28 / 40
お礼ss
顔合わせ (1)
しおりを挟む
二月の第四週金曜日。雁野 恒はオフィスビルのエレベーターを降りたところで、足を止めた。今は十八時過ぎ。帰宅しようと出口に向かう人たちの中、ひとりの女性が目に入ったのだ。
キャメル色のチェスターコートからのぞくグレーのパンツスーツ。足元は五センチヒールのパンプス。ゆるく巻かれた髪は肩くらいの長さで、髪型や化粧の仕方でフェミニンさを演出している。いかにも隙の無い、出来る女の佇まい。同期入社の本橋 美央里だった。
「本橋、久し振りだな」
近付くと、あえて明るく声をかける。同期で以前は同じ部署にいたとはいえ、現在は仕事上の接点はない。気付かない振りをして通り過ぎても良かったのだが、物思いにふける彼女の表情がなんとなく気になった。
「雁野君」
名前を呼んだところで言葉を切られ、しばらく黙ったまま見つめられる。それから決意したようにくいっと顎が上がって誘われた。
「ちょっとお茶、付き合ってくれない?」
妙に挑戦的な美央里の目つき。この瞬間、厄介ごとの中に自ら踏み込んでしまったことに、恒は気が付いた。
◇◇◇◇◇◇
二十分後、駅ビルの一階。ベーカリーショップのイートインスペースで、コーヒーを飲む恒と美央里がいた。このショップは駅入り口のすぐ横にあり、カウンター前のガラス窓からは人通りを眺めることができる。そして目の前のロータリ広場では、待ち合わせをする人たちがそこかしこにいた。
「で、最近どうよ雁野君」
カウンターに二人並び、雑な口調で美央里が聞く。その目はしっかりと外を行き交う人々をチェックしていた。
「どうよって?」
「近況報告よ。元気?」
「まあね」
なんでこんなことになってしまったのか。げんなりとしながら恒はコーヒーをすすり、腕時計をちらりと眺めた。今は十八時四十三分。美央里の情報だと、目的の人物がこの広場で待ち合わせをする約束の時間まで、あと十七分ある。
「あのさ、まだ時間じゃないんだから、そんなに今から真剣に見張ってなくていいんじゃね?」
「見張りって、なによ。私はただ、同期の仲間とここでコーヒー飲んでくつろいでいるだけでしょ」
「はいはい。で、俺と喋っていたら、偶然そこの広場で誰かと待ち合わせしている大浦さんを見つけるんだろ」
社内で『クールなイケメン』、『抱かれたい若手上司ナンバーワン』と言われている大浦 瑛士が結婚すると公言したのは去年の暮れ。その情報は大浦の後輩であり、大浦をこよなく敬愛する恒によって、せっせと広められた。
キャメル色のチェスターコートからのぞくグレーのパンツスーツ。足元は五センチヒールのパンプス。ゆるく巻かれた髪は肩くらいの長さで、髪型や化粧の仕方でフェミニンさを演出している。いかにも隙の無い、出来る女の佇まい。同期入社の本橋 美央里だった。
「本橋、久し振りだな」
近付くと、あえて明るく声をかける。同期で以前は同じ部署にいたとはいえ、現在は仕事上の接点はない。気付かない振りをして通り過ぎても良かったのだが、物思いにふける彼女の表情がなんとなく気になった。
「雁野君」
名前を呼んだところで言葉を切られ、しばらく黙ったまま見つめられる。それから決意したようにくいっと顎が上がって誘われた。
「ちょっとお茶、付き合ってくれない?」
妙に挑戦的な美央里の目つき。この瞬間、厄介ごとの中に自ら踏み込んでしまったことに、恒は気が付いた。
◇◇◇◇◇◇
二十分後、駅ビルの一階。ベーカリーショップのイートインスペースで、コーヒーを飲む恒と美央里がいた。このショップは駅入り口のすぐ横にあり、カウンター前のガラス窓からは人通りを眺めることができる。そして目の前のロータリ広場では、待ち合わせをする人たちがそこかしこにいた。
「で、最近どうよ雁野君」
カウンターに二人並び、雑な口調で美央里が聞く。その目はしっかりと外を行き交う人々をチェックしていた。
「どうよって?」
「近況報告よ。元気?」
「まあね」
なんでこんなことになってしまったのか。げんなりとしながら恒はコーヒーをすすり、腕時計をちらりと眺めた。今は十八時四十三分。美央里の情報だと、目的の人物がこの広場で待ち合わせをする約束の時間まで、あと十七分ある。
「あのさ、まだ時間じゃないんだから、そんなに今から真剣に見張ってなくていいんじゃね?」
「見張りって、なによ。私はただ、同期の仲間とここでコーヒー飲んでくつろいでいるだけでしょ」
「はいはい。で、俺と喋っていたら、偶然そこの広場で誰かと待ち合わせしている大浦さんを見つけるんだろ」
社内で『クールなイケメン』、『抱かれたい若手上司ナンバーワン』と言われている大浦 瑛士が結婚すると公言したのは去年の暮れ。その情報は大浦の後輩であり、大浦をこよなく敬愛する恒によって、せっせと広められた。
12
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。