婚約者であることが容易に推測された。普段から人当たりの良い大浦だが、そんな対外的な笑顔とは違う、柔らかい表情で相手を見つめている。
「あんな顔するんだ」
思わず恒がつぶやいたら、コーヒーカップがテーブルに手荒く降ろされる音が隣から聞こえ、ビクリとした。
「なんか、大浦さんの相手にしては地味すぎない?」
「本橋ぃー」
諌める口調で恒が呼びかけるも、逆にギロッと睨まれて口をつぐむ。
「だって、もったいないじゃない。あんないい男をなんでぽっと出のそこら辺の女にかっ攫われなくちゃいけないわけ?」
「お前なぁ、言い過ぎだぞ」
「いいでしょ。大浦さんの隣に立つに相応しい相手なのかどうか、見極めているだけなんだから」
そう言い切る美央里の表情が荒んでいる。振られて自尊心を木っ端微塵にされて、それでも振られた相手に未練を残し、相手を嫌いになることもできない代わりにその交際相手に毒を吐く。普段のすまして取り繕った顔よりよっぽど面白くはあったが、これ以上荒ぶられても恒も迷惑なだけだ。
「本橋だって見た目はいいんだから、そんな毒吐いてないで別のいい男見つけろよ」
「本橋『だって』? 『見た目は』いいんだからぁ?」
あ、しまった。
心の中でそうつぶやいて首をすくめたが、すでにもう遅かった。美央里の攻撃目標は恒に向けられた。
「私の見た目は私のためにあるの。私に釣り合う男として大浦さんを好きになったのに、それが駄目だったからってなんで自分の見た目をひけらかして他の男を見つけなきゃいけないわけ?」
「いや、別にひけらかさなくていいから。な?」
「ほんと、男って信用ならない。人の見た目を褒めそやかして付き合い始めるくせに、結局は浮気だの好きな子ができただの言って別れを切り出してきてくるのよ。最後に選ぶのはいつも私より見劣りする娘ばっかり」
「あー、それはもはや別の話で……」
「たまには私が素直に負けを認めるくらいのいい女を捕まえてこいっつーの」
「サバンナのチーターかよ」
「うるさい」
明らかにむっとした、美央里の声。その反応に、恒は少し安心した。自分のしていることの虚しさは、分かっているのだろう。今更、初恋が成就するとは思っていない。とはいえ、まだくすぶっている情熱をどうしていいのか扱いあぐねている。そんな気持ちが透けて見える。それならば同期の仲間のよしみとして、気持ちに踏ん切りがつくのを見守ってやるだけだ。
「なあ本橋、これ終わったら」
「ちょ、来たっ」
「え? 誰?」
「大浦さんに決まってるでしょ!」
そう言って真剣に見つめる視線の先をたどってゆけば、そこに見知った大浦の姿があった。駅ですでに待ち合わせたのだろう女性とこちらに向かい、広場のモニュメントの横で立ち止まる。連れの姿は大浦の影に隠れて顔までよくは見えないが、彼の表情からそれが件の婚約者であることが容易に推測された。普段から人当たりの良い大浦だが、そんな対外的な笑顔とは違う、柔らかい表情で相手を見つめている。
「あんな顔するんだ」
思わず恒がつぶやいたら、コーヒーカップがテーブルに手荒く降ろされる音が隣から聞こえ、ビクリとした。
「なんか、大浦さんの相手にしては地味すぎない?」
「本橋ぃー」
諌める口調で恒が呼びかけるも、逆にギロッと睨まれて口をつぐむ。
「だって、もったいないじゃない。あんないい男をなんでぽっと出のそこら辺の女にかっ攫われなくちゃいけないわけ?」
「お前なぁ、言い過ぎだぞ」
「いいでしょ。大浦さんの隣に立つに相応しい相手なのかどうか、見極めているだけなんだから」
そう言い切る美央里の表情が荒んでいる。振られて自尊心を木っ端微塵にされて、それでも振られた相手に未練を残し、相手を嫌いになることもできない代わりにその交際相手に毒を吐く。普段のすまして取り繕った顔よりよっぽど面白くはあったが、これ以上荒ぶられても恒も迷惑なだけだ。
「本橋だって見た目はいいんだから、そんな毒吐いてないで別のいい男見つけろよ」
「本橋『だって』? 『見た目は』いいんだからぁ?」
あ、しまった。
心の中でそうつぶやいて首をすくめたが、すでにもう遅かった。美央里の攻撃目標は恒に向けられた。
「私の見た目は私のためにあるの。私に釣り合う男として大浦さんを好きになったのに、それが駄目だったからってなんで自分の見た目をひけらかして他の男を見つけなきゃいけないわけ?」
「いや、別にひけらかさなくていいから。な?」
「ほんと、男って信用ならない。人の見た目を褒めそやかして付き合い始めるくせに、結局は浮気だの好きな子ができただの言って別れを切り出してきてくるのよ。最後に選ぶのはいつも私より見劣りする娘ばっかり」
「あー、それはもはや別の話で……」
「たまには私が素直に負けを認めるくらいのいい女を捕まえてこいっつーの」
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